「――これが、僕らの装備についてる高感度のカメラ映像、の、超超低速映像です。」
彼らのオフィス、大写しのプロジェクターが示すのは、何も映っていない夜空だ。
「何も映ってなくね。」
「ええ、映ってません。」
「……やっぱり電子レンジに生卵入れようとするぐらいだし狂ってたのかな。」
「……俺たちが、もっと早く気がついてやれば……!」
「ええい、愚か者ども、結論を急いでんじゃありませんよ!」
プリプリと怒る天塚に苦笑を返して、2人は先を促す。
「僕の予想と吹き飛んだ扇くんの奇跡から考えて、砲撃が飛んできたと思しき軌道はおおむね――」
スライドが次の物に変る――写されるのは先ほどと同じ写真に赤丸のついた1枚だ。
「何も映ってなくね。」
「ええ、映ってません。」
「……やっぱり、成果を急ぎ過ぎたんだ、俺らがあまりにも夢に近づきすぎたから……!」
「っく、許せ天塚、お前の分も、僕らは立派な特撮ヒーローになってみせるよ……!」
「いい加減黙らないと話終わりにして帰りますよ、僕。」
「「さぁせーん」」
三白眼で睨む友人に本気を感じた2人の気のない謝罪に視線の温度を下げる天塚をしり目に、扇の膝の上で猫のように体を擦りつけていたゆかりが告げる。
「要するに、射出弾体が見つからないと言いたのでしょう?」
「風の弾丸かね?」
「さもなきゃ――襲撃者よろしく不可視化の力があるか。」
「……急に真面目に戻るのやめません?」
「もー注文が多いなぁあらたくんはー」
「はたかれたいか精神異常者。」
すでに放たれた手刀を両腕をクロスさせて受け止めた扇の膝の上で、ゆかりが続ける。
「透明化技術ってどっかの軍でも研究してませんでしたっけ。」
「してるとは聞きますね、が、同時に――」
「――実用化されたって話も聞かない、それに、あれは兵士が着たり、兵器を透明化させたりする技術だ、標的にぶち当たる銃弾にそんな金のかかる細工をするとも思えん。」
「僕らの探知を抜けられるとも思いませんしね。」
「同じ不可視の襲撃者は七星が食い止められたってとこからして、高速の飛翔体であっても、僕らは気が付ける、なのに反応できなかったってことからして――」
「「「空気の砲弾」」」
それも、かなり高速かつ、扇の傷の形からして形も決定されていたと考える方が妥当だ、おまけに、衝撃面積からして大きさも小さい。
「科学で作れる代物じゃねぇな。」
「魔法か……ってことだと、魔人か魔法系統に特化した魔物、さもなければ――勇者。」
「魔人の可能性はまあ、ほぼないしな。」
プライドの高さ、能力、知性、どれをとっても、あの連中が別の個体を巻き込んでこの次元に現れたとはとても思えない。
となると――
「勇者。」
「でしょうねぇ……狙われる心当たりは?」
「んー……相手による……って、言うかいい加減離れね?」
「いやですよ、あなた、私が離れるとまた無理するでしょう。」
「いや、さすがに、ここでは……」
「せんせーこいつ今朝川に落ちてた子供の帽子取ろうとして川に飛び込もうとしてました!」
「っていうか、昨日の帰りも救急車呼ばずに、直帰もしないで救助活動しようとしてました!」
「離れません、いいですね。」
「……貴様ら……!怪我治ってんだからいいだろ!」
「よくありません、あなたのことはよく知ってますがだから見過ごせないと判断してるんですよ。」
裏切った2人の友人にこぶしを握る扇に張り付いたままのゆかりは、今日1日この体勢のままだ。
張り付き方を変えて背中に腹にと位置を換えている彼女を、しかし止める人間はいない――張り付きつつどうやっているのやら仕事をこなしているからであり、同時に、先日の彼女の取り乱し方を見ている人間に、それをやめろというのはこの会社の誰にも不可能だった。
「それはさておき――誰でしょうね、勇者。」
「風の砲撃ってあたり、風系統の魔法っぽいけどな……違うんだろ?」
「うん?ああ、違うと思う、たぶん、なんかの魔術の装置か何かでの攻撃じゃねぇかな。」
このチーム――ひいては今の世間においてヒーローとしては最高の風使いは、魔法の行使を否定する。
「風に魔力を伝達させて、風を操ってるんなら魔力が反応するはず、なのに、僕にも、お前達にも感知できてない――ってことは、たぶん、『風自体には魔力は干渉してない』んだと思うんだよな。」
だから、扇以外誰も、あの砲撃に気が付けなかった。
あの時、扇が砲撃に気が付けたのは彼の脳裏に宿った
「ふむ……なるほど。」
合点は行く、そして、同時に――
「余計現代科学だとできなくなったぞ?」
「ですねぇ、勇者確定ですか。」
根本的に、魔人、魔王、魔物といった魔性を持つ生き物は略奪生物である、彼らに『物を作る』という発想は基本的にない。
魔王も魔人も、武器を持っているらしく、今回捕らえたあのなんとやらという魔人も剣を持っていたが――それはあくまでも、人から奪った技術を、奪ったままに使っているに過ぎない。
それをさらに発展させることはできないし、そんな発想もない、彼らは奪うことだけができ、それしかできないのだ。
ゆえに、彼らが『魔力を使わずに相手を遠隔攻撃できる装置』などという物を作ることはあり得ない、あるとしたら、勇者が殺されてその設計図なりが奪われた時だが――
「こちらの世界に来てそれほど時間が経ってないのにそんなもんがこしらえられるとも思えんしな。」
そして『向こう側からこちらの次元に物品を持ち込むことは基本的にできない』可能なのは生物の移動と『生物の内部に仕込まれている物質』の輸送だけだ。
これほどの遠距離攻撃を体の内部に仕込める小装置で実行できるとは思えない。
「向こうの次元の材料もないでしょうしね、となると――」
「――加護の力で装置そのものを作り出せるだろう勇者しか、容疑者は残らん。」
となれば、気になることは1つ。
「どうやってあのタイミングで狙撃した?」
そこだ、根本的に、あの場所、あのタイミング、あの瞬間に1撃が放てるのは『あの場所で魔人が捕らえられていることを知っている人間だけ』だ。
あの日、自分達が魔人を捕らえられると思っていた人間はあの場にいた3人と、ゆかりだけだろう。
だが、この3人とゆかりが裏切ったと考えるには動機が足りない、わざわざ自分達の利益を損なう必要はないし、洗脳されているのならば扇か七星が気が付くそういう『訓練』を彼らは積んだ。
となると――
「あの時、偶然そこにいた勇者が狙ってきた。」
そう考えるのが妥当だ。
「あの時、あの現場にいたのは俺らと――」
「――堀田もいたな。」
彼らの前職における後輩、超跳躍するウサギの力を得た男。
「堀田……僕らの首になった原因って確か――」
「――勇者の入社だったな。」
設楽天京。
あらゆるものを作り出す『錬金』なる加護をもらい受けた、『築造』の勇者。
「あいつなら――」
「――作れるかもな。」
目線が細まる――いよいよもって、面倒な奴に目を付けられたらしい。