特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第32話:そこが問題

 カメラのフラッシュが、雷光のように瞬いている。  無数のシャッター音が、まるで銃撃戦のように会場を埋め尽くしていた。

 

 都内某所、大会議場。

 

 本来であれば、1企業の会見などに行われる規模ではない。国賓級の扱い、あるいは、国の存亡に関わる重大発表にのみ許された舞台。

 

 その壇上に、1人の男が立っていた。

 

「――これまで我々は、異界からの侵略に対し、常に『受け身』の戦いを強いられてきました。現れた魔物を倒す、被害を食い止める……それが限界でした。 ですが、真の解決とは何か。それは脅威の根源を断つことです。」

 

「ただいまより発表いたします。 我がヒロイックアカウントに所属する勇者、『築造』の勇者・設楽天京氏の尽力により、我々は異次元に君臨する魔物の王――『魔王』の捕獲に成功いたしました。」

 

「誤解なきよう申し上げますが、これは先日の『魔人』とは次元が異なる存在です。 また、向こうから攻め込んできた個体を迎撃したものでもございません。 設楽勇者は、その比類なき『加護』の力を用い、次元の壁を越えて対象を捕捉。抵抗する魔王を無力化し、生きたままこちらの次元へと『連行』することに成功したのです。」

 

「これは、人類が初めて侵略者に対して優位に立った瞬間であり、勇者という存在がいかに絶対的で、代替不可能な希望であるかを証明するものです。」

 

「捕獲された魔王は、設楽勇者の監視下にて厳重に管理され、今後の対魔物戦略における極めて重要な『資源』として、国への献上を予定しております。」

 

「科学や小手先の技術がいかに進歩しようとも、神に選ばれた勇者の奇跡には及ばない。 この偉業をもって、我が社は勇者と共に歩む新時代の幕開けを宣言いたします。」

 

 

 

 

 

「……社長、やつれましたねぇ。」

 

「気の毒になるぐらい顔色が悪い。」

 

「腹のあたりに手当ててるのはあれですかね、胃が……」

 

「……もう、ダメなのかもしれんね。」

 

 四者四様、古くから彼を知る扇達の口から漏れるのは心配と悲しげな言葉だった。

 

「――いや、ちゃうやろ!?それどころやないやん!」

 

 そう叫んだのは、同じように会議室に呼び出され、この会見を見せられた黒土灯だ。

 

「あ、あのぼけ、マジで魔王いうたで!?」

 

「言いましたねぇ、えらいことですよ。」

 

 実際、こんなに気安く語っていい問題とは言えない。

 

「えっと、魔王って、その……魔人とかの。」

 

「トップですね、魔人に力を与えた存在でもあります。」

 

「……勇者しか、勝てないっていう。」

 

「魔王ですね、話を聞く限り。」

 

 知恵者2人は、至極当たり前のように告げる。

 

「そ、そんなこっちに来たらやばいやん!」

 

「やばいなぁ。」

 

「まあ、出てきて勇者と戦ったら関東地方ぐらいどうにかなる被害は出るよな。多分。」

 

「被害予測的にはそうなりますね――あ、食べます?七星君のお土産。」

 

「今日食えない日……まあ、正直、勇者が厳重に管理するって言ってもまずいことではあるわな。」

 

 扇がそう言って肩をすくめる――勇者は間違いなく、唯一魔王に勝てる存在であることは間違いないが、何の被害もなくすべてを修められるほど万能な存在というわけでもないのだ。

 

「せ、せやったら止めな!」

 

「そこが問題だ――何を止めるべきかわからん。」

 

 渋い顔で、自分の持ち帰ったお土産を食べる七星が告げる――何を?そんな物……

 

「魔王を呼び出すとかって……あ、いや、もうおるんか?」

 

「さっきの話から察するとね、そうなると思うんですが……」

 

 顔をしかめる天塚は、疑念といぶかしみに満ちた顔で七星を見つめる。

 

「……そもそも、この世界側から向こうの世界に干渉するのって、無理なはずなんだよな、妖霊がよこす加護に、次元移動可能な加護ってないはずだし。」

 

「そう、なん?」

 

「ん、考えてみなさい、灯、妖霊にせよ向こうの次元の人間にせよ、『勇者を呼ぶのは魔王かモンスターを倒させるため』ですよ、そのために、こちらの次元から人を浚うわけです、だというのに――」

 

 変える手段があっては、すぐに帰られてしまう、ゆえに、妖霊が渡す加護に、世界同士をつなげたり、世界同士を行き来するものはない。

 

 こちらから異世界に向かう方法はないのだ。

 

「それは、これまでの話からして間違いないはず――なんですけどねぇ?」

 

「錬金の加護で妙な装置でもこしらえて、マジでこっちの世界から向こうの世界を狙えるようになったのか……」

 

「……か?」

 

「――僕らが捕まえたのとは別の魔人と内々に接触して、魔王をこっちに呼び出す手はずを整えたか。」

 

 扇のその1言に、空気が凍った。

 

「……魔人、あれ一体どういう話やったんと違うん?」

 

「あの段階ではな、そもそも、あいつが世界を渡ってこれた以上、なんかしらの方法で連中はこっちの世界に来られるはずだ。そして――」

 

「その時に生み出される移動用のゲートは魔物が現れる時に比べて圧倒的に小さい。」

 

 衛星からの監視でも、あるいは、勇者の監視によっても、気が付かれないほどに。

 

「別の奴が来たってこと?」

 

「そう考えると、あの魔人が急に降ってわいた理由も合点がいく。」

 

 要は、少し前からこの地球上にいたのだ、何のためかはわからないが――あのタイミングでヒーローや勇者の前に姿を現したに過ぎない。

 

「そうなると……まずいんだよな。」

 

「そりゃ、魔王が来る言う点からまずいやろ。」

 

「ああ、いや、まあ、それはそうなんだけども――どっちかっていうと理由がね。」

 

「りゆう?」

 

「――なんで魔人が、勇者相手に手を貸す?」

 

 そこが問題なのだ。

 

「魔人は元来、人をその辺の石ころかありぐらいにしか思ってない――いや、それほどの価値すら見出してないかもしれん、それは、あの魔人の態度と反応からしても間違いない。」

 

「なのに、なぜ、魔人が自分に力を与えた存在である魔王を裏切って、勇者側に与するのか?それが問題なんですよ。」

 

 本来、あり得ないことが起きている。

 

 そして、そういう場合、特撮にせよ現実にせよ、パターンというものがある。

 

「誰かが、何かをしてる。それが、単に『設楽天京』って勇者1人のはかりごとだっていうならそれでいいんだ、あいつを止めればいい。」

 

 止める手段なら掃いて捨てるほどある――自分達だって、何とかできるだろう。

 

 が、もしも、この青写真を描いているのが、別の存在――即ち、魔王やその他の誰かだとしたら……

 

「どこから止めりゃいいのか……」

 

 それが問題なのだ。

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