特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第37話:変身

『―――何が……』

 

 起きてる?

 

 確かに、自分は男の首を折ったはずだ。

 

 手ごたえはあった、間違いなく、自分はこの男を殺したはずだ――はずなのに……!

 

「――なんで立ってんだお前……!」

 

 叫ぶ、目の前のそれが、自分が出会った何よりも恐ろしかった。

 

 ()()()()()()()()()

 

 首をぐらりとおかしな方向に曲げながら、まるで幽鬼か……動死体のように。

 

 その体から、青の電光を放ちながら――近寄れない!

 

 死んだはずだ、殺したはずだ――なのになぜ―――……

 

「――昔、ヒーローになりたかったんだ。」

 

 ぽつりと、扇の口からそんな言葉が漏れる、砕けたはずの首がぼきぼきと音を立てて元の形に戻っていく。

 

「でも、幼稚園のおんなじクラスの奴がさ、言うんだよ、あれは作りものだーとか、あんなのになりたいなんて変だーとかね。」

 

 それは、いいのだ、気にしていない。

 

 ただ気になったのは――

 

「――ああいうのはかっこいい人間にしかなれないんだって言われたのは、困った。」

 

 小太りな彼は、悲しいかな、顔がかっこいいとは言えなかった。

 

 だから。

 

「どうやったらなれるのか、いろいろ調べた、親父のパソコン使って。」

 

 運動神経――ない。かけっこで最下位以外取ったことがない。

 

 頭の良さ――ない、いつも馬鹿だのろまだと煽られる。

 

 心の強さ――わからない、つらい事にあまり遭遇しないから。

 

「でも、これしかなかったんだ。」

 

 ほかのものは鍛えても七星や天塚にかなわない。

 

 だから――心を強くしようと思った。

 

「で、いろいろ見てたらカブトムシのヒーローが自己暗示っての使ってた。改造手術の洗脳も跳ねのけられるすごい技。」

 

 そんなことが、実はできないと知ったのはずいぶんと後のことだ。

 

 初めてできた友人と、ヒーローになろうと誓って1週間、自分はヒーローに、正義の味方になれると信じる様に、自己暗示をつづけた。

 

 そして――女の子を襲う、敵に出会った。

 

 怖くはなかった、なりたいものになろうと思った。

 

「そしたら、ゴブリンに勝てた。」

 

 だから。

 

「確信した、これを極めていけば、僕はきっと――あこがれたものになれるって。」

 

 ばきばきと、首の骨が元に戻る生々しい音が響く――首の角度が元に戻った。

 

「――()()()()()()。」

 

 まさか、20年もかかるとは思っていなかったが――それでも、彼らは願いをかなえたのだ。

 

「チャイムが鳴ってる――2時だ、チャージ、終わったろ?」

 

『――ええ、ばっちり、さぁ、20年ぶりに――』

 

「『『本気出すぜ。』』」

 

 扇が万歳でもするように両の腕を伸ばす。

 

 七星が腕を大きく開いた。

 

 天塚が、ベルトにしつらえられた筒状の装備から棒状の装置を取り出す。

 

 その光景に、設楽が、魔王が、魔人が、その体を動かす。

 

 設楽の腕に紫電が走る――勇者の力、錬金の加護、それが、一瞬にしてコンクリートを支配し、鋭い槍としてその姿を変える。

 

 魔王の足蹴りによって地面が爆ぜる――刹那にも満たない時間で、七星の目の前には大きく体を回し、後ろ回し蹴りの体勢を取った魔王がいた。

 

 魔人の口から、灯の声が漏れ、空中に太陽のごとき力の塊が生まれる――それが投げつけられるまで、1秒もなかった。

 

「――超力。」

 

 扇の両腕が大きく外回りに胸の前で交差する。

 

「―――円輪」

 

 七星が腕を大きく回し、下腹部――臍下丹田のあたりで互い違いに合わせた。

 

「―――次元」

 

 棒状の装置が、スイッチに導かれて展開する。

 

「「「変身」」」

 

 ひときわ激しい、雷鳴がとどろいた。

 

 臍下丹田から頭頂部までに7つの光が瞬いた。

 

 棒状の装置から赤光が吹き上がる。

 

 

 

 

『この世界には不可思議などない。』

 

 人は声高にそう言うだろう

 

 だが、それに頷くには『この世界には不可思議なものが多すぎる。』

 

 阿呆、奇跡、伝説、おとぎ話――そういったものが存在するのにこの次元という場所に、本当に『1つも超自然の力が存在しない』と言えるのだろうか。

 

 人はさかしらに言うだろう、『すべては幻覚や勘違いだ』と。

 

 魔法は科学知らぬ者たちが勘違いを起こしただけだ、奇跡は偶然で、伝説、おとぎ話は嘘でしかない。

 

 だから、すべては科学で説明ができると。

 

 だが――だとしたら、なぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()

 

 妖霊が存在する以上、最低限、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 そして――その影響を受けた人間がいるのなら、何かの理由で、次元に穴が開くことがあるのなら。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、彼らは鍛え上げたのだ、その入り口になりうると信じるものを。

 

 あるものは肉体だった、あるものは知性だった、あるものは――精神だった。

 

 その結論がこれだった。

 

 

 

 

 コンクリートの槍が、扇の体を貫く――抵抗などみじんも感じない。

 

「――はっ、派手なだけのこけおどしか、下らね――」

 

「――ご高説のところ悪いが……当たってないぞ。」

 

 声、背後。

 

 瞬間、設楽の体が反転する、自分の背後、そこに――何かがいた。

 

 電離層を透かして見た夜空のような青、平滑でありながら、金属的光沢をわずかに帯びる不可解な肌をしたそれは触感は冷たく、しかし生命反応は明確。

 

 頭部サイズ・形状は概ね人間に近いが、額がわずかに高く、丸みを帯びる側頭部の輪郭が滑らかで、筋肉の起伏が少ない。

 

 が、何より目を引くのはその頭に伸びる2本の角――いや、羽根のような器官だ。

 

 眼球は、多面体状の結晶構造を呈し、色彩は深い赤にも、紫にも、明るいベージュにも見える。

 

 首からは長い――マフラーのような器官が垂れさがっている。

 

 一見すると、青い肌をした全裸の人型、そう見える何かが、自分の後ろにいた。勇者であり、ヒーローの外装を纏っている自分にまったく気づかれることなく。

 

 そして、その両手に自分がさらうように命じた裏切り者のヒーローと――ゆかりを抱いて。

 

「テメェ……扇か。」

 

 考えるまでもなかった。こんなことをする人間はこいつしかいない。

 

「そうだ――なかなかかっこいいだろう?」

 

 ひらりと、その手を揺らすしぐさは先ほどまでの小太りの男からは考えられぬほど優雅に映った。

 

「新の――天塚の言うことにゃ、僕は精神修業のし過ぎで、脳の情報処理パターンが、単にニューロン内部で閉じず、周囲空間に“場《フィールド》”としてはみ出すらしい。」

 

 そしてその情報エリア――曰く、ψ場を介すことで、彼は肉体を物理的に超越し、念力が……超能力が使えるようになったというのだ。

 

「まあ、本当はいろいろ面倒な説明もされたんだが――僕はあいつほど利口じゃないからな。よくわからなかった。」

 

 彼にわかったのは1つ――

 

「――僕はなりたいものになれたことさ。」

 

 そう言って、彼はひらりと、手を横に振った。

 

 次の瞬間、設楽は空中にたたき出されていた。

 

 

 

 

「――なんだ、意外と威力ないんだな?」

 

 渾身の後ろ回し蹴りにそんな評価をされた経験は、魔王にはなかった。

 

 周辺の国家でも随一の剛力を誇る自分に、そんなことが言える人間が勇者以外に存在するはずがないとも、思っていた。

 

 だが――現実はどうだ?

 

 謎の光を身に纏った男は、その姿を大きく変えて、自分の脚をまるで生娘のそれのように受け止めて見せたではないか。

 

 鱗・甲殻とも違う、筋膜が結晶化したような光沢のある肌。

 

 隙間なく全身を走る発光線状の器官。

 

 眼は虹彩を持たぬ、自分達に近い金属的な輝きを宿し。

 

 脊椎基底部から背骨沿いに走る発光器官を輝かせたそれは、人間よりも自分達の仲間に近く見えた。

 

「何者だ……!」

 

 思わず漏れた一言に、しかし、男は困ったように苦笑して――

 

「それをまだ考えてないんだ――まあ、あんたに勝つまでには考えつくさ。」

 

 そう言って、彼女の脚を上に放り投げる。

 

 それは、自分が、つい先ほどこの男の蹴りに対して返した返し技――

 

「――そっくり返すぜ。」

 

 槍のように鋭いサイドキックが、腹部に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 着弾した火球がもたらす粉塵が、被害結果を隠す――だが、これほどの熱量だ、生きているはずもない。

 

「――ふーむ、僕が想定してたよりも出力が高い……?初登場補正ってやつですかね……」

 

 ――生きているはずがないのに!

 

「うぎょあぁぁあぁぁぁ!」

 

 叫ぶ、自分の腕がなくなった痛みに。

 

 勇者の攻撃を受けても消え去らぬ敵に。

 

 その姿が、これまでと変わっている事実に。

 

 基本形状は変わらない、二足直立・左右対称、人だ、そうにしか見えない。

 

 だが、それ以外はすべてがおかしい、皮膚は一見して滑らかであり、傷や凹凸がないように見える――半透明の皮膚だ。

 

 内部を、血液のように光の球のようなものが脈動しているのが見て取れる。

 

 身体輪郭が完全に固定されて見えない上に、頭部形状は滑らかな流線型で明確な鼻・口の起伏は存在するが、表情は乏しい。

 

 胸中央に根差す、三角形の穴のような部分がうなるように光を放出し続けている。

 

 まるで立像のようだ。

 

 その謎の実体が、噴煙の向こうから、円盤状の光を投げつけ、自分の体を切り裂いたのだと、魔族はいまだに気が付いていない。

 

 だから、その実体が一瞬のうちに接敵し、体を蹴り飛ばしたことにも、彼は気が付けなかった。

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