特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第22話:魔人激戦

 魔人が剣を振るった。その瞬間、空間が歪み何かが七星に向けて放たれる。

 

 形はわからなかった。しかし確実に何かが、殺意が向かってくるのは理解した。

 

 飛来物の軌道と直前の攻撃の軌道から考えて、飛んでくる物体はおそらくは楕円形か矢じり型の斬撃、魔力でできた飛来刃。

 

 そう判断するよりも早く、七星の体は地面をこすりながら攻撃軌道の真下をすり抜けた。

 

 爆発的な暴風、友人にして正義の味方のリーダーたる扇の力に匹敵する嵐のような風の波を乗り越え、七星は走る。

 

 体を回転させる。

 

 ――王心七征拳:旋体脚――

 

 躰道の蹴りに酷似した――というかそれを身体能力に合わせて作った――回転蹴り、迎撃の上段斬りを回転に合わせて半身になることで躱し、そのまま、蹴り込む。

 

 ゴン!と肉体を蹴ったとは思えぬ重い音が響く。

 

 脚に来るはずの反動すら妖霊の力によって制御して収束させた、本来から見ると2倍に近い威力の一撃は、しかし、魔人の体に痛痒すら与えられない。

 

 即座に蹴り足を引く、引く反動でさらに回転、体を回しながら、引きつけた腕を伸ばしての掌打。

 

 ――王心七征拳:旋体掌――

 

 鼻っ面に叩き込まれた一撃は、並の魔物なら頭蓋骨を粉々に砕き、脳漿をぶちまける威力がある――はずなのだが。

 

『――効かん!』

 

 反撃の一撃が来る。

 

 振り上げられた剣が、まったく気にもしていないかのように振り下ろされる――その直前だ、腕に翡翠の帯が巻き付いたのは。

 

 風圧帯、ウィンドヴェーラーの固有兵装。

 

 彼の全筋力によって一瞬の均衡が生まれ――そのまま、腕の振り切りに押し切られて彼の体が空中に飛び出す。

 

 その間隙を縫って、七星は剣の斬撃軌道から逃れ、腕を伸ばす――その腕を、光に乗って稼働する天塚がつかんだ。

 

「――ああ、なるほど、やはりお前たち3人はものが違うな。」

 

 一瞬の攻防に眉をひそめた魔人がつぶやく――まったく、たいした化け物だ。

 

 ピリピリとした全身を痺れさせる殺気。魔物退治のように簡単にはいかない。

 

「……秘密兵器、効きそうか?」

 

 自分の手を引く天塚に、七星が訊ねた――この程度の相手に、『隠し玉』は使いたくない、もしも、隠し玉を使わねばならないとなると、自分達は過去の自分達が想定していたよりも弱いことになる。

 

「おそらくは――とはいえ、ぶち込むとなるとそれなりの衝撃が欲しいところですね。」

 

「フム……どれぐらい?」

 

「トリプルキックってとこですかね。」

 

「だってさ。」

 

『あいよー、発勁から行こうか。』

 

「「了解」」

 

 困りものだ、先ほどの攻防ですら7秒かそこらでしかない。

 

 剣を握り構える魔人――インジェワだったか?発音しにくい名だ――彼の立ち振る舞いには隙が全く見られなかった。

 

 オークは武器をただ握るだけ、オーガは振り下ろすだけ、ゴブリン共に至っては使い方すらおぼつかない。

 

 魔物の武器術はどれも子供のチャンバラのようなもの。しかし目の前に立つ赤の魔人は違う。

 

 明確な武芸の気配、同じスペックで戦えば負けることもない程度の手慰みだが……それでも、これほどまでのスペックに差があると手が出せない。

 

 どう攻めるか悩ましい。

 

 近接となると剣の範囲、今の距離でさえ先程の飛ぶ斬撃、おそらく風か何かの魔法の射程距離だ。

 

 どちらが先に動くか。お互いが腹の探り合いをしている。

 

 どこか遠くで、重いものが崩れ落ちる音が響いた。

 

 ガンと、地面を強く蹴る音が響く。

 

 殆ど瞬間移動にしか見えぬ高速稼働、風の魔法か、あるいは純粋なる膂力か、人の目には映らぬ速度で赤い閃光が走る。

 

 剣は大上段、振り下ろされる速度は音速を超える。

 

 ベイパーコーンをまき散らしながらばく進する剣は、しかし、七星に――インパルス・バングルには届かない。

 

「――嘯圧」

 

 衡剄。

 

 あらかじめ落としておいた腰分の間隙で相手の腹部に掌を当てて、体重を前に、掌底での一撃からため込んでいた衝撃を()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 掌打が、めり込んだ。

 

 ゴンと、魔人の体が数歩後退する――さて、1段階目は成功、次は。

 

『縛るぞ。』

 

 宣言と同時に、天頂から降り来るのは翡翠の嵐。

 

 投げ飛ばされる以前からチャージしていた風圧の3分の2を使った嵐の牢獄を一瞥し、魔人は鼻を鳴らした。

 

 この程度の拘束など、自分にとっては単なる児戯に過ぎない。

 

『ここまでは大したものだったが……まあ、こんなものか。』

 

 所詮はヒーローなど勇者の劣化、痛ましい努力の産物にして、たどり着けぬ境地の贋作でしかない。

 

 勇者ほどの力はなく、ゆえに、できることもこの程度だ。

 

「勇者たちはこういう時、なんというんだったか……ああ、そうそう。」

 

 レベルが違う。

 

 向こうが1ならこちらはその30倍は強いのだ、勝ち目などない。

 

『感動するほどの技量ではあったが……惜しいものだな。』

 

 そう内心で思いつつ、彼は嵐の檻を切り裂く。

 

 そろそろ終わらせてやろ――そう思って眼前を見れば、そこには3人の男が並んでいた。

 

『――ほう、潔く首を差し出す気になったか?』

 

 嘲笑交じりに告げる、人間らしい潔さだ――そう考えるのと、真ん中にいた薄青色の燐光を放つ男が駆け出すのは同時だった。

 

『ほう、予想外に早い。』

 

 が、威力は出ない、先ほどから変わらぬこの連中の問題点、貧弱な魔力の悲しき定めだ。

 

 受けてやってもいいが――それをする理由もない。

 

 最速の斬撃が、3人を襲った。

 

 横薙ぎの一閃、並んだ3人を切り捨てるには十分な威力のそれは狙いを過たず、3人を切断して――

『!?』

 

 手ごたえのなさを、魔人に伝えた。

 

 あり得ない、いかに脆弱な人間とは言え、切り裂けば反動らしきものは返ってくるはず、だというのにこの手ごたえのなさは――

 

 そこで、魔人はようやく気が付いた。

 

 蹴りを打ち込まんとしていた3人の背後の空間がかすかに揺らいでいることに。

 

「――まさか……!」

 

 魔人の驚きと、光圧の精霊の力によって姿を隠していた3人の蹴りが、魔人の腹部に突き刺さったのは、ほとんど同時だった。

 

 蜃気楼かく乱秘匿式トリプルキック。

 

 この手の人間を舐め腐った態度の生物にはめっぽう強い、彼らの嫌いな技だった。

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