特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第36話:始まり

 バチンバチンと音を立てて、トランサーが機能を止めた――ゆかりに調べさせた通り、キルスイッチが仕込まれている。

 

「あーあ……お前の頼みの綱もこれでおじゃんだ。」

 

 けらけらと、意地の悪い笑みがこちらに向けられる。

 

「お疲れーやっぱ優秀だな、未来は。」

 

『勇者様におほめ頂き光栄です――私の姪も、確保しました。すぐにそちらにお連れします。』

 

「おお、悪いな、愛してるぜ未来。こいつの始末が済んだら、明と3人で、な。」

 

『――はいっ。』

 

 耳に飛び込んでくる弾んだ社長の声はどこか妄信的で、操られているとありありとわかるありさまだった。

 

 わざわざスピーカーにして聞かせるとは、いちいち性格の悪いやつめ。

 

 そう思ったのと、魔物が2つの影を屋上に投げ出すのは同時だった。

 

「――あん?ああ、なるほど。こいつに逃がさせてたから見つからなかったわけだ。」

 

 そう言って、足で片方の影――先ほど、ゆかりを逃がすように頼んだ堀田を蹴りつける。

 

 敵だらけの会社からは逃がしたものの安全圏が存在せずにつれてきた少女――いや、成人しているが――を託したが、どうも捕まったらしい。

 

「……すいません、先輩つかまりました。」

 

 そう言って困ったように笑う堀田は、それでも逃亡の機会をうかがってるように見えた。

 

「先輩!大丈夫ですか!?」

 

 地面に横たわっているもう一方の影――ゆかりを、しかし、設楽は何の神秘か、強制的に立ち上がらせる。

 

「ユカリン、げんきぃ?お誘い断られて寂しかったなぁ、僕。」

 

 なれなれしく、嘲るように、設楽が詰め寄った。

 

「……そうですか、気持ち悪いんだから仕方がないでしょう、ロリコン。」

 

「えーひどいなぁ、あんまり聞き分け悪いとぉ。」

 

 にやにやと気味悪く笑い、悪鬼は扇の胸部を蹴り上げる――まるでリフティングのボールのように跳ね上げられた、扇が落ちてくるのと、回転した設楽の蹴りが胸部にぶつかるのは同時だった。

 

 べちゃ、ッと、不快な音を響かせて扇の体がコンクリートの壁にぶつかる。

 

「……っ!」

 

「もっとひどいことしちゃうぞー」

 

 けらけらと笑う、設楽に、しかしゆかりが告げる。

 

「……どちらにしても、私を洗脳するのに先輩が邪魔なら殺すのでしょう?下手に拷問しても、時間がかかって勇者狩りや秩序委員会に気付かれるだけですよ。」

 

「ああ、何だ、わかってんのか、じゃあ――」

 

 くいっ、と、設楽が手招きをして見せれば、扇の体が自然と浮き上がり、彼の手の中に首を差し出した。

 

「――もういらないよな。」

 

 そう言って、設楽はゆっくりと首に力をかけて――

 

 首の骨の折れる音は、6限目を告げる鐘の音でかき消されて、誰の耳にも入らなかった。

 

 

 

「――ああ、これは死んだな。」

 

 足元で転がる男を蹴りつけつつ、見せつける様に、魔王はからからと笑った。

 

 呪いで作った遠隔視のための窓、そこに映った屋上の光景を見ながら魔王は告げる。

 

「お前の友人だったのだろう?勇者に刃向かうとは愚かな奴よな。」

 

 あれは利用するものだ、と、魔王は語る。

 

「ごくごく単純な脳細胞に、ごくごく単純な欲求すら抑えられぬ理性、幼稚な万能感を秘めた不出来な石ころ――投げる先さえ選んでやれば、これほど素晴らしい武器もあるまい?」

 

 だから、あの男を利用してやったのだ。

 

 自分を殺しに来たあの男に開口一番『惚れた』と告げ、あの男自尊心をくすぐり、あの男の隣で波動を見届けたいと適当に語ってやれば、すぐにこちらに寝返った。

 

 よほど認められることに飢えていたのだろう、面白いように、あの男はこちらの掌の上で踊らされてくれた――人間たちに強制送還された時は少しばかり惜しく思ったが、逆に、あの男を橋頭保にこの次元を統べる手を思いついた。

 

 向こうの次元に送られる勇者たちすら配下に置くことができるなら、あの次元を統べることなどたやすい。

 

「――勇者とは、どこまで言っても、都合のいい兵器よ。」

 

 そう言って、魔王はけらけらと笑った。

 

 内心で、蹴った男の感触に顔をしかめながら。

 

 

 

 

「じ、じきに、この世は我らが、ま、ま、ま、魔王、イブジェレダ様のものとなるでしょうなぁ。」

 

 そう言って、顎を砕かれ、がっくりと体を倒す天塚に、魔人が告げた。

 

「あの勇者を殺すのは、わ、わ、私が行えます、勇者の力を、2つも手に入れたわけですからなぁ、劣化しておっても、ふ、2人分、ですから、あの男を魔王様と共に殺すだけならば、いくらでもできましょう。」

 

 そうして、あの男の力も取り込み、魔物にヒーローの外装を与えるのだ。そうすれば――勇者とだって戦える。

 

「憎き、よ、よ、よ、妖霊共を使って、我々が世界の王になるのです。」

 

 そう言って、魔人はけたけたと笑った。

 

 

 

 

「――5歳の時だった。」

 

 だから、そんな一言が聞こえた時、魔王も魔人も一瞬いぶかしげな顔をした。

 

「その時、先生が休みで、ビデオを見たんだ、たまにある、幼稚園の娯楽時間。」

 

 その時見たのは――そう、確か、光の巨人の最終回だった。

 

 子供が、光になる話。

 

「あれを見た時、かっこいいと思った。あんなふうになりたいと思った。」

 

 昔の悪役が、ヒーローに光を届ける話。

 

「あれを見た時、僕ならもっとうまく、巨人をよみがらせてあげられると思ったんですよ。ぼく、天才なので。」

 

 人の光で世界が救われた話。

 

「すごく、かっこよかった。」

 

「本当に、かっこよかったから。」

 

「「だから。」」

 

 なろうと、誰かが言った。

 

 小太りで、運動も工作や簡単な計算も苦手な取るに足らない男が。

 

 それほど大した話ではない、子供の戯言だった。

 

 ただ――確かに、なりたいと思った。

 

 初めに行った奴と、無理な特訓メニューを組んで、笑いながらやった。

 

「その1週間後だった、幼稚園にゴブリンが出たのは。」

 

 子供は逃げられた、先生も逃げた。

 

 ただ――時たま楽しそうにこちらを見ている少女が巻き込まれた。

 

「近所の子だった、白雲さんちの、小さな子。」

 

「ゴブリンが来て、固まって、動けなくて――」

 

 襲われそうになった。

 

 誰かが助けに行かなければならなかった。

 

「俺には無理だった、運動神経がどれだけ良くても、化け物は怖かった。」

 

「僕には無理だった、助ける方法は10も20も浮かぶのに、体が動かなくて――」

 

 小太りの彼が走っていた。

 

 小鬼に割られたガラスを片手に、とびかかっていった。

 

 ぼろきれのようにされながら、助けた女の子に怖がられて逃げられながら。

 

「何で、そんなことしたんだって、あとで聞いたんですよ。」

 

「そしたらあいつ――」

 

『だって僕、正義の味方になるっていったし……?』

 

 本気で、不思議そうにそう言ったのだ。

 

「だから、俺もなれると思った、なりたいと思った、なるべきだって信じた。」

 

 ゆっくりと、七星は体を持ち上げる。

 

「そのために、時間をかける価値があると思った、友達として、それができるべきだと思った。」

 

 ゆっくりと、拘束から抜け出すように天塚が告げる。

 

 だから。

 

「――何の話だ。」

 

 心からいぶかしげに、魔王が訊ねる。

 

 当然だろう、意味の分からぬ話だ。

 

 そんな彼女に、七星が告げる。

 

「――知らないようだから教えてやろう。」

 

 砕かれて動かぬはずの顎を震わせて、天塚が言った。

 

「超能力者っていうのはね、首の骨を折られたくらいじゃ死なない――らしいですよ。」

 

 2人の後方で、屋上に雷が生まれた。

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