特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第39話:魔王の死

 ――思えば、気が付くべきだったのだ。

 

 なぜ、ヒーローなどという勇者のまがい物ごときが自分の蹴りを受け止められているのか。

 

 なぜ、自分と殴り合いを演じられているのか。

 

 なぜ、殴りつけた時の感触が、勇者よりも重く、硬かったのか。

 

 なぜ――生身で殴ったのに、殴った時の感触がヒーローとやらの時と変わらなかったのか。

 

 勇者共の話を信じすぎた。

 

 自分達以外戦えないなどと――とんだ詐欺だ。

 

『こんな化け物を隠していたのか……!』

 

 猛然たる勢いで襲い掛かる魔王の1撃はその風圧だけで人を殺しうる速度と力がある。

 

 武器などという脆弱なものを持たぬ彼女にとり、両の拳と足はあらゆるものを砕く戦槌と変わらぬ物のはずだった。

 

 岩を砕き、山を粉砕し、鉄を貫くそれが、彼女の体だ。

 

 周囲の魔王も、周囲の魔族も、周囲の魔物も、それを知っている。

 

 遠き人の国にすら、彼女の力は轟いている――曰く『金剛拳の魔王』として。

 

 ――だが、現実はどうだ?

 

 万物よりも固きとうたわれた拳の1撃は、迎撃の拳の1撃で砕ける。

 

 衝突した拳の衝撃は手首を激しく攻撃し、握力を一瞬失わせるに足る衝撃だ。

 

 そのまま巻き取るように手首をつかまれて――体が引かれる。

 

 1本1本が鋼に近い硬度をしているはずの筋繊維は、しかし、この生体装甲の前には意味をなさない。

 

 深く、拳が腹部に埋まる。

 

 魔王は生まれて初めて、体がくの字に折れ曲がり、呼吸ができなくなる感覚を知った。

 

 そのまま、跳ね上げられた腕、鶴頭が顔面を跳ね上げる。

 

 一瞬思考が揺らぐ――これもまた初めての経験だった。

 

 そのままの勢いで引手だった左肘が折りたたまれて顔面にたたきつけられる――まずい、この流れなら次の1撃が……!

 

 来た。

 

 引きつけた右手が前進と共に放たれる。

 

 王心七征拳・正拳突き。

 

 すべての武芸の基礎にして奥義は、狙いを過たずに胸骨をうがった。

 

 心臓が止まりかけるのを、魔力でごまかす。

 

 痛みを無視し、体を動かす――殴られた反動を利用した後ろ回し蹴り。

 

 空中を走るハイキックが、空を切った――いや、そもそも敵の姿自体が……!?

 

 軸足が刈り取られたのはその時だった。

 

 地面に寝そべっているかのような極低姿勢な蹴りが足を払ったのだと気が付いたのは体が地面にしたたかに打ち付けられた瞬間だった。

 

 水平蹴り、わざわざ語るべくもない単純な技、彼がこの日のために生み出した「王心七征拳」の技ですらない。

 

 それはこれのことを言うのだ。

 

 体の内側で、整った調息の果てに生み出される異常な熱量を放つ手刀が天高く立ち上る――

 

 王心七征拳・烈火斬。

 

 天頂高く、貫くように伸ばされた手が鋭い音を立てて地面に向けて振り下ろされる――その手は、赤熱していた。

 

 魔王の脚が、とっさに勢いよく地面をける。

 

 体が回転し、横に体を躱した――地面に、手刀が付いたのはその時だ。

 

 衝撃音はしなかった。

 

 スパン、と、音を立てて、手刀が地面をえぐる――いや、溶断した。

 

 おぞましい熱量、自分の体であっても、痛打になるであろう1撃を、彼はまるで単なる手刀のように放つ。

 

 これでは、勇者を相手しているのと――いや、それ以上の危機だ。

 

 おまけに――こいつらは3人いるのだ。

 

 1人でも勇者に匹敵する力を持つ化け物が3人、それも、勇者と異なり、相手を尊重し、連携を取るというのだ!

 

『こんな、こんな連中が……!』

 

 知らない、こんな連中のことは、妖霊共もこんなことは言ってこなかった!

 

 体を跳ね起こし、大きく後ろに跳ねる――この男の技量は危険だ、自分とはものが違う、勝てない!

 

 こうなっては仕方がない、確実性はないが、自分の身にあふれる潤沢な魔力を背景に削り殺すしかない。

 

 これまでの戦いで、この男に遠距離攻撃の方法がないことはつかんでいる、距離を取り、その攻撃をことごとく打ち滅ぼす――

 

 そう考えた時だ、彼女が異変に気が付いたのは。

 

 敵の動きが違う。

 

 左手で右手を包むような動き、そうして動いたその手に――謎の発光が宿った。

 

 そのまま、右足を下げ、左足を前に、腰を落として、右手――光を宿すその手を腰につける。

 

 まずいと思ったときにはすでに拳が打ち出されていた。

 

 ぶぎゅ。

 

 そんな、聞き覚えのない音が耳に届いた。

 

 その音が、自分の喉から漏れていたことを、魔王は自分の胸に穿たれた穴を見た時に気が付いたのだ。

 

 王心七征拳・奥義・極光拳。

 

 日輪のごとき輝きと共に放たれるその1撃は、この姿――チャクラに覚醒した彼が、遠距離に放つことを前提として作り出した遠近両用の奥義であった。

 

 

 

 

 

 

 影の楔が、半透明の生き物に迫る。

 

 あらゆるものを拘束するべくくみ上げられた勇者の魔力――それが、この男には通じない。

 

 影の拘束を、ひらりと軽やかに飛び上がるこの化け物は、こともなげに腕から射出した光の円刃で切り捨て、崩壊させる。

 

「う、うぃぃぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」

 

 叫び、腕を尖らせた剣を振るう。

 

 戦闘系勇者に与えられた剣の加護、あらゆる刀剣を自在に操るとされた神秘の力――その力の前に断ち切れぬものはないと、彼は信じていた。

 

 だが――だが、なぜ、この生き物は断ち切れない?

 

 今だってそうだ、赤い腕は相手の差し出した掌に受け止められ、そのまま、握られる。

 

 その掌に、傷がついた様子はない。

 

 魔人の、魔王から天下無敵の力を得たはずの自分の力が、この生き物には全く通じない。

 

 転じて、相手の力はどうだ?

 

 放たれる円刃は自分の肌をまるでバターのように切り裂く。

 

 この、魔人である自分の皮膚をだ。

 

 いまだに自分が殺されていないのはあくまでも、自分の体内にあの男の救助対象がいるからに他ならない――

 

「――そこか。」

 

 ――ここまではそうだったのだ。

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