特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

35 / 155
第35話:苦境

 ガンと、地面に激突する音と共に高速移動が終わった。

 

 気温の上昇から近頃行われなくなった水泳授業用のプールに放り投げられた魔人、フュウルルは、のそのそと体を起こし、自分をこの場所に運んできたらしい薄青い光を纏ったヒーローに視線を向ける。

 

「ぐっぐっぐ、貴様、インジェワを拘束したという3人組の1人か。」

 

「ええ、どうも、ルモス・ベセルと言います――そちらの名前も聞くべきですかね、魔人の左方には疎いんですが。」

 

「き、き、気にすることはない、どうせ、聞いても誰にも伝えられぬ。」

 

「そうですか、なら、本題に――うちのお嬢様方を放してもらおうか。」

 

「――グッグッグ、ば、ばれてたか。」

 

 言いざま、その不可思議な生き物の顔面がうごめき、現れたのは――

 

「何しとんねん……はよにげぇ……!」

 

「駄目……駄目、ダメ、だめ、ダメ……!」

 

 苦悶の表情の、2人の少女。

 

 よく見慣れた――勇者たちの顔だ。

 

「あなたを置いて?僕らがそういうタイプじゃないことは知ってるでしょう灯さん。誰も傷つけないまま終わりますよ、御影さん。」

 

「「……っ、あほ!」」

 

 罵声だけを残して、2人の顔が魔人に沈む。

 

「っぐっぐっぐ、ご想像通りでしたかな?」

 

「ええ、ケチな寄生虫らしい、いじましいお姿をどうも。」

 

「……き、きさま……」

 

「――その2人はお前ごときが触れて良い存在じゃない、さっさと消えてもらおうか。」

 

「や、やってみるがいい!」

 

 

 

 

 ズバン!と快音を響かせ深紅でしなやかに見える健脚が衝撃防御の上から全身を揺らす。

 

 突っ張った脚にまるで列車が衝突したかのような衝撃が走る。

 

「――ほう、耐えるか、なかなかやるものだな!」

 

 楽しげに、魔王が告げる。

 

 名も知らぬその女の1撃に地面が裂けた――衝撃を逃がしきれない!

 

 受け止めた足を脇に抱えなおし、最大衝撃を込めて関節に肘を落とす。

 

 王心七征拳・爪砕き

 

 脚を攻撃し、行動を不能にするための1撃、ためらいなど許されぬ状況で放ったその1撃は――

 

「弱いな!」

 

 ――しかし、膝関節の強さだけで受け止められた。

 

 舌打ちを1つ、動きを止めずに、腕を跳ね上げて、裏拳を放――

 

「どぉら!」

 

 ――てない。

 

 脚に再び力を入れ、体を持ち上げて壁面にたたきつける――校舎が再び揺れる。

 

 生徒の悲鳴が響く――まずい、これ以上は校舎が持たない。

 

 籠手を使い、体を下に流す、股下をすり抜けて体を飛び退かせる。

 

 その背中を、したたかな後ろ回し蹴りが的中し、再び体が地面に弾んだ。

 

「……惜しい、虫けらでなければ、我が下僕にしてやるのだが。」

 

 そう、魔王が不満げな声を上げたのが、七星の耳に届いた。

 

 

 

 

 吹き飛んだ扇の体が貯水タンクに激突し、貫いて止まった。

 

 水があふれて七星のいる校庭に落ちるさまを、扇は打ち据えられた腹部を押さえながら眺めた――動かなければ追撃が来る。

 

 風圧帯を制御、体をはじいて風に乗――

 

「――おせぇよ!」

 

 ――れない。

 

 一体どうやったのかもわからぬ高速移動、一瞬で視界の端から目の前に現れた異形の存在が空中で体を一回転させての蹴りにて扇の体を屋上に戻す。

 

 屋上のコンクリートに激突し、体が4度5度と跳ねた。

 

「――ああ、いいなぁこれ、たいしたもんだよ。」

 

 震える体を起こそうと力を込める扇に、そんな声が届いた。

 

 視線を向ければ、そこにいた異形の存在――ヒーローの外装を纏った設楽天京が自分の手をためつすがめつ眺めて上機嫌に語った。

 

 本来、ヒーローの外装は勇者には扱えない――体を覆う加護と装置によって擬似的に付与される加護が干渉しあうからだ。

 

 だから、こいつはヒーローにはなれない――はずなのだが。

 

「それも、()()()()()()()()()()()()ときに盗んだわけか……?」

 

 口から血塊を吐き出しつつ告げる、それが、この事件の肝なのだ。

 

「――お前がこの計画を思いついたのは、ゆかりを魅了して、あの子の生家を知った時だろう?」

 

 世界にも名の知れた企業の社長の姪、容姿もよく、天才的な知性を持つ、欲しいと思った。

 

 だから支配しようとしたが――しくじった。

 

「完全に操り切れなかったんだろう、()()()()()。」

 

 プライドが傷ついた、許されなかった――模造品ごときに負けるなど。

 

「だから、ゆかりの気持ちを利用して僕を消そうと思った。」

 

 この男が気が付いた時、自分達はすでに退職させられた後だった、だから……ゆかりに探させたのだ。

 

「――最初に、ゆかりが占い小屋に来た時は驚いたよ、半分ぐらい魅了に掛かってるんだから。」

 

 彼女が影響を受けていたのは、自分の研究成果と自分のせいたと言った、彼女にとって大事ではない部分だけだったが、それでこの男には十分だった。

 

「その日のうちに、お前の魅了は解いたが――もう遅かった、お前はすでにうちの社長を含めて、社を支配してた。」

 

 だから。

 

「お前の計画に乗った、下手に妙な動きをすると、お前が何をしでかすかわからなかったから。」

 

 それは、あかね女史の一件の際に明確になった、自分が計画通りにいかないと、この男は躊躇なく人を殺す。

 

「勇者狩りにも、秩序委員会にも、ばれたくなかったんだろう?」

 

 だから扇を直接は殺せない。

 

「だから、風の砲弾なんて面倒なものを使ったんだろう?『僕にしか気が付かれないように』」

 

 要するに、あれはもとより、扇を狙った襲撃だったのだ。

 

 

 

 

 

 光のベールを、熱球がこともなげに貫く――こいつ!

 

「お、おどろきましたかな?わ、私は、と、取り込んだものの力を行使できるのですよ。」

 

 鋭くとがらせた腕を鋭敏に振り回し、化け物が告げる――まったく面倒くさい!

 

 光を凝集させ、圧力で押し固めた直剣を振るい、その一撃を受け止め――切れない。

 

 勇者の斬撃だ、ヒーローには止められない。

 

 すり抜けるように通り抜けた斬撃が、天塚の体を切り裂く――

 

「――!」

 

 ――と同時に、蜃気楼のごとくかき消えた。

 

 光学屈折による像の誤認、体を高速で滑らせて腹を――

 

「―――!」

 

 動きが止まる――拘束魔法!御影の力!

 

「――わ、私は、と、取り込んだものの力を行使できるのですよ。」

 

 にやりと、いやらしく老婆が笑った。

 

 蹴りが、天塚の顎を砕いた。

 

 

 

 

「――そこまでばれてるんなら、もう俺が何をしたいのかわかってんだろう?」

 

「……」

 

 わかっている、ここまでこの男が隠してきた隠し玉、つい先日仕込まれたらしい罠――

 

「――ここで終わりだ、勇者もどき。」

 

 パチンと、指が鳴った。

 

 次の瞬間だった、3人の変身が解けたのは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。