特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第33話:幕が上がれば

「――そうなんすよ、あの勇者のやろー、わけわかんねーことべらべら食っちゃべりやがって。」

 

 久々に聞く後輩――堀田の声には抑えきれぬ不満が渦巻いていた。

 

「大変そうじゃね、社長無事?」

 

「……やばいっすね、昨日から社自体に出てこないっす。」

 

「あー……」

 

 よほど、先日の魔王会見が効いたらしい。

 

 いよいよ、社にも顔を出せないほど追い込まれているようだ。早く助け出さねば心労で死んでしまう。

 

「で、ほんとにいんの、魔王。」

 

「いやー……それはちょっと、社外秘っすから。」

 

「あー、まあそうよねぇ。」

 

「そうなんすよー」

 

 一瞬、会話が途切れる、電話を切らぬあたり、彼にもいろいろとあるのだろう。

 

「天塚大先生のさ、考えなんだけど。」

 

「んーナンスか。」

 

「――いないだろ、魔王。」

 

「―――」

 

 再び、沈黙が覆う、そして、多くの場合、沈黙は肯定だ。

 

「お前のところの勇者が何をどうやって魔王を連れてくる気かは知らん、が、ここまで大々的に話をぶち上げた以上、魔王を連れてこない選択肢はそっちにもないだろう?」

 

 特に、勇者にはない。

 

 彼にとって、プライドは彼を肯定する唯一のものだ、それがなければ死ぬしかない。

 

 だとすれば、『魔王は来る』のだ。

 

 が、同時に、あの会見でその写真も、本体も出てきていない以上、魔王そのものはおそらくこの世界にまだいない、もし存在していれば、あの勇者のことだ、間違いなく大手を振って世間に発表するだろう――となれば。

 

「――どこかで呼び出すんだろう?」

 

 後輩はまたしても語らない。

 

「あいつが言った引き渡し期限は1週間後だ、その前日か前々日に呼び出す。それも、極ひっそりとだ。」

 

 そして、国に魔王を引き渡す。

 

「大方『別の領土の魔王が目障りなのでそちらに引き渡す』とでも言われたんだろう?魔王が来ようが勇者の自分がいれば対処できると思った。」

 

 そのうえ、うち1体は拘束されて現れる、よしんば、だまし討ちされてもどうにかできる装置なり装備なりをあの築造の勇者は持っているのだろう。

 

 そこまではわかった、問題はタイミング、時間がわからないことだった――だから、その反応を見るために、彼は後輩に電話をした。

 

 魅了されていようがいまいが、人間は嘘を吐くなら確実に反応がある、そして、それを読み取ることにかけて、彼の右に出る者はいないから。

 

「堀田、話さなくていい、お前にも立場があるだろうし、それはわかる、だから黙っててくれるだけでいい、僕が――」

 

「――先輩。」

 

 ぽつり、と、後輩が言葉を漏らした。

 

 泣きそうな、声だった。

 

「俺らね、最近、仕事なくって、妙なことばっかやらされるんですよ。いろんなところにパシらされたりね?」

 

「……?」

 

「でも、今日のはとびっきり変な仕事で――高校の周りの道をヒーローになって止めろっていうんです。」

 

「……!?」

 

 扇の顔が衝撃で固まる、まさか――

 

「――堀田、お前――」

 

「――先輩、正義の味方って難しいっすね、俺には無理でした。」

 

 携帯からはもう、後輩の声はしなかった。

 

 

 

 

「――新、まずい、今日だ!」

 

 叫ぶ、携帯の向こうで、友人が息をのむのがわかった。

 

『――はぁ!?昨日の今日ですよ!?引き渡しまで後1週間ある、いくら何でもそんなに――』

 

「あいつ、勇者狩りに目を付けられたろ!」

 

『―――あの時の……!勇者狩りや秩序委員会の連中に気が付かれないように魔王を呼び込む算段……だから1週間か!』

 

 勇者は大抵異世界から帰ってくる条件として、魔王の討伐を命じられる、そして――魔王の討伐をした人間であればあるだけ、魔王を呼ぶのは直前にするはずだと考える、危険だからだ。

 

 そこを、逆に利用した。

 

 先に呼んでしまえば、極度の力を持つ勇者でもなければ、勇者と魔王を同時に相手はできないと考えてのことだ。

 

「堀田がどっかの学校の道路を封鎖してる!たぶん、設楽のいる高校だ!」

 

『――っ、灯さんたちを巻き込むのか!』

 

 それが、あの勇者の狙いだ。

 

「僕らの想定だと、あの野郎の魔王から魔王を引き渡される想定だったろ、魔王2体に勇者1人じゃ不安だったから――」

 

『灯さんたちを巻き込んだ?』

 

「そんな気がする!」

 

 そう考えると、すべてに納得がいく――そこで、有事に備えて灯たちが学校に来ないという可能性を考えないあたりが、最高に間抜けだが……いや、勇者の計画は大抵こうだ、問題は力押しで解決するのがこの連中である。

 

 内心で舌打ちする――まさか今日とは。

 

『これが占いの……』

 

「ちょうどいい舞台って奴らしい、こいつが外したくって色々動いてたんだけどな……!」

 

 渋い顔で駆け抜ける――友人たちほど脚は速くないのだ、時間がかかる。

 

「急がないとまずい、僕の『予知』通りだとしたら、あのタイミングで全員そろってないとどうなるかわからん。最悪、誰かしら死ぬかもしれん。」

 

『――ありそうだな、新、雄介、準備は?』

 

 尋ねるのは『最終調整』に向かっていた七星だ――いよいよ、向こうも仕上がっているらしい。

 

「今日の怒り具合ならいける!」

 

 扇が叫んだ、ここ20年で最も気分が高揚し、最も怒っている、今なら『殻』を破れても不思議はない。

 

『こっちはチャージに後1時間、どう頑張っても14:00までは無理そうです。』

 

 これもまた予知通りだ……まったく忌々しい、運命は変えられないとでもいうつもりか?

 

『……最悪、俺らだけでやるか。』

 

 ぽつりと、七星が言う――運命には負けたくない、それしか選択肢がないのなら、そうしてやるとしよう。

 

「ゆかり、トランサーは?」

 

『……すいません、先輩、想定通りです。』

 

「やっぱりやってやがったか……初めっからここ狙いだなアイツ。」

 

 舌打ちを一つ、時間を稼ぐ方法がなさそうだ、それに、今日に至るまで必死に研鑽を積んできたが本当に『願い』がかなうかはわからない――荒唐無稽な話だ、自分でも信じてここまで突き進んだがぶっつけ本番は怖いと思うほどに。

 

 だが――何もなくとも、自分達は正義の味方だ、そうなると誓ったあの幼稚園のお遊戯の時間からずっと。

 

「――最悪生身で行く、いいな。」

 

『もちろん。』

 

『20年も前からそういう話だろ。』

 

 友人の了承は得た、さあ、あとは――

 

「――いつも通りのショータイムだ。」

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