特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

220 / 221
第220話:世間の反応

 公式公聴会が全世界に生中継されてから数日。

 

 本来であれば、未知の違法薬物である『H.A.D』の危険性や、それを巡る法規制の強化こそが議論の中心になるはずだった。もちろん、ニュース番組の識者たちは神妙な顔をして薬物の恐ろしさを語り、各国の首脳陣も足並みを揃えて厳格な規制への合意を進めている。

 

 だが、大衆の興味というものは、より派手で、より得体の知れないミステリーへと吸い寄せられるのが常だ。

 

「ほんとにいたんだねーあの、銀色の人たち。」

 

 昼休みの喧騒に包まれた教室。自分の席で弁当を広げていた友人、朱音が、スマートフォンの画面を見つめたまま心底からの感嘆を漏らす。

 

 彼女のスマホの小さな画面の中で再生されているのは、動画サイトで爆発的な再生数を叩き出している公聴会の切り抜き動画だ。

 

 議事堂の中央に屹立し、照明を照り返して人ならざる神秘的な威容を放つ『銀色の姿』は、朱音のような一般の女子生徒たちの目を完全に釘付けにしていた。

 

 そういった朱音に、灯は苦笑だけを返した。

 

 手元の弁当箱をつつく箸先を止め、曖昧に口端を引きつらせる灯の胃の腑は、今この瞬間も鉛を飲んだかのように重かった。

 

 無理もない。

 

 公式公聴会後、世間はあの不可思議の生命体に話題をさらわれていた。

 

 『彼らは一体何者なのか』『政府が秘密裏に開発した対勇者用の軍事兵器か』『あるいは、我々とは異なる高次元からの使者なのか』。

 

 朝から晩まで、どのチャンネルを回してもワイドショーはその話題で持ちきりだ。

 

 SNSを開けば、連日連夜オカルトじみた考察や陰謀論が飛び交い、彼らの人智を超えた容姿や、微動だにしないストイックな立ち振る舞いは、一部の熱狂的なファンすら生み出しつつある。

 

 クラスメイトたちの間でも「あれ絶対中身サイボーグだよ」だの「宇宙から来た正義の味方じゃない?」だのと、無責任な噂話が尽きることはない。

 

 特撮界隈?大騒ぎだ、次はすわライダーと興奮してやまない。

 

 かつて妖霊『腐毒』は、彼らの異形な姿を世間に晒せば、人間社会は恐怖と疑心暗鬼でパニックに陥ると計算していた。

 

 だが蓋を開けてみれば、圧倒的な力と謎に包まれた存在に対し、人間は恐怖よりも『畏敬』や『興味』を抱いてしまったのだ。

 

 それは、あるいは勇者という病へのある種の慣れ――あるいは『抗体』だったのかもしれない。超自然の存在がこの世にあらわれることに、彼らはもう慣れていたのだ。

 

 それは妖霊の、そして、桜花乱舞の――ひいては、特撮班三人のある種の計算外であり、彼らが守るべきと考えていた一般大衆のしたたかさと愚かさの表れだったのかもしれない。

 

 扇たちは自分達が恐怖の対象となり、恐れられ、その恐怖がH.A.Dの恐怖につながればいいと思っていたし、そうなるだろうと予想していた。

 

 妖霊たちの計画は――以前の通りだ、どちらの計画とも、世間の反応は違うものだった。

 

 大衆は謎の『正義の味方』というある種の『強烈なトピック』に気を取られ、H.A.Dという薬物がもたらす本当の恐怖からうまく目を逸らされたまま、特撮班の存在を『正体不明だが、我々を守ってくれるかもしれない抑止力』として、あやふやなままに信じ始めている。

 

「ええの、バケモンやん格好」

 

「えー?だって、設楽君の一件の時、みんなのこと助けてくれたじゃん、話すなって言われて話してないけどさ。」

 

 朱音の言葉に、灯は小さく息を吐き、箸先で突っついていた冷めた卵焼きを口に放り込んだ。

 

 実際、あの日、学校に来ていた人間は知っている。

 

 あの日、勇者すら魔人にとらわれてしまったあの瞬間、ここに現れた三体の異形のことを。

 

 自分達を監視していた魔物たちを一瞬のうちに校舎の外に追い出し、そのまま焼き払ったあの日のことを。

 

 勇者によるかん口令によって、外に語ることはできなくなっているものの、彼女達はそれを忘れたわけではないのだ。

 

 教室の中は相変わらず、ワイドショーの話題や次の授業への愚痴で騒がしい。

 

 だが、朱音の発言に対して周囲から驚きの声が上がることはない。誰もが口にこそ出さないものの、どこか同意するような静かな空気がそこにはあった。

 

「やっぱあれ、しゃべっちゃダメなんだよね?」

 

「『ええ』と言われてないんやったらあかんのと違う?」

 

「むー……自慢したいんだけどねーダメか……ま、いいけどね、私たちはそのこと知ってるわけだし!」

 

 えへへ、と誇らしげに笑う朱音の瞳には、一切の打算も恐怖もない。ただ純粋な、恩人たちへの無邪気な信頼だけが宿っていた。

 

 その光景を前にして、灯は再び小さく息を吐き、肩をすくめる。

 

 何ともミーハーなことだ、とはいえ、彼らの人気が担保されているのは結構なことである。

 

『なんやおっさんらは騒ぎよったけど、まあ、なんとでもするやろ……』

 

 それよりも、気になるのは……

 

『赤坂の兄さん、どうしたんやろなぁ?御影に用があるとか言いよったけど……』

 

 ――その頃。学校からほど近い、静かな純喫茶の一角。

 

「……わざわざ呼び出して悪かったね、御影ちゃん。学校の昼休みに」

 

「いえ。赤坂のお兄ちゃんのお誘いなら、いつでも」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。