特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第38話:一転攻勢

「――なれたんですねぇ、先輩。」

 

 青色の腕の中で、ぽつりとゆかりがこぼした。

 

 自分が4歳の時、血まみれになった背中を見て逃げ出したあの日から、ずいぶんと時間が経った――20年以上だ。

 

 ずっと言い続けてきたその姿は、聞いていたよりもずっと――

 

「――きれい……」

 

 ほほ笑んで、頬を撫でる。

 

 冷ややかで、しかし、明確に生き物の脈動を感じるその肌に、自分の指が滑るのが、なんだか少し、面白かった。

 

「悪かったな、変な演技させて。」

 

「時間稼ぎだったんでしょう?いいですよ、たまには危ないこともしないとつまらないでしょう?」

 

 ただ。

 

「――あなたが死んだかもしれないと思うのは怖かったです、もうやめてくださいね。」

 

「ああ、必要ないならね。」

 

 そう言って、青色の超人は苦笑した――自分でも止められないのだ。仕方がない。

 

「――堀田。」

 

「ぇ、あ、はい!」

 

「ゆかりを頼む――もう勇者は手出しできん、校舎に入ってろ。」

 

「う、うっす。」

 

 そう言って体の痛面に顔をしかめ――

 

「!」

 

「もう治したよ、いけ。」

 

 そう言って手をひらりと振る。

 

 ψ場は、周囲の熱振動、電磁ノイズ、大気の乱流などからエネルギーをわずかに“整列”させて集める――意思に隷属させる。

 

 現実が存在する限り存在する場を維持するためのエネルギーが、余人には到底たどり着けぬ圧倒的な精神力場によって支配され――結果が生まれる。

 

 触れてもいない屋上の扉が開き、誘うように空気を吸い込んだ。

 

「先輩、おばさまと灯たちを。」

 

「任せろ――僕ら3人がいてできないことなんてないさ。」

 

 そう言って――扇の体が一瞬の閃光と静電気のようなかすかな稲光を残して消えた。

 

 

 

 

「あ、やべ。」

 

 思わず、と言った風情で七星が声を上げる。

 

 つい調子に乗って魔王を校舎の方に蹴ってしまったのだ、自分の激突でかなりのダメージを負った校舎が魔王の激突に耐えられるかは疑問だ。

 

 脚に力を込める。

 

 飛び出した魔王が校舎に激突する前に反対に蹴り返す必要が――

 

「ごぎゃ!」

 

「ぐぶっ!」

 

 ――なかった。

 

 上空から落下してきた影が、空中で魔王と激突してその力のほとんどを受け止めたからだ――本人はひどく不本意だっただろうが。

 

「――お、なんか意外とスマートな変身。」

 

「仕方ないだろ、肉体変化だから装飾が付かねぇんだよ。」

 

 からかうような声が突如横から届く――扇だ。

 

「そういうお前は、偉く青いな。」

 

「漫画版に忠実なんだよ。」

 

「そういえばあっち深い青だったっけ、いいなぁ……そういういいなぁ……」

 

「20年以上、阿闍梨と同じ生活習慣を取り続けるとみんなもなれるぞ!」

 

「お前しかできねぇだろ、生物学的に考えて。」

 

 けらけらと笑う友人に苦笑交じりに返す――9日間の完全断食を20年繰り返しながらのヒーロー活動など、自分にもできない。

 

「さて――で、最後の1人は?」

 

「もう来るよ。」

 

 そう言った時だ、蹴り飛ばされた何かが高速で飛来して――それを、それよりも早いものが、超える速度でその物体の真上にあらわれて、折り重なった魔王と勇者の上にたたきつけた。

 

「あれ、中身大丈夫なのかね。」

 

「内部には衝撃が伝達されないようですよ、外部から人質を殺されて力がなくなるのを恐れての処理じゃないですかね。」

 

 先ほどまで、3体の敵の上にいたはずの半透明の実体――天塚が告げる。

 

「そりゃ都合がいい――で、次は?」

 

「魔王が再活動する前に、校舎の連中を始末する、人質にされると怖がらせるしな。」

 

「フム――どうします、僕が高速で走ってしばいてもいいですけど。」

 

「いいよ、その間に魔人に逃げられるとまずい、僕が連中を外に引き出す、あとは――」

 

「――僕が一掃、了解です。」

 

「俺の仕事がねぇ。」

 

「勇者と遊んでくれ、今に――」

 

 ――起きた。

 

 バン!と地面を強くたたく音が響き、地面が隆起する――錬金の加護、地面を槍に作り変えたらしい。

 

「この攻撃好きだなアイツ――天塚。」

 

「チャージしまーす。」

 

 言いざま、またしても扇の姿が消える――それが瞬間移動の超能力だと気が付けた人間が、この場に何人いたことだろう。

 

 ほとんど同時に飛び上がった天塚が胸部の前でひし形を作るように構える。

 

 光が、強く漏れた。

 

 その間隙を縫って、扇は自身の内側にある力を呼び起こし、学校中を『見た』。

 

 厚いコンクリートの向こう、ひしめく怯えと魔王への不満、目の前にある餌や雌を襲えない苛立ちを見た。

 

 ゆっくりと、手を伸ばす。

 

 広げられた手が、ゆっくりと握られて――腕が、引かれた。

 

 バチンと紫電が走った。

 

 次の瞬間、学校中にいたはずの魔物すべてが、一瞬にして扇の目の前に現れる――瞬間移動による強制回収、空間も距離もなきものとする精神の御業。

 

「天塚。」

 

「しょっぱなですし、2%で行きましょうか。」

 

 言いざま、天塚は構えた手を開放する――時空相転写機構により生み出された、Phase《相》-Shifted Stratum Body《転写体》を構成するプランク長から生み出されるエネルギーを光波に転換して――放つ。

 

 光圧導波器官が可干渉光と荷電粒子を生成、体表の放射口へ導光、先行プラズマ化により空中での減衰を抑えて噴射された青白の線は一瞬にして魔物を閃光の内に飲み込み――そのことごとくを焼却した。

 

「――フム、まあこんなもんですかね。」

 

 自慢げに、半透明の男が笑う。

 

 口も、眼も動いていないが、その声音は自慢げだった。

 

「さて――だれがどれと当たるか。」

 

 消し飛んだ魔物に一瞥もくれずに、扇が告げる――正直、誰がどれと当たってもそれほど問題はないが、初陣だ、選べるのなら敵は選びたい。

 

「僕はあの魔人でいいですよ、光線の威力もわかりましたし。」

 

「おや、欲のないこと。いいのか、あの勇者、君と因縁あんだろ。」

 

「ええ、灯さんたちを助けないといけませんし――さっき、魔人との戦いで顔見ちゃったので、見過ごせないでしょう?」

 

「ああ……じゃ僕が魔王か。」

 

『――いいぞ、代わってやるよ。」

 

 脳裏に、そんな声が響く――テレパシー越しの会話、七星だ。

 

「いいのか?」

 

『魔王様は俺にご立腹らしいからな。起きたらすぐ向かってくるだろ。そっちはこっちが受け持つよ。』

 

 それに――

 

『ゆかりにしたこと、許してないだろ、お前が始末付けろよ。』

 

「……なんだ君ら、今日ずいぶん優しくねぇ?」

 

『機嫌がいいんだよ。』「機嫌がいいんですよ。」

 

 そんな友人たちの会話に苦笑して――扇はありがたくその申し出を受けることにした。

 

「じゃ、あとよろしく。」

 

『うーっす。』

 

「僕の分も殴っといてくださいね。」

 

 そんな言葉を最後に、扇は戦場から姿を消した。

 

 次に現れたのは――黒土製薬本社、その頂上。

 

 目の前で唖然としている男が、自分の後輩から奪い去ろうとした場所だ。

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