特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第30話:大丈夫ですよ

「離れよう、なんて思わない方が良いですよ。」

 

「へっ?」

 

 友人を家に送った帰り、会社に向かう道行きの途中で、天塚はさらりとそう言った。

 

「何の話?急に言われてもわからんねんけd――」

 

「あかねさんでしたっけ、あの子が危ないから関係を控えようと思っているんでしょう?」

 

 図星だった。

 

 先立っての一件――友人、と呼んでもいいのかもわからぬ少女を巻き込んだことは彼女の思考に暗い影を落としている。

 

 家族が無事なら何でもいい、ほかの人のことなど、関心もない。

 

 それが彼女だ、それは変わらない。

 

 ない、が……同時に、ひどい目に遭ってほしいわけでもないのだ。

 

 あくまでも、積極的にかかわるつもりがないというだけで、人を傷つけたり、消え去ってほしいというわけではない。

 

 だから、付き合いを控えるべきだと、彼女はそう考えて――

 

「ただ、あの手の手合いは間違いなくあの子を狙いますよ――あなたが離れる離れないにかかわらず。」

 

 ――天才に否定された。

 

「この世で唯一勇者に抵抗できるのは貴方なんですから、彼女が、あなたを拒否するまでは、そばにいてやりなさい。」

 

 そう優しく告げる天塚に、しかし、灯はふてくされたように告げる。

 

「……そないこと言うたって、あいつが急に襲ってきたらどないすんの?」

 

「さっき家に行ったときに、ドローンを数台付けました、周辺の環境情報を収集し、僕謹製予測AIによって襲撃のリスクがあった場合、君の携帯に連絡が行きます、今のところ、勇者系列に関しては精度が9割を超えたのでその警報が出たらすぐにあのこのところに行くと良いでしょう。」

 

「……またみょうちきりんなもんを……そんなことできるん?この前は狙撃されたやん。」

 

「僕はできますよ、天才なので――狙撃に関してはそもそも、僕らを狙われる分にはあんまり気にしなくていいので使ってなかったんですよね、雄介君いますし。勇者って思考が簡単なので、予測立ちやすいんですよ。」

 

「それ、うちのことも馬鹿にしとらん?」

 

「何にだって例外はありますよ、生のりだって日本人しか消化できないでしょう?」

 

 からからと笑う光のヒーローは、まるで、何も悩むことなどないと言いたげに笑っている。

 

 だからだろうか、少しばかり、寄りかかりたくなったのは。

 

「……勇者、ってさ。」

 

「はい。」

 

「噂あるやん?」

 

「……ごめんなさい、どれのはなし……?」

 

 申し訳なさそうに尋ねる――いや、だって噂って彼が知っているだけで200を超えるのだ、さすがの彼も噂だけでは答えにたどり着けない。

 

「『勇者として呼び出される奴は……』」

 

「――気が狂っている?」

 

 そんな、噂が流れ始めたのは、確か10年ほど前――ちょうど、彼らが『正義の味方』になったころだ。

 

 そのころには、すでに勇者が帰還を始めて5年が過ぎ、世の中は勇者という者がもたらす悲劇に暮れていたころだった。

 

 今でこそ、『勇者狩り』や『秩序体現委員会』と言った『善意に狂った』勇者の集まりができて、勇者の行動を制限するようになってきたが、あの当時、まだ、勇者狩りはそれほど著名ではなく、秩序体現委員会は存在しなかった。

 

 非道を繰り返し、世に暗雲をもたらす勇者たちを揶揄して、ネットでまことしやかにささやかれたのがこの説だ。

 

 異世界人は勇者として、世間に不要な人間を回収し、そのうえで、不要になったらこちらの次元に「捨てている」というその説は、ネットの片隅で語られて――人々の水面下にもしかしたらの種を植え付けた。

 

 そうなのかもしれない、そうなのだ、そうであってほしい――そんな願いが、この説を暴走させ、波及させた。

 

 なお、その説のマイナーチェンジとして『勇者は召喚される際に妖霊の加護によって思考を改ざんされている』なんてものもあったりする程度には、この説は信ぴょう性があると考えられていたのだ。

 

「まあ、正直、僕はあの説に懐疑的な立場ですが……それが?」

 

「もし、さ、もし――」

 

 それが本当だったら。

 

「――うちに、友達を作る資格なんかあるんやろか……?」

 

 重く、沈痛で、触れるだけで壊れそうな声だった。

 

「もしも、うちが……気狂いで、人のことなんて何とも思わんような女なら、人となんてかかわらん方がええんやろか。」

 

 ずっと、それが気がかりだった。

 

 もしも、自分という個人が、勇者になる前から異常性を抱えていて。

 

 もしも、自分という個人が、それを自覚もなく、勇者の力と共にふるってしまうのなら、それが、今この場で起きることではなくとも。

 

 自分は、友人も、家族も、大事に思うもののために、ここにいるべきではないのではないだろうか?

 

 そんなことを、勇者になってからつらつら考えるようになった。

 

 一人で眠る夜に、あるいは、人とかかわるたびに、彼女は思う、もし、この問いに答えがあるのなら、それはどんなものなのかと。

 

「――そうしたいんですか?」

 

 だから、そう聞かれた時少し呆然とした。

 

「え、いや、そういうわけや、ないけど。」

 

「じゃあ、あの子が危ない目に遭ったとき、危ない目に遭ったらかわいそうだと同情できましたか?」

 

「せやなかったら、こんな話しとらんやろ?」

 

「なら大丈夫ですよ、その気持ちを忘れないのなら、あなたはあなたが望む人間で居られます。」

 

 そう、彼は断言した。

 

「昔、どっかの宇宙人が言ってました、『変わったっていいんだ、変わる前の自分がどんな人間か覚えていられるなら。』って。」

 

 変わった先で、変わる前の自分の良い部分を覚えていられるのなら、変わってしまったことを貴いと思えるのなら。

 

「大丈夫ですよ。」

 

「……なんで断言できんの。」

 

「人間とはそういうものだからですよ。」

 

 さらりと、天塚は言う。

 

「いじめ、暴行、浮気、横領、犯罪を犯して、捕まったとしても、人は変わったりしないという人間がいます、否定はしません。自らを省みない人間というのはいます。」

 

 警察に捕まっても、同じことを繰り返す人間は多い。

 

「ひどい加害者なら自分の責任を他者に転嫁し、被害者が『いじめられるのが悪い』あるいは『攻撃が返せないのが悪い』『死んでしまったのが悪い』と言い出す者もいます。」

 

 それが、変わることはない、顧みないというのはそういうことだ。

 

「そういった人間は、往々にして、相手のことを考えないものです。」

 

 そして、それが変わらぬ人間の根だというのなら。

 

「――逆に、人のことをおもんぱかれる人間は、どれほどのことがあっても素晴らしい人間で居られるということですよ。」

 

 そう言って、天塚は笑った。

 

「それでも、もし、どうしても怖いというなら――僕らがいます。」

 

 もしも、彼女が何かしらの理由で人の心をなくすのならば。

 

「僕らが止めますよ――そのための『正義の味方』なんですから。」

 

 そう言った彼を、灯は驚いたように見つめていた。

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