特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第25話:一幕を乗り越えて

「……えっ?」

 

 何が起きたのか、わからなかった。

 

 しかし、それも無理からぬことだろう、

 

 あまりにもすべてが唐突に進み、あまりにもすべてが唐突に終わった。

 

 地面を転がる肉体が、まるで人形か何かのように見える。

 

 ただ、あれは人形ではない。あれは――

 

『――先輩!?』

 

 悲鳴のような声が響く。

 

 それが、自分の従妹だとわかったのは次の一言が飛び出した後のことだ。

 

「――御影!壁!」

 

 鋭い一言に、黒土御影がとっさに反応できたのは勇者の反射神経があったればこそだ。

 

 瞬間的に、壁を、自分と同僚たちの周りに――

 

「――違う!魔人に張れ!」

 

 言いざま、七星が飛び出した。

 

 砲撃が飛んできたと思われる方向、駆け出した先には何もない――ように見える空間だった。

 

 構える、右足は後ろ、左足は前、手は両肩に回すように、まるで羽衣で相手を包むように大きく腕を動かし――挟む!

 

 王心七征拳・諸手打ち。

 

 オーガの頭蓋骨を砕く威力のそれが、最速の軌道にて、体重を乗せて放たれる。

 

 何もない空間を、空気を切りながらばく進する手刀が――途中で止まった。

 

 その位置を中心に、コンクリートの床面にひびが入る――諸手打ちは空中で制止しているのにだ。

 

 否――何かいる、不可視の何かを、七星が食い止めたのだ、その何かが、諸手打ちを止めていた。

 

 手刀が震える。

 

 なるほど、並々ならぬ骨の強度だ、オーガなど物にならない、魔人ほどではないにせよ、並外れた強さであることは間違いない。

 

 が、それは別段、戦いになることは意味しない。

 

 手刀から力を抜く――一瞬の間に均衡が崩れた影響で、不可視の何かは一瞬、力の行き場を失う。

 

 その一瞬の隙を、しなる足が狙う。

 

 スパンッと音を立てて、後ろ足だった右が蹴りだされる、狙いは膀胱、当てるはかかと、ごく単純な蹬脚《とうきゃく》。

 

 しかし、それを、ヒーローの脚力が行えば、並の生物ならば膀胱が皮下で破裂しかねぬほどの威力になる。

 

 たとえ、相手が並外れた相手であっても――一瞬の行動不能を引き起こせる威力は出るのだ。

 

 一瞬の怯みに、七星の手刀がうなる。

 

 王心七征拳・縦旋手刀《じゅうせんしゅとう》。

 

 天を刺し貫くように伸ばされた手刀が、体を縦に竜巻に巻き込まれたような勢いで不可視の生物に向けて振り下ろされる――

 

「――っち!」

 

 舌打ちの音――次の瞬間、手刀が空を切った。

 

 真後ろへの高速移動、不可視の上に身軽らしい、厄介な敵だった。

 

 前に一歩踏み出そうとした七星を、しかし、不可視の壁が囲う――振り返れば、そこでは御影がこちらに向けて手を伸ばし、呪いを行使している。

 

 なるほど、どうやら魔人ごと自分を守ることにしたらしい――まったく、勇者というやつはどこまでも力の有り余った連中だ、これほど強固な壁をこうもあっさり作るとは。

 

 これほどの壁を作られては向こうの『誰かさん』も手が出せないらしい。

 

 魔人は――どうにか無事だ、扇が、天塚をかばった際に『砲撃』を受けたことでこの化け物も救われたらしい。

 

 結構なことだ、問題は――

 

『先輩!先輩!!しっかりしてください!雄介先輩!!御影!早く!』

 

 ――友人の方だろう。

 

 見れば、灯が慄いた様子で翡翠の体を見つめている。

 

 実際、かなりひどいありさまだった。

 

 彼が横たわっている場所には、明確な赤い血潮が広がり、翡翠の体を汚している。

 

 地面を転がった体はぐったりと横たわり、意識があるようには思えない。

 

 見たところ、彼が無事だと思える要素は――ない。

 

 慌てふためき、普段の自信に満ちた様子のかけらもなく泣き叫んでいるゆかりの言葉を聞きつつ、七星はゆっくりともう一人の友人(天塚)に近寄る。

 

「どうだ。」

 

「ん、まあ、死はしませんよ、彼が僕らの中で一番頑丈ですからね。」

 

「頑丈ってのも、ちょっと違う気もするけどな。」

 

 彼の……一種の……頑健性は、いろいろと枠が違うのだ。

 

 苦笑交じりの2人に向けて、灯が信じられないものを見るような目線を向けるのと、扇がガバッッと跳ね起きるのは同時だった。

 

「――はっ?何で起きとん!あんた今あたm――」

 

『先輩!無事ですか!?』

 

 驚きに満ちた灯の言葉を、ゆかりの声が掻き消す――その声は今にもここに飛んできそうだ。

 

「ん、まあ、死んではいない、と思うよ。」

 

 ぽつりとこぼしつつ、彼は力なく首を下に向けて垂れさがらせる――ぱきぱきと首から音がする、骨でもずれただろうか……?まったく、もろい体だ、『修行』の成果が出ているのやらいないのやら……

 

「お疲れ、首か。」

 

「んーお疲れ、狙ってきたやつは?」

 

「逃がした。」

 

「んー……まあ、仕方なし。」

 

 準備運動のように首を回す――やはり体がバキバキとなる、跳ね飛ばされた時に何かしら不調をきたしたらしい。

 

「え、あ、おっ?」

 

 目の前で、死人の復活でも見たかのようにおののく灯をしり目に、御影がおずおずと告げる。

 

「あの、怪我の治療……」

 

「あー……いや、怪我自体はいいんだ、多分もうふさがってるし、どっちかっていうと、あの魔人の方に注意してほしい、ここまでして守ったのに、死なれたら大変だ。」

 

「あ、了解です。」

 

「灯さんも、そっちに回ってもらえますか――正直、僕ら全員限界なんです。」

 

「えっ、あ、お、おう、了解したで!」

 

 今だ混乱のただなかにいたらしい灯が自信ありげに腕に力を込めて見せる――実際、今回の襲撃者が何であれ、勇者がフルスペックなら対処も容易だろう。

 

 魔人のもとに歩いて行く2人の勇者の背を見つつ、3人は渋い顔で口を開く。

 

「――で、どっちだと思う?」

 

「んー……あの魔人の話次第だけどなぁ。」

 

「……魔人のあのプライドの高さから言って、勇者を警戒していようと複数人で地球攻略に来たとは思えません、ヒーローのこと舐め腐ってましたしね、そも、もし複数人来ているのなら、助けに入らなかった理由が不明です、まあ……」

 

「「「勇者だろうなぁ……」」」

 

 心からげんなりと、3人の声が重なった。

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