特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第20話:勇者

 天から、魔の軍勢が来たる。

 

 ゴブリン、オーク、オーガ。空を埋め尽くす青銅の鳥。

 

 布陣こそ以前と同じだが、その性質は似て非なるものだ。

 

 統率された行軍。

 

 個々の咆哮はなく、ただ地響きだけが重く響く。

 

 知性なき獣には不可能な、洗練された殺意の塊。

 

 事ここに至って、もはや疑いの余地はない、 それは逃亡者の群れではない。

 

 明確な指揮系統を持った、侵略のための軍隊だった。

 

 誰かによって指示を受け、技術を供与され、装備を手に入れた化け物の群れ。

 

 銃では止まらず、超人の力がなければ手出しもできぬような超自然生物たちはこの世のどんな軍よりも質が悪い。

 

 オーク以上の個体は、ミサイルの直撃ですら、たやすく受け止めるだろう。

 

 日輪が闇に消えゆく中で、魔の軍勢が町を蹂躙する。

 

 ゆえに、彼らは効率的かつ、徹底的に民衆を攻撃し町を蹂躙する。

 

 人の肉を食い荒らし、建物をたわむれに粉砕する。

 

 そのために、オークとゴブリンが、そして、何よりもオーガが町を闊歩する。

 

 それを、3つの影がせき止める。

 

 柔らかい肉を求め、人のにおいを追跡するけだもの共のすぐ脇、光のない闇の中に、薄青色の閃光が走る。

 

 次の瞬間、首から血とは思えぬほどろついた液体を噴き出しつつ、その道行に存在した魔性の者どもが消滅する。

 

「――ススキ通り排除完了、そっちは?」

 

『もうじきH21の脇で民間人四名、回収作業と並行してゴブリン排除、人が風で送れんの本当楽。』

 

『オーガ6体目……これ何体降りてきてんだっけ。』

 

「前回と同じなら8体でしたっけね。」

 

『ですね、残り2体、民間人活動範囲内にはいません、あ、古巣のヒーロー現着ですって。』

 

「誰です?」

 

『堀田さん。』

 

「あー……ジャンプ系ですか、向こうの勇者は?」

 

『戦闘範囲には確認できませんけど。』

 

『たぶんしばらくこねぇんじゃねぇかな。』

 

「了解でーす。」

 

 民間人の避難は順調、温度感知に反応する範囲において、犠牲者は少ない、死者はいない……はずだ、こちらが読みぬけていなければ。

 

 とはいえ、こちらで確認できる範囲で確保できている民間人はこれで3分の2、以前と同じように御影に作り出された障壁の裏側に逃がしてこそいるが、敵方が飛行型を増やす速度が速い。

 

『やっぱり学習されてるぽいですね。』

 

『ぽいなぁ。』

 

 先立っての戦闘で、民間人を風で避難させたのが気づかれている。

 

 そして、青銅の鳥にそのような学習能力はない、そもそも、こちらの次元に来たモンスターは向こうの次元との連絡手段を持たないのだ。

 

 魔人のような生物はともかく、知性の低いモンスターたちにとって、この移動は帰り道無しの片道切符だ。

 

 そんな場所に、これほどまでに大量の生物が送れるとなると――

 

 その時だ、天上の魔法陣は再びの明滅を引き起こし――そこから現れるのは巨岩だ。

 

 いや、それはただの岩ではない。よく見ると生き物の足のような形をしている。

 

 岩石兵、あるいは、この次元において、ストーンデビルと呼ばれる化け物の化身、岩の悪鬼。

 

 それが、今まさに、天頂高く現れ、その巨大質量を隕石のように地面に向けて落下させんとしている。

 

 そして、その肩に。

 

「戦力は一気にぶつけるべき……人間ごときに兵法など使いたくもないが……同じミスを2度もするわけにもいかんからな。」

 

 そう、うそぶくものが、いた。

 

 拡張されたヒーローの視覚ですら、かすかにとらえられぬその姿は、人の者ではない。

 

 赤い肌、紫の唇、ベージュの瞳、そそり立つ角――

 

「――四天王が一人、『崩拳』のインジェワの前に首を差し出せ、人もどき共。」

 

 にやりと、三日月を思わせる口で、男は哄笑を上げ――

 

「――ほんま、どうやってんのやろなぁ、これ。」

 

「――!」

 

 ――乗っていた方から、泡を食って飛びのいた。

 

 スパン!と小気味のいい音が、響いた。

 

 一見、何も起きていないかのように、人々の目には見えたことだろう、ただほんの一瞬、空中で敵が固まっただけのように見えたことだろう。

 

 そして、次の瞬間、天頂に鬼火がともる。

 

 ()()()()()()()

 

 縦に二つに割られた岩が、二つに分かれて()()()

 

「――っち!」

 

 魔人、インジェワは舌打ちを漏らす――まったく忌々しい、これほどの火力、間違いなくヒーロー共ではあるまい。

 

 可能性があるとすれば――

 

「――上空は基本的に魔物が出現すると航空機が逃げるから思いっきりぶちかましてもええいうから本気で切ったけど……案外逃げ足早いんやねぇ?」

 

 けらけらと笑いながら、自分が着地した屋上に声が響く。

 

 振り返らずとも、この自信に満ちた声だけでわかる、声の主は――

 

「勇者……!」

 

「あんじょうおおきに――早速やけど死んでくれる?邪魔やねんあんた。」

 

 そういいながら、赤い髪をぶら下げた少女――黒土灯はにこやかに笑った。

 

 

 

 

 少女は部屋の中でもらった色紙の入った額縁を抱えて震えるしかなかった。

 

 さっききた避難警報では自宅はギリギリ範囲に入っていなかったはずなのに、なんでここに化け物がいるのだろう?

 

 まったく理解できない、理解できないが……恐ろしいことが起こっていることだけはありありとわかった。

 

 窓の外に揺れる影が、人の物ではないと気が付いた時に、もう彼女は限界だった。

 

 母は恐怖で意識を失い、父は震えながら必死に母を抱き起して自分を抱きかかえている。

 

 逃げられようもない、外にいるのはうわさに聞くオーガとやらだ、間違いなく逃げたらひき肉にされる。

 

 ネットで見た情報が脳裏を駆け巡る――女は慰み者にされて男は食われると聞いていた。

 

 本当かどうかは知らない、知らないが――恐ろしい事だけはわかった。

 

 何とかしないと、何とか、何か……誰か……?

 

 誰か?

 

 思い出す、いつだか、クラスのグループチャットに走った連絡先。

 

 震える手でスマホを取り出す、まずいことかもしれないとよぎった言葉は、しかし、もう恐怖で何もわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

「っちぃ……!」

 

 舌打ちが漏れる、魔人の高耐久の肉体も、勇者の斬撃は止められない。

 

 何処から取り出したのか、妙な形の剣を持った赤髪の女は、一太刀で自分の防御を切り裂く。

 

 幸いなのは、妙なほど戦闘経験がないことだ、フェイントによく引っ掛かり、回避も大げさ――とはいえ、これは決定的な欠点とは言えない。

 

 そう考えた男に、しかし、勇者の凶刃は容赦なく降り注ぐ。

 

 1度しか振っていないように見えるのに、複数の斬線が空中を舞う――戦闘型勇者というやつは!

 

 追い詰められている――その時だ、男の脳裏にある情報が思い出されたのは。

 

「――待て勇者!いいのか!?貴様の友人が死ぬぞ!」

 

「――はぁ?友達?誰やねん。」

 

 一瞬、勇者が怪訝な顔をする――止まった、やはりだ、実戦経験が足りていない、こんな与太事で止まるとは。

 

「ふっ、本当にそうか?思い出せ、一人ぐらいはいるだろう?」

 

「いや、おらんけど。」

 

 そういって、勇者が刃を振りかぶる――っち、人格破綻者共が!

 

 舌打ちを漏らし、回避を行おうとしたその時――女の耳元で何かが叫んだ。

 

『―――黒土さん、助けて!』

 

「――はっ?」

 

 驚いたような口調で、勇者の脚が止まった。

 

「ちょ、なんであんたこの番号知って――」

 

『くらす!クラスのラインで!流れてたから!』

 

「はぁ?うちそんなもん流して――」

 

『待って、お願い!助けて、いえ、家の外に、オーガがいて!逃げられなくて!』

 

「――ちょ、ちょ、待ちって、何、どこに――」

 

『ごめんなさい!忙しいってわかってるの!ごめんなさい!ごめんなさい!』

 

 助けて!

 

 そういって、電話が切れた。

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