特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第34話:開戦

「――やっぱり、来ちゃったんっすね。」

 

 そう言った後輩は、いつも通り、その厳めしい外見に似合わぬかわいらしい外装の装備を身に着け、道の真ん中で仁王立ちしていた。

 

「相変わらず、地味な車っすねぇ、もっといいの乗ればいいのに。」

 

「わかってるだろ、堀田、金がないんだよ――退く気は?」

 

「……社長が、やばいんすよね。」

 

「……そんなに?」

 

「会見の後、倒れちゃって。」

 

「……そうか。」

 

 ガラリ、と、車のドアが開く。

 

 降りてきたのは、翡翠のヒーロー。

 

「じゃあ、僕と踊ってもらおうか。」

 

「……その装備相手だと勝てないんすよねぇ。」

 

「じゃあどいてくれ。」

 

「拾われた恩ってのが、あるんすよね!」

 

 

 

 

 

 その日、高校は阿鼻叫喚だった。

 

 昼休み終わりの、けだるい昼下がりのことだ。

 

 教室移動をせんとしたその間隙を縫ってそれが起きた。

 

 ()()()()()()()()

 

 それも、学校内に突然、何の予兆もなく。

 

 瞬く間に学校を占拠した魔物たちは非常に規律の取れた動きで、学校全体を支配し、誰も知られることなく、『偉大なる母』の来訪を待っていた。

 

「ふむ、ここがチーキュか……空気がまずい。」

 

 心から不快そうに、気にくわないと言いたげに、広めの密室……体育館にそれは現れた。

 

 鮮血の肌、 金鋺(銅製の椀形容器)の瞳、紫の唇、天を突く角――人間ではない、ほとんどその肌を隠さぬ露出の激しい衣装にそれを覆い隠すような長大な外套を身にまとう官能的な女、人型の美。

 

 人間を下等な虫ケラか道端のゴミだと信じて止まない、地球に入り込んだ害獣。

 

 その頂点。

 

 人はそれを魔王と呼ぶらしかった。

 

「お。おま、お待ちしておりました」

 

 そう告げたのは1体の人型、140そこそこの上背の小さなどこか、老婆のごとき人型の異形。

 

 しかし、その個体もまた、鮮血の肌を持ち、天に巻き付くかのごとき異形の角を持つ――これもまた、魔人の1体であった。

 

「ご苦労、フュウルル、この餌場の人間の選定は?」

 

「じゅ、順調です。き、き、生娘かつうつ、美しい娘は別室に集めております。しか、しかし、条件に合う娘は少なく……」

 

「構わん。奴の餌を用意してやらねばなるまい。なぁに、側室をとでも言えばすぐ食い付くよ勇者……いやさ、旦那様はな。」

 

 その言葉に、敬意は感じない、むしろ、どこか侮蔑的な色を濃く含んだ、嘲笑の言葉のように、空間に響いた。

 

「して、我が旦那様はいずこに?」

 

 そう言って片眉を上げて見せる魔王に、魔人はグッグッグと喉につっかえるような声を上げる。

 

「こち、こちらです、このえ、え、えさ、餌場の最も位の高いものの部屋におります。」

 

「ん、そうであろうな、我が主人となるものである以上、その程度の器量というものを見せもらわねばならん。」

 

 つかつかと、快音を響かせて唯一の出口である校庭に出る彼女の耳に、こんな言葉が飛び込んできたのはその時だ。

 

 ―――――穿孔―――――

 

 ついで、逆巻く風の音、空気を切り裂く

 

「――フュウルル。」

 

「h、はっ、なん、なんでしょう。」

 

「客だ。」

 

 ―――――キック!――――――

 

 次の瞬間、ほとんど稲妻のような速度で空中を砲弾が駆け抜ける。

 

 空気を切り裂き、赤熱した足をまっすぐに伸ばして蹴りつける――空気が燃えた。

 

 2人の友人に蹴りだされ、加速した脚は狙いを過たずに標的――魔王の顔面にめり込……

 

「――なるほど?我が旦那様のおっしゃる魔人を唾棄した蹴りとはこれか、なるほどなるほど……それほど大したものでもないな。」

 

 まない。

 

 それどころか、手で受け止められた。

 

「これで終わりか?では、返礼だ、受け取れ。」

 

 そう告げた女が、腕を振り上げ、足を空中に放す――そのまま、無造作に裏拳を砲弾に叩き込む。

 

 ゴンッ!とけたたましい音がした。

 

 そのまま砲弾――いや、七星の体が勢いよく弾かれる。

 

 衝撃制御による防御もほとんど意味をなさない。まるでプロ野球選手の投球のように勢いよくはじき出された彼の体が校舎を激しく揺らして跳ね、校庭に着地する。

 

「……?」

 

 一瞬、殴りつけた手を見つめて首をひねった魔王はおもむろに、傍らの魔族に声を掛けようとして――

 

「む……さらったか、思ったより早いものもいるらしい。」

 

 ――消えていることに気が付いて一つこぼす、なるほど、あれの『中身』に気が付いているらしい。ご苦労なことだ。

 

「さて……旦那様に会う前の肩慣らしと行くか……」

 

 からからと笑い、地面をける――退屈な接待の前に憂さ晴らしと行こう。

 

 13:35分のことだった。

 

 

 

「――おう、来たな。」

 

 けらけらと笑いながら、男が言った。

 

 地味な男だ、決して、目を引くタイプではない。

 

 だが――雰囲気が、違う。

 

 明らかな自信と自分に酔った態度からして――間違いなく、これが勇者だ。

 

「初めましてかな、勇者設楽。」

 

「ああ、初めましてだな扇雄介。」

 

 空から、風を纏った翡翠の男が現れる。

 

 学校の屋上、近頃はカギがかかっているせいで生徒には入れない最も身近な未知の世界。

 

 そこで、2人の男が相対する。

 

「ずいぶん派手にやるじゃないか、勇者狩りに睨まれたわりには度胸がある。」

 

「はっ、最強の魔王を手に入れた俺に、ちんけな暗殺者ごときに何ができる。」

 

「最強?ずいぶんと大きく出たな、お前抜きならこの世界にも来られない程度の雑魚に。」

 

「……人の女に舐めた口きくなよ、二度としゃべれないように顎を砕いてやってもいいんだぞ。」

 

「お前本人にその力はないだろう?だから、こんなケチな計画を思いつくんだ。」

 

 目が、細まる。

 

「これが、ちんけ?世界の誰もやったことのないことだ、魔王を従えた勇者なんて俺しかいない!」

 

()()()()()()()。」

 

「……あぁ?」

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 そう言って、扇は普段の彼からは想像もできないほど侮蔑的に笑った。

 

「何の――」

 

 話だ?

 

 そう尋ねようとしたのだろう男に、しかし、扇は冷ややかに告げる。

 

「これだけの騒ぎになったのに、なぜ、うちの勇者たちは、戦おうとしないのか?」

 

 なぜ, この男はこうも堂々としているのか?

 

「――なぜ、お前はあの時に限って現場に現れることができたのか?」

 

 その答えを、知っていると、彼は言外に語る。

 

「――ああ、何だ、ばれたのか?」

 

 その一言に、設楽は笑う。

 

「なら知ってるよなぁ、俺がこの先、何をするのかも。」

 

 言いながら、設楽は()()()()()()()()()()()

 

 その手に持つのは1枚のカード。

 

「――()()。」

 

 装置が起動し、光が瞬いて――

 

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