特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第29話:設楽の要求

「ま、正直に言えばさ、魔人なんて俺からすると物の数じゃないんだけど……あんまりヒーローに目立たれるのも困るだろ?あいつらは添え者なんだからさ。」

 

 そういって、肩をすくめる男は、何とも癪に障る顔で告げる――気にくわない男だ。

 

「……よおわからんな、何がしたいねん。」

 

「いや、別に何かがしたいってことでもないんだよ、ただ――真実を世に知らしめてやろうと思ってさ。」

 

「……はぁ?」

 

 何が言いたいのか全く理解できぬ一言だった。

 

 真実もくそも、あれはごくごく単純な戦闘の結果だ、魔人が出て、ヒーローが倒して、拿捕した。

 

「何言うてんねん、あれはうちらが――」

 

「――『ヒーローを使って捕まえた魔人』ってんだろ。嘘くさ。」

 

 けらけらと、男が笑う、気色の悪い耳障りな声、自分が上だと信じて疑わぬ男の、忌々しい哄笑。

 

「どうせさ、うそなんだろ?ヒーローみたいな添え物に、魔人が倒せるわけがない、御影辺りが一緒にいて、助けてやったとかそんなおちだろ?」

 

 下卑た顔が、こちらを見つめる。

 

「だからさ、それを証明してやろうと思ってるわけだ。俺に引き渡してくれれば、解析装置造って、そんな妙な薬嘘っぱちだってすぐにわかる。」

 

 だから――

 

「あの魔人、くれよ。」

 

 そうすれば、あいつらを追い出してやる――そう、言外に彼は語る。

 

 自信に満ちた笑みで、この上なく誇らしげに、まるで、この世で最も優れた提案をしているとでも言いたげに。

 

 その顔が、この世の何よりも醜く見えたのは、きっと灯の気のせいではあるまい。

 

「いやに決まっとるやろ、あのキモオタ共の話はどうでもええけど、家のおかんの会社に泥塗るようなことするわけ――」

 

「――そこの女さ、道路まで走って轢かれてくれる?」

 

「え、あ、うん。」

 

 至極当然のことのように、あかねがうなずいて歩き出す――まずい!

 

「――あかね!やめぇ!」

 

 眼鏡の少女の脚が止まる、

 

 二つの命令に、あかねは困ったように顔をゆがめる――どちらの命令を効けばいいのか、わからないのだろう。

 

 鋭い視線が、設楽を貫く――視線で人が殺せるのなら、間違いなく体が消し飛んでいる殺意に満ちた視線だった。

 

「お前……」

 

「ただあの雑魚をくれるだけでいいんだよ、そうすりゃ、あれはお前と御影の成果であの爺共は便乗しただけってことにしてやるからさ。」

 

 だから、あの魔人をよこせと、彼は言う。

 

「いやや、言うとるやろ。」

 

「じゃあそこの子はどうなってもいいな?」

 

「……あんまふざけたこと抜かしよったらどうなるかわからんで。」

 

「やるのか?勇者にもなり切れないお前が?」

 

「試してみr――」

 

「――おや、灯さん、どうしたんですこんなところで。」

 

 気楽そうな声が響いた。

 

 つかつかつかつかと、歩み寄る音が響いた。

 

「――天塚……さん?」

 

「ええどうも、もめ事ですか?」

 

 そういって、男――天塚新は、まるで幽鬼のようにとらえどころのない様子で現れた。

 

「……誰だおっさん。」

 

「ああ、これはこれは、申し遅れましたね、天塚新、彼女の同僚をしているものです――オタクと呼ばれる覚えはありますけど、一応まだ二十代なので、爺呼びは避けてほしいんですけどね。」

 

「ああ、嘘みたいな薬を作ったっていう、寄生虫か。いい歳して恥ずかしくないのか?若い女の功績奪って、戦闘までにおんぶにだっことは……情けねぇやつがよ。」

 

「まあ、否定はしませんよ、僕一人で、君たちには勝てませんしね。」

 

 苦笑交じりに認める――嘘ではない、真っ向勝負で勇者には勝ち目がない。いかに新型と言えどだ。

 

「はっ、戦いもせずに白旗か!大人ってのは大変だな!気合もなくなるのか?」

 

「ええ、やる気も、気合もなくなりますよ――その分、経験を積むんですけどね。」

 

「……っち、気色わりぃな。『黙れよ』、ついでに『その辺の電柱に死ぬまであたまでもぶつけてろ。』」

 

 それは、常人には決して回避できぬ絶対の命令、絶死攻撃、避けようのない――誘惑の声。

 

 この言葉を聞いてしまえば、勇者ならず、変身も終えていない彼には到底耐えられない。

 

「――やm……」

 

「はぁ、お断りします。」

 

「――ぁあ?」

 

 ――その一言に、二人の勇者は同時に瞠目した。

 

 あり得ない、ことのだった。

 

「……てめぇ……!」

 

「何です?ずいぶん驚くじゃないですか勇者、お前に友人を狙われたとわかっていて僕が何の対策もしないとでも?」

 

「……!」

 

「狙ったのは自分じゃない――なんて、ちんけな嘘はつかないように、僕らだって何の確信もなしに君にこんなことは言いませんよ。」

 

「……はっ、何だ、あのデブの復讐か?急所に一発ぶち込んだんだ、ホントはかなりの大けがなんだ――」

 

「――いいえ?ばち糞元気に歩き回ってますし、何なら筋トレメニュー増やして怒られてましたよ。」

 

 その一言に、今度こそ、設楽の口が止まった。

 

「確かに、僕は真っ向から君には勝てません――が、この眼鏡の麗しいお嬢さんを一時的に拘束して、灯さんを手空きにすることはできます。」

 

 そして、そうなれば、勇者は彼を攻撃するだろう。

 

「未遂者ごときが、本物の勇者の俺に勝てると思ってるのか……!」

 

「ええ、まあ――魔王を倒していないからと言って、彼女が弱いということにはなりませんよ。」

 

 そして、魔王を倒していたからと言って、設楽天京が黒土灯よりも強い――ということにも、やはりならないのだ。

 

「君は戦闘系の加護を持たない、いろいろと作れるその知性は感心しますけどね、真っ向から戦闘型の勇者とたたかうのは難しいでしょう?」

 

「は、万物を作れる俺が、魔王と戦ったこともない女に負けるかよ……!」

 

「なら、試してみるか?」

 

 そういって、灯はゆっくりと構えを取る――彼女にとり、武器は無しでもこの男を殺せる確信はある。

 

「……い、いいのか、もしも俺を殺せば、お前は『勇者狩り』に狙われるんだぞ。」

 

「ええ、そうなるでしょうとも――その前に、君がかられると思いますけどね。」

 

「はっ?何言って――」

 

「――君の後ろ、七軒先の鉄塔の上、君の視力なら見えるでしょう?」

 

 ガバっと、体が後ろを向いた。

 

 強化された勇者の超人的な視力が、その男の姿を見出す。

 

 雲と同化するほど白い鎧を着たその男は、まさしく、彼が恐れる数少ない生物の姿をしている。

 

「君が灯さんを見つけるために動き回り、あかねさんと灯さんの関係を推し量るまでに大体十五分、接触を持ってから四分、その間に、灯さんは殺意の籠った魔力を広域にばらまきました――そこまであれば彼は確実に気が付きますよ。」

 

『勇者狩り』悪徳を侵す勇者を殺す者。

 

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 魔物を一切殺さず、悪徳を成した勇者のみを殺して回る彼はいつからかそんな風に呼ばれていた。

 

「見てたのかお前……!」

 

「ええ、というか、『彼』を見てました、この辺でそれなりに有名な勇者となると、うちの同僚かなと思ったもので――あかねさんに本格的にえいきゅが出るのなら、止めに入ろうかと思ったんですけどね。灯さんが止めたので。」

 

「……!」

 

「で?どうします?僕かあかねさんを殺して彼と灯さんを敵に回しますか?」

 

 そう、肩をすくめて訊ねる天塚に、彼は――

 

「……覚えてろ、端役。」

 

「ええ。頭がいいので忘れないんですよ。」

 

 歩き去る勇者の姿は、ひどく小さく見えた。

 

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