特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第26話:翌日/反響

 翌日の夕方、3人は会議室に訪れていた。

 

 彼らの目の前にはパソコンが置かれ、その前で顔をしかめている。

 

 隣では未来が苦笑いをしている。

 

「何かすごいことになってますねぇ……」

 

 思わず、と言った風情で扇を後ろからおぶさるように張り付いたゆかりが告げる。

 

 実際、すさまじい反響だった。

 

 魔人の拿捕。

 

 それは、日本のみならず、全世界において例を見ないことだった。

 

 魔人の目撃例のなさ、強さ、知性、それらが合わさった結果、この世界において、魔人を拿捕した記録というのは基本的にない。

 

 それを、一介の島国のヒーローが成し遂げたなどという事実を、世間は混乱と共に受け入れていたようだった。

 

「えー……英語でメール来てますけど。」

 

「来てるねぇ、全く読めない。」

 

「英語必修でしょうに、授業受けてました?」

 

「いいかい天才ども、人は2つ以上の言語を脳に保存することなんてのは土台無理なんだよ?」

 

「2つ以上だと、英語はぎりぎり習得圏内に入りますけどね。」

 

「……っ!」

 

「そんな本気で驚くことかね、それ?」

 

 などと口々に言葉を発しつつ、見つめる先には1台のパソコン――またしても、エゴサの真っただ中であった。

 

「……そろそろ、話を本題に戻しましょうか。」

 

 未来がそう言ったのは、一頻りエゴサが終わった後のことだった。

 

「む、そうですね――魔人の処遇でしたか?」

 

 そう言った天塚に、未来はうなずく――実際、困っているのは事実だ。

 

「あなたの新型薬品――D.I.N.T.でしたか、あれの効果は素晴らしいものです、一度拘束してしまえば、継続投与も自在というのも大変利便性が高い。」

 

 実際、素晴らしい薬品だ。

 

 これまで、薬物による魔物の討伐はあまた試行され、そして失敗してきた。

 

 その理由はわからない――調べようがないのだ。

 

 何せ、魔物の肉体は死亡と同時に塵と消えてしまうからだ。

 

 死体を調べて、肉体の反応を測ることすらできないし、魔物の体を武器に改造するような、この手の話でありがちな強化も行えない。

 

 人に被害を出し、何の利益ももたらさずに消える。

 

 真実の害獣の姿が、そこにはあった。

 

 ゆえに、薬品による討伐は10年以上前に計画自体が停止され、以降、一度たりとも試されたことはない。

 

 そんな中に出てきたのが――この薬品、D.I.N.T.だった。

 

 これがあれば戦況が変わるといってもいいほどの傑作である、この薬品を散布できるだけでどれほど魔物の始末が楽になるか。

 

「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう、僕の知性は世界一ですとも。」

 

「ちょうしにのるなー」

 

「このまえけんきゅうのしすぎでなまたまごをでんしれんじにいれようとしたおとこをゆるすなー」

 

「ええい、うるさいうるさい!貴様ら一般人と一緒にしないでもらいましょうか!あの生卵は電子レンジに入れても破裂しないはずだったんです!」

 

「そんななまたまごがあるはずがないぞー」「そうだそうだー」

 

 自慢げに胸を張る男に向けてのヤジに微笑みつつ、未来は沈黙した、社長である自分の前で行われる妙な寸劇も許せるほどの利益を、彼らはもたらしたのだ。

 

 今やこの薬品、D.I.N.T.の価値は計り知れない、リバースエンジニアリングにてこれをさらに強化した薬品を作り出すことに血道を上げる企業は多くある。

 

 単なるマイナーチェンジであっても、並外れた利益を出すだろう、今、この会社の株はいまだかつてない曲線を描いてほとんど直角に伸びあがっている。

 

 実際、今朝がたも記者会見を終えて来たところだった。

 

「ええ、あなたは大変すばらしい頭脳をお持ちです、それは素晴らしいのですが――」

 

 問題は、その成果だ。

 

 魔人が、今、この建物の地下にいる。

 

「D.I.N.T.の効果でまったく身動きが取れていない現在、攻撃や逃走の恐れはありません、御影の魔法もあります、魔人を止めおくこと自体は不可能ではありませんが……」

 

 問題は、周囲の圧だ。

 

「現在だけで48695件の企業、国、研究機関からの引き渡し要求が行われています。」

 

 それほどまでに、魔人の拿捕というのは重要なことなのだ。

 

 これまで、ただの一度も確保できていなかった、魔人という新生物の生きた検体、それも、拘束が完全な代物――そんなものを、欲しがらない人間はいない。

 

「穏便な物は、まあ、いいのですが……問題は、脅迫的なものです。」

 

 そういったものも、珍しくはない。

 

 その多くは勇者という圧倒的な武力を背景にした『渡さなければどうなるかわかっているのだろうな?』という上からの恐喝である。

 

「わが社にも勇者はいますが……ご承知おきの通り、私の娘は『未遂者』……()()()()()()()()()()()()()です。」

 

 異世界にいき、実際に魔王を討伐した勇者とでは、やはり明確な力の差が出てしまうと、彼女は言う。

 

「こちらとしても、魔人という検体を渡したくはありませんが……こればかりはどうにも。」

 

 ならない。

 

 そう、表情を曇らせる未来は、3人をまっすぐに見据える。

 

「――皆さんには申し訳ありませんが、魔人はよその研究機関にゆだねるほかありません、よろしいですね?」

 

 その一言に、3人は――

 

「ああ、はい、僕らの知りたいことはあらかたわかってるので、どうぞ。」

 

 と、あっさりと返した。

 

「……いい、のですか?」

 

 未来が、困惑した声を上げる――まあ、当然だろう、これは歴史的な偉業であり、彼らからすれば命を懸けた結果確保した相手だ、それを、他人に譲り渡すと告げたのに、彼らの反応はひどくあっさりしたものだった。

 

「ええ、まあ、いるならいるで色々と話を聞きたいところですが、この会社に悪影響があってもいけないでしょう、好きにしてくださって構いませんよ。」

 

 そう言って笑ったのは、薬品の製造者である天塚だ。

 

「そ、そうですか、ええ、ではそのように手配を――」

 

「――ああ、ただし、1つだけ情報を付け加えてください。」

 

「……なんです?」

 

「僕の薬品は、彼らで言うところの細胞に作用し、その細胞の動きを止める物です、その性質上、薬が安全に抜けるまでの間に薬品に何らかの変調が起きた場合、細胞ごと崩壊してしまう可能性があります。」

 

 そして。

 

「――僕の薬品は、『生きたまま、過剰な負荷をかけた場合、その場で分解されるように』設定されています、そのことをゆめゆめ留意してください。と。」

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