特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第31話:設楽天京という男

 ヒロイックアカウントもしくは通称でヒーローアカウントと呼ばれているこの会社はそれなりの歴史のある企業だ。

 

 当時、若手と呼ばれる人間を集め、発足させたこの会社は、斜陽の業界と化したヒーロー業界で、それでも踏ん張っている企業だった。

 

 理由は……正直、運の面が大きい。

 

 崩れそうになった時、銀行から融資の話が来たり、ヒーロー達が必死に頑張ってくれたり……この会社を勇者から必死に守ってくれたものもいた。

 

 この10年を思い出すと、社長は少し悲しい気持ちになる。

 

 必死にここを維持してきた戦友たちは、ずいぶんと数を減らした――この男のせいで。

 

「――なあ、社長、株価とかずいぶん下がってるみたいじゃないか。本当、無能なヒーローばかりで困るよなぁ」

 

 社長は思わず息を飲む。会いたくない、最も憎む存在がそこにいる。あまつさえ愛する娘の腰に手をそえ、娼婦にでもするかのように体を……なで回しているのだ。

 

 見ているだけで苛立ちがとげになって内臓を痛めつける。そんな彼の気持ちを嘲笑うかのように男は……設楽天京は微笑んだ。

 

「社長としての手腕が悪いんじゃないか?俺が引き継いだほうが会社も立て直すかもなぁ?」

 

「…………」

 

 お前のせいだと言いたいが口には出さない。言ったところで機嫌を損ねるだけだ、そして、機嫌を損ねれば……自分だけならいいが、娘はどんな目にあうだろうか?

 

 無意識に鋭くなる視線も傲慢不遜な男は鼻で笑う。

 

「……そう、かもしれないな、で、何か用かな?」

 

「いや、なに、あんたにも悪い話じゃないさ。俺がこの会社を救ってやるよ。」

 

 そう笑う男に、社長は顔をしかめる――何を言っているのだ?

 

「……どういう、ことだ?」

 

「――魔人。」

 

 その一言に、体が固まる。

 

 魔人、近頃この業界を、あるいは、この世界を席巻する名だ。

 

 魔人の捕獲成功……本来ならありえない偉業を、ある3人組が達成したことは、彼も知っていた。

 

 そして、それを成し遂げたのが、もともとこの会社の人間だったことも。

 

 忸怩たる思いは、ある。

 

 彼らが今も、この会社にいて、同じ成果を上げていれば――自分は今頃、この会社をどうしていただろうか?

 

 そう考えることもある――この男がいなければ、自分達はまだ、手を取り合って歩いていたはずだから。

 

「それが、何だというんだ。」

 

 そう言った父に、叱責の言葉を漏らしたのはなんと勇者の傍らで待機している彼の娘だった。

 

「ちょっと、お父さん!天京になんて口の利き方なの!?彼がこのゴミみたいな会社を救ってくれると言っているでしょ!?」

 

 そう鋭く叫ぶ彼女は、以前までの娘とは違う。

 

 どこを見ているのかわからない目。その瞳に父は映ってはいなかった。

 

「………………すまない。」

 

 重い沈黙の後、彼はそう答えるしかない。

 

 今の娘が、何事も自分で判断できぬ状態であることを、彼はよくわかっている――彼女を止めようとした妻は今暴れる娘のせいで負傷し、入院中だ。

 

「まったく、いい、天京の言うこと、きちんと聞きなさいよ。」

 

 そう言って、殺意すら滲む目で、こちらを一瞥して忌々しい勇者に頭を預ける娘に、彼はもう、何も言えなかった。

 

「悪いなぁ、お父さん、ちょっと興奮してるみたいでさ。」

 

 そう言って、娘に甘やかに囁く言葉を、社長は忸怩たる思いで見つめる。

 

「それで、一体何をしてくださるのかな、勇者様。」

 

 皮肉と敵意をないまぜにした社長の一言に、勇者は笑って語りだす――それは、おおよそ正気とは言えない彼の妄想のごとき文言だった。

 

 

 

 

 

 ―――設楽天京。

 

 その名を出した時、彼の中学時代の同級生たちは皆そろって顔をしかめる。

 

「あーあいつは……いや、その、いい奴でしたよ?」

 

 そう語る者たちもたいがいはどこか含むものを混ぜ込んだ、何とも形容しがたい顔をしていた。

 

「いや、その、さすが、勇者に選ばれるだけはあるなぁって、思います。」

 

 そういう人間もいた。

 

 そんな中で、どこか曇り気味の顔をして同級生の1人がこんな話をしてくれた。

 

「……あいた、いじめられてたんですよ。」

 

 と語るその少年は、決まりが悪そうに告げる。

 

「……その、確かに周りからイジメられてたのは可哀想だと思いましたけど……あいつにも、それなりに問題があったっていうか……」

 

 聞けば、彼は決して善良な人間ではなかったらしい。

 

「失敗すれば周りのせいにして、みんなを疑って、大騒ぎして。」

 

 一度など、まったく何もしていない人間を糾弾し、警察沙汰にしかけたことまであるという。

 

「その……いじめがいいとは言いませんけど、じゃあ、それをされた連中は黙って泣き寝入りでいいのかって話に、なってたみたいなんですよね。」

 

 その結果、いじめが始まったのだという。

 

「そりゃ、単にいじめやすかったっていうだけなら、いじめが全面的に悪いって言いますよ、暴力が良いことだなんてまったく思いませんし、ひどい目に遭ったことは同情しますけど……じゃあ、あいつがいじめてたやつらに掛けた疑いとかはどうするんです?」

 

 そう訊ねた彼は、いじめに加担こそしていなかったものの、それを止めようという気にはならなかったのだと、告げる。

 

「いじめだした奴の中に、疑惑を持たれたせいで最後の大会に出られなくなったってやつもいて……後、警察に疑われたせいでバイト首になったとか。」

 

 要するに実害を出してしまったわけだ。

 

「実家の家業に影響出たやつとかもいたんです、その……そいつらが、あいつを恨んで攻撃してるのを、止めようとは……」

 

 思えなかった、ということらしい。

 

 ひどくばつが悪そうに、話しにくそうに話してくれたその少年に、心ばかりの贈り物を送り、話を聞き終えた男――七星は顔をしかめた。

 

「この感じからすると、パターンってBでいいんだっけ。」

 

『ええ、元来問題があった個体が召喚された例の方ですね。』

 

「うーむ……口で言っても止まらんタイプか。」

 

『そうなるなぁ。』

 

「……殴って止めるかぁ?」

 

『その方がよさそうですね、面倒なこと言い出しましたし。』

 

「ん?何した?」

 

『――魔王を、国に差し出すと言い出したそうです。』

 

「……マジで言ってる?」

 

 それはありえないことだった。

 

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