その発光する目が、自分の内部の何かを映し出しているのだと察した魔人の動きは鋭敏だった。
「――ま、まてぇ!い、いいのかぁ、私が死ねば、私の体内にいる者もまた滅ぶぞぉ!」
情けのないその言葉に、魔人としてのプライドが軋んだ――だが、気にして何になる?
死にたくなくて、知性を身に着けた。
今の自分のものに比べれば考えるほどもないほど脆弱なその知性で、必死に生きて来た。
死にたくなくて、魔人になった。
魔王に知性を見初められて自分はこの世で初めて奪う側になった。
今では、あまたの生命体の命をすすり、利用し、この体を作り出した。
その結果がどうだ、魔王すら恐れる勇者の力を扱う、最も強大な魔人、四天王の一角に上り詰めた――だというのに!
間抜けな女がこんな世界に手など出すから、自分は今死にかけているではないか!
もはやプライドなどどうでもいい、そんな糞の役にも立たぬもの、犬にでも食わせればいい、あの男をだませるのなら何でも構わん――
「貴様は知らぬことだろうがな、我が肉体は四次元の道とつながっている、その道の内側に我が内臓――胃が存在するのだ。」
その胃の内部に貯蔵した者の力を、彼は自在に扱える。
一度飲み込まれてしまえば、勇者と言えど逃れぬことのかなわぬ力。
「その胃袋とつながっておるのは唯一、わ、わし、儂のみ!もしもわしを殺せば、おぬしの助けると誓った娘子は死ぬ!何もできず、何も得られぬままな!」
だが。
「お、おぬしがわしを、逃がしてくれるというのなら、わしもまたお前の望みをかなえようではないか!」
曰く、この場で1人を、そして、逃げた先でもう片方を開放する――そういう契約。
「ど、どうだ、悪い話ではあるまい――」
そう告げた魔人に、しかし、半透明の実体の反応は思わしくない。
じっと、何かを見透かすように、表情のうかがえぬ顔で、魔人を見る。
「な、何だ、何が言いたい!」
「一つ、疑問がありますね。」
「な、何だ、答えられることならば答えて――」
「――お前、次元とつながっていないでしょう?」
首をかしげる、そのしぐさだけで、生き物がこんなにも絶望できるのだと、この魔人は初めて知った。
「僕も、最初、2人の体積をどこにやったんだろうと思ってたんですよ――小さいでしょう、君。」
2人の体が入っているにしてはあまりにも小さい。
「だから、どこかに貯蔵機関でもあるのかと思ってさっきから探ってるんですが――違うのでしょう?」
自信ありげに、いや、確信をもって断言する。
「お前、その体に取り込んだ対象を『擬似的に溶かす』ことができるんですね、その力で包んだものを一時的に『自分の細胞と同化させてる。』、加護が肉体につくわけではありませんが『加護が同一の個人を特定する際には細胞が必要になる』。」
だから、加護の力が使えるのだ。
加護側がこの生き物と黒土姉妹を混同しているから。
「加護はシステマチックですからね、連中は同じ場所に2人の人間がいることをおかしいとなんて思いません。」
そう言って鼻で笑う――だから、この生き物はあの時、2人の顔を同時に展開できた――あれは、この生き物の細胞だったのだ。
「つまり――お前を殺そうが関係はない、次元の穴など開きませんからね。」
取り込まれた時点で負け――そういう個体なのだろう。
「っく、っくくく、であるならどうする?貴様の救いたかった娘たちはもう――」
「僕はね、憧れが捨てられない男なんですよ。」
肩をすくめる、事実を述べる。
「な、何を言って――」
「僕のあこがれの始まりは、光の巨人でした、ああなりたいと願った、あんなふうに――まあ、だからこんな姿なんですけどね、本当は肌に色も付けたかったんですよ、青紫と赤の。」
それが、できなかったのが唯一この体の欠点と言える。
「そしてね――彼らは往々にして、わけのわからない奇跡を引き起こすんですよ。」
言いざま、彼は両の手をぴんと伸ばし、眉間の前で交差させ――その手を魔人に差し向けた。
プランクプレーンの内側からあふれるエネルギーを存分に引きずり出し、この戦闘実体の力で形成されたエネルギー波は高速で魔人の体を貫き――細胞の分裂を促進した。
「ごぼぇ?ごぎぎ!?」
自分が戦闘用実体を作るのと方法論は同じ、こいつの細胞内部にある彼女たちをかき集めればいい。
「アボー!アバーー!」
ごぼごぼと、のたうつように魔人の体が膨らむ――それが、ブチンと音を立てて切れた時、地面に転がったそれが、形を示す。
それは――
「あr、あり、ありえぬ!な、なぜ、なぜ私の力が……私から抜けて!」
「そりゃあなた――僕は光の使者ですから、奇跡一つ起こせないと片手落ちでしょう?」
そう言って、彼は手の内の円刃を振りぬく。
死にたくなかった魔人の死は、存外にもあっけなく訪れた。
「―――」
そんな光景を、黒土製薬の屋上で、設楽天京は呆然と見つめていた。
「と、まあ、こんな具合だ。」
そう言って肩をすくめるのは、青色の魔人――いや、化け物だ。
「――さあ、こっちも終わりにしようか。」