特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第217話:舌戦

 侃々諤々の会議は、もはや、空回りの極みだ。

 

 すり鉢状のひな壇で見下ろす官僚たちの脳内では、猛烈な勢いで政治的計算が弾き出されていた。

 

 もしもあの薬が、勇者を『絶対的な権力の座』から引きずりおろせるのならば、あれを自分の国だけで独占したいと思う国は、一般人が思うよりもずっと多い。

 

『「加護」を自分たちの物にできるのなら、訓練された軍人たちに投与することで完全な――勇者の部隊が作れる!』

 

 死の恐怖すらも計算に組み込み、長年の政敵であった勇者たちを『自分たちだけが』占有し、かつ、在野の『鍛えられていない』勇者を弾圧する。そのことによって、国際社会における、自分たちの主権や権利をより強くせんと目論む、底知れぬどす黒い野心。

 

 自分たちを容易く捻り潰せる怪物たちの前でさえ、その怪物の言葉を政治的カードとして最大限に利用しようとする、人間の浅ましくも逞しい業の姿がそこにあった。

 

「――で? その薬の副作用が消えるのはいつのことになるんだ?」

 

 そんな彼らの内心に水を差したのは、一人の男だ。

 

 防衛省の役人らしいその男は、どこか冷めたような――あるいは呆れたような視線で目の前の妖霊に尋ねる。

 

「まるで、今すぐにでもそれができるかのように語っているが、あなた――なんとお呼びすればいいのかな、わからないけども――は今、ここにつかまっている。我が国の勇者の手で」

 

 だというのに、どうやってH.A.Dを改良するというのか?

 

 言外にそう尋ねる男に、ディーラーは笑みを深めて告げる。

 

『もちろん、私の協力者が、です。我々は日夜、顧客の皆様のために、ひいては、人間様方の社会のため、何よりもこの世界全体のために特効薬の製造にいそしんでおりますよ』

 

「つまり、その薬を問題も異常もなく使えるようになるのは、まだ先ということかな?」

 

『ええ、現在は』

 

「新薬を認可されるためにはそれなりの手順というものがある。それはどう考えているんだね? 人体への投薬実験もなく薬を打っているのは問題だと思うがね」

 

『そうですね。そこに関しては罰を受けるべきだと感じています。しかし、事態は緊急なのです。勇者の――病達による被害は日々増えているでしょう』

 

「否定はしないよ――最近は小康状態だがね。質問に答えてほしいな」

 

『ご安心ください。現在、特効薬の人体への影響は目下我々が調査中です。有志の方を募って――』

 

「――つまり何かね? 君は『薬を欲している人間をことごとく、実験台にしてる』ということかな?」

 

 その一言に、会議場に立ち込めていた不可思議な熱気は、氷河が注ぎ込まれたように霧散した。

 

『……そういう受け取られ方をされるのは、少々心外ですが』

 

「違うのかい? こちらが聞いた限り、そうとしか受け取れなかったが」

 

『……確かに、安定性に欠ける薬品を提供していることは事実です。ですが、我々はその欠点を克服せんと日夜努力を続けています』

 

「それは、結構――では、次は、我が国の法律に則って、体に悪影響がないことを証明してくれるという認識で構わないね?」

 

 柔和な笑みだった。

 

 虫一匹殺したことがないと言言いたげな、そんな笑みで――その男は妖霊を追い詰める。

 

 できるはずがないのだ。

 

 元来、薬事法に則って行われる治験は厳しい認可と長大な準備期間、医者からの協力に詳細なレポート、薬品に使われる成分の分析にその薬効の根拠の提示……そういった厳しい検査基準を超えて、初めて成立するもの。

 

『人体を勇者と同じ状態に変える』薬の認可など降りるはずがない――成分の悪影響を測る科学的装置だって存在しないのだ。

 

『……それでは、勇者による暴挙を見逃すと?』

 

「そうはいってないさ――だが少なくとも、我々にはそこの三……三……三人でいいのかな? がいる」

 

 そういって向けられた視線の先で、こちらにお鉢が回ってくると思っていなかったのか、ぼんやりと立っていた三人の異形が「あ、よんだ?」と言いたげな顔で男を眺める。

 

「彼らが何者かは知らない――が、彼らの言説を信じるのなら、彼らは『我々と同じ』一般の人間であり、この世界を守ってくれる……という認識でいいのかな?」

 

「少なくとも、勇者が好き勝手して、無辜の人間が傷つけばいいと思ったことはない」

 

「右に同じく」

 

「左も同じく」

 

「だそうだ。少なくとも、我々の文化にも風習にも疎いそちらの作った、危険な薬品を使う必要はない」

 

 そう、傲然と男は告げる。

 

 その一言に、周囲は息をのむ――やられたと、思っていた。

 

 この男の余計な一言のせいで、世情は一気に『H.A.Dは危険である』という意識で固まってしまった。もとより忌避感のある違法な薬物である点を突かれては、反証もできない――ほしいのは勇者の力だ、それ以外は必要ない。

 

『……なるほど。しかし、この異形のお歴々を信用される理由は何かあるのですか』

 

「ないね。しかし――先ほども言ったが、こちらの文化風習に合わせず、我々に不利益をもたらす君とこの公聴会のために現れ、君を救って我々も守り、公聴会で君の主張を聞く機会を与えた彼らなら、彼らの方が信用に値すると思わないのかね」

 

 そういって男は――()()幸太郎は肩をすくめて見せた。

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