特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第21話:魔人の眼前

 ――友達、というほど、仲が良かった覚えはない。

 

 というか、ほとんど話した覚えもない、ただの他人だ、そう割り切っても、たぶんよかった。

 

 以前の――というか勇者になりたての自分なら、たぶん切って捨てていたと思う。

 

 今だって、そうするべきだと勇者としての自分がささやいている。

 

 だってそうだろう?この体は、自分は、黒土灯は家族だけが大事なのだから。

 

 それが自分だ、断言してもいい、姉と、母と、妹がいる。それだけで、自分は十分なのだ、それでいい。

 

 そもそも、あの子は名前すら知らない、どこに住んでいるのかも、どんな交友関係かも、家族構成だって知らない。

 

 だから、見捨てたって気にならない。

 

 だから見捨てる、それでいい。

 

 それで、いいはずなのに……

 

 なぜか、黒土灯の体が完全に凝固する。

 

 一瞬の逡巡が彼女の体を止めた。

 

 もし、もしも、自分が、助けに行かなければ、あの子は――どうなるのだろう?

 

 そう、考えてしまった。

 

 つい数日前まで会話したことすらないあの子だった、死んだって何も気になるはずがないあの子だった、同じクラスに偶然なって、自分の立場を利用してあこがれの人間から、サインをもらっただけの女、それだけの、関係、そのはず。

 

 だけど。

 

『すごいことしてるんだから』なんて、勇者になってから言われたこともなかったから。

 

 いつだって『勇者なんだから』と『勇者だもんね』と、そう言われ続けてきた彼女に、あの子は『あなたもすごいことをしている』とそう言ったのだ、当たり前のことではないと。

 

 それが、確かにうれしかったから。

 

 だから、魔人を攻撃する手が止まる。

 

 助けに行くべきなのでは?と、勇者になった瞬間に消え去ったはずの何かがささやく。

 

 勇者の優れた超感覚は、先ほどの悲鳴がどこから来たものかすぐに割り出せる、今から、自分が駆けだせば、数秒で片が付く、確信している。

 

 だが……だが、いいのか?魔人が目の前にいるのに、自分がいなくなって。

 

 冷静に考えろ、ほかにも浮いている駒がいるのだ、そいつらに任せればいい、あの模造品たちにだってそれぐらい……

 

 ――でも、もし、あの3人に任せたら間に合わないかもしれない、自分ほど、あの3人は早くないから。

 

 もし、オーガを倒すのに手間取ったら、あの子は死んでしまうかもしれない。

 

 もし、彼女が死なずとも、家族に危害が及ぶかもしれない。

 

 そうなったとき、自分は――どうすればいいのだろう。

 

 わからない、わからない、何とかしないといけないのに、何も思いつかな――

 

『――行きなさい、黒土さん。』

 

 声がした。

 

『友達なんでしょう、行きなさい、助けてと言われたのなら、それをこなしなさい。』

 

 ――――3連――――

 

『君に助けを求めて来た誰かを、見逃せば、あなたは二度と後戻りできなくなる、堕落して、凋落の一途をたどる、きっと周りを巻き込んで、だから――』

 

 ―――――――穿孔――――――――

 

『――行きなさい、その魔物もどきはこっちで面倒見ますよ。』

 

 ―――――――――キック!――――――――――――

 

 直後、砲弾が魔人に着弾した。

 

 人型、蹴り足を前に出したそれは、風によって足された回転力を込め、ため込んでいた衝撃をいかんなく敵の体にぶちまける。

 

 魔人の体が、大きく跳ねた。

 

 屋上唯一の出入り口を粉砕し、次の建物をぶち抜いて、地面に。

 

「――ぁ。」

 

 銀灰色の背中が、そこに在った。

 

「――行け、黒土灯。」

 

 翡翠色の背中がそう言った。

 

「こいつは僕らが始末する。だから――」

 

 薄青色に発光する銀の肉体が弾かれたように駆け出した。

 

「――君が必要とされている場所に、急げ!」

 

 その叫びと、黒土灯が地面を蹴ったのは同時だった。

 

 蹴り足の感覚は間違いなく最高の物だったと断言できる、この前叩き潰したあの岩の化け物への一撃よりも完璧な一撃。

 

 その成果は――あまり、芳しいとは言えなかった。

 

「――なるほど、貴様らが先だって勇者抜きで岩石兵を叩き潰した連中か、なるほどなるほど。」

 

 艶やかな声が、灯の立ち去った後の屋上に響く。

 

 魔人の、声。

 

 まるで艶やかな糸のように、1本筋の通った声が、戦場に似つかわしくもなく響く。

 

 その姿は、コンクリート製の建物を2つ叩き潰したというのに、依然変わりなく健在だった。

 

 赤の肌、ベージュの瞳、角……考えるまでもない魔族の特徴、それを全開にして、その男はそこに立っている。

 

「――大したものだ、その程度の零落した力でよくもまあこれほどの威力が出せるものだ。」

 

 そう、称賛する声を発するその姿は、しかし、どこか以前までとは違う――腕が1本、力なくぶら下がっている。

 

 これが、3人の放った最大攻撃の『成果』だった。

 

 これまで有史以降、誰も成し遂げていない偉大な成果だ――そして、同時に、これが、彼らの限界なのだ。

 

 最大威力だった、防がれたはずもない、断言してもいいがあれ以上の一撃をかますことはできない。

 

 だというのに、魔人は威風堂々とその場にそそり立ち、3人に告げる。

 

「――さて、何もないのなら次は私が動き出そう」と。

 

 それが、開戦の合図だった。

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