恐怖と疑心が入り混じった視線が注がれる中、扇雄介――夜空の青を湛えた『人の原質』は、中空に漂ったまま、困ったように頭の後ろを掻く仕草をした。
「この格好で信用してくれとも言わんよ。異星からの来訪者でも、血の底から現れた地底人でも、鏡の世界からの来訪者でも、好きに呼んでくれて構わん。今回はこいつが殺されんために出て来ただけだ」
そういって、背後の、液体の中に浮かぶ生首を叩く。
「……つまり、その妖霊の仲間か?」
「そう見えるか? 助けもせずにここに放置してるのに?」
扇雄介の飄々とした返しに、問いを発した官僚らしき男は言葉に詰まった。
実際、彼らの言う通りだ。先ほど、あの紫の瘴気を纏った女――桜花乱舞がこの隔離カプセルを両断しようとしたまさにその瞬間、この三体は現れた。だが、妖霊を助け出して逃がすそぶりも見せず、ただ刃から「守った」だけ。
その態度は、仲間を救出しに来た者のそれとは決定的に異なっていた。
「だ、だったら……なぜそいつを刃から守った! お前たちの目的は何なんだ!」
恐怖と疑心暗鬼が限界を超え、今にも千切れそうな声で絞り出された官僚の問い。
「公聴会を続けてほしい――と言ったら信じるか?」
それは誰にとっても予想外の一言だ。
突如として現れ、明らかに尋常の力を超えた様子のヒーローの一撃を防いだ三体の異形が――なぜ、公聴会を続けさせたい?
「なぜと思ってるのはわかるが――先も言ったが、僕らはこの世界に生きてる、この世界が平和になってほしいと思ってるし、そのために情報が欲しいと思っているのなら、それの手伝いくらいはするさ」
一瞬、空気が固まる――それはまるで青天の霹靂だ。
魔物にしか見えぬ者が突然現れ、ヒーローだった女が放った攻撃を防ぎ、あまつさえ自分たちの利益になることをするという。
官僚たちの心境には劇的な変化が訪れていた。
彼らにとって勇者とは、法が及ばず人間を搾取する怪物に他ならない。あの築造の勇者の一件でさえ、国家は自力で制御できず事後処理を行うしかなかった。
だが今、いかなる加護も持たない目の前の異形たちが、その勇者の暴威を完璧に封じ込めている。いや、それだけではない。誇り高く、決して人間には屈しなかったはずの閃槍の勇者ですら、彼らとの実力差を正確に測り、自ら矛を収めたのだ。
この事実は、議場にいるすべての権力者たちに一つの『可能性』を提示した。
もしこの「圧倒的な力」を盾にして公聴会を続行し、勇者にとって致命的な事実を引き出せれば……長年続いてきた人間と勇者の絶対的なパワーバランスを、根底から崩せるかもしれない。
死の恐怖のどん底にありながらも、政治の場に身を置いてきた官僚たちの脳髄で、狡猾な計算が猛烈な勢いで働き始める。
「……議長」
沈黙を破ったのは、ひな壇の片隅で静かに状況を観察していた一部の議員だった。彼らの目には、恐怖を越えた冷徹な野心が宿っていた。
「彼らの言葉が真真実かはわかりません。ですが……あの妖霊から証言を引き出さねば、真実は闇の中です。ここで中止すれば、不当な圧力が成功したと世間から見なされましょう」
限界ギリギリの建前。
議長は青ざめた顔で何度か深呼吸をし、机の端を白くなるほど強く握りしめながら立ち上がった。
「……こ、公聴会を……再開する……っ! 警備の者は、そのまま待機せよ! 勇者殿たちも……どうか、武器を収められたし!」
議長の震える声が、沈黙の議場に響き渡った。法すら届かぬ支配者たる勇者と、それをねじ伏せた特撮オタクたち。異常な状況下で、「怪物を同席させた公聴会」が、今まさに再び幕を開ける。