特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第41話:逆行

 あってはならぬことのはずだった。

 

 自分は勇者なのだから、最後には自分が勝つのだと信じていた。

 

 なのに、なぜ今、この男は自分を前にこうも悠然と立っていられる?

 

 勇者になった自分には、万人がひれ伏すはずだ。

 

 自分の価値を見出せなかった親も、自分を気持ち悪いと排除した学校も、自分の力を発揮させなかった社会も、すべて。

 

 そうだと信じてきたし、これまではそうだった。

 

 親は帰ってきた自分を家の誇りだと呼んだ、あれほど威張りくさって『もっと周りと合わせろ』なんて言ってきた両親も黙った。

 

 自分にイキリ散らかして、攻め立ててきた連中も黙らせた。

 

 警察だって俺には――僕には手出しできない。

 

 それが、勇者だった。

 

 そのはずなのに――なぜ、自分が負けかけているのだ?

 

「――――――おかしいだろうがよぉおおおお!」

 

 設楽が狂乱と共に足を踏み鳴らす。

 

 ドゴォォォン!と建物が悲鳴を上げ、屋上のコンクリートがまるで生き物のように隆起した。

 

 ひび割れた床から飛び出したのは、建物を支えていたはずの極太のH鋼と、無数の鉄筋だ。

 

 それらが設楽の意思に従って飴細工のようにねじ曲がり、彼の目の前で2本の長大なレールを形成する。

 

 さらに、千切れた高圧電線が蛇のように絡みつき、バチバチと青白いスパークを散らし始めた。

 

「俺の『築造』に作れねぇもんはねぇ! 見ろ、特撮《テレビ》で見たんだろ? これがお前らの大好きな『超電磁砲《レールガン》』だ!」

 

 2本のレールの間に、圧縮された鉄塊が装填される。

 

 勇者の魔力が電力へと変換され、空気が焦げる異臭《オゾン臭》と共に、莫大な磁場が嵐のように吹き荒れた。

 

 それは、理論もへったくれもない、勇者の理不尽な力だけでねじ伏せる、即席の処刑台だった。

 

 狙いは一瞬、放つのもまた一瞬だ。

 

 轟音、という言葉すら生ぬるい。

 

 大気が裂帛の悲鳴を上げ、屋上の空気が衝撃波によって白く爆ぜた。

 

 2本のH鋼レールの間を走り抜けたのは、設楽の魔力によって極限まで圧縮された鉄の塊だ。

 

 初速はマッハ70。

 

 現代の戦車装甲すら紙切れのように貫通し、その背後にある街区ごと消し飛ばす破壊の光条。

 

 回避は不可能。瞬きする時間すら与えられない死の宣告。

 

 物理法則に従えば、扇雄介の頭部は熟れた果実のように弾け飛び、その存在は肉片へと変わる――はずだった。

 

「――は、ぁ?」

 

 設楽の喉から、間の抜けた音が漏れた。

 

 死んでいない。

 

 血の1滴すら、流れていない。

 

 それどころか。

 

 キィィィィィン……という、不快な金属の共鳴音と共に、赤熱した鉄塊が、扇の鼻先数センチの空間で()()()()()()

 

 まるで、透明な琥珀の中に閉じ込められた羽虫のように。

 

 困ったようにその眉のない眉間にしわを寄せる青色の人型は、以前その場に健在だった――いや、それどころか『砲撃を空中で止めて見せた』

 

 彼がかざした手の先で、キュルキュルと弾丸が回転している――まるでまだ前進を続けているかのように。

 

「……漫画の技って、真似してみると案外かっこよくないな、エフェクトが足りないのかね……?」

 

 そう言いながら、男は――扇雄介は肩をすくめた。

 

「あんまり派手に壊すな。直すの大変なんだよ。」

 

「……何をした?」

 

「砲弾を念力で止めた。」

 

「ありえねぇだろ、なんでそんな真似ができる?」

 

「鍛えたからな。」

 

 苦笑交じりに告げる――ありえない。

 

 鍛えた程度で、あるいは、何かを訓練しただけで、こんなことはできない、あり得ないことだ。

 

「ふざけんなよ……! 鍛えた? 努力? そんなもんで、俺の『加護』が破られてたまるかよ!」

 

 設楽が叫び、足元のコンクリートを強く踏みつける。

 

 瞬間、屋上の床面が波打った。

 

 まるで生き物のように隆起した床材は、無数の鋭利な槍《スパイク》へと姿を変える。

 

「死ね! 串刺しになれ!」

 

 全方位からの刺突。

 

 逃げ場のない飽和攻撃。物理的に肉体を貫く質量と速度の暴力。

 

 人間であれば、回避不能の死の牢獄。

 

 だが――

 

「――芸がないな。」

 

 青の超人は、動かなかった。

 

 いや、動く必要すらなかった。

 

 迫りくるコンクリートの槍衾は、彼の体表数センチのところで、見えざる力場に阻まれて静止していた。

 

「知らなかったか?超能力者に槍は刺さらない。」

 

「――ほざけよ!」

 

 恐怖を怒りで塗りつぶし、設楽が両手を振り回す。

 

 周囲の瓦礫、鉄骨、給水タンク――あらゆる「物質」が彼の意のままに形を変える。

 

 生み出されたのは、コンクリートで模られた巨大な機関銃(ガトリングガン)の砲列だった。

 

「蜂の巣にしてやる! 消えろ! 消えろォ!」

 

 轟音。

 

 回転する石の砲身から、毎秒数十発の石礫が弾丸となって吐き出される。

 

 火薬も機構も無視した、魔力による強制射出。

 

 音速を超える石の嵐が扇を襲う――はずだった。

 

「逆転ちぇ……ああ、いや、まんまはまずいか……あー……『逆行』……技名考えんの忘れたー……」

 

 つぶやくように告げられた言葉と共に、扇が掌をくるりと返す。

 

 ただ、それだけの動作だった。

 

 キィィィィィン!と、空間がきしむような音が響く。

 

 音速を超えて迫っていたはずの石の嵐が、まるでビデオテープを巻き戻したかのように、唐突にそのベクトルを反転させた。

 

「――は?」

 

 設楽の間抜けな声が漏れる。

 

 自らが吐き出したはずの死の雨が、倍の速度を持って、自らの生みの親である砲身へと殺到したのだ。

 

 ドガガガガガガガガッ!

 

 破砕音が連続して響き渡る。

 

 コンクリートで作られた模造の銃器が、内部から食い破られるようにして爆ぜ、粉塵となって霧散した。

 

「――――何をした!魔法か!?いや、魔力の動きなんて見えなかったぞ!?」

 

 自分の作り出した最強の火器が一瞬で砂利に変わった光景を前に、設楽が後ずさる。

 

 もう、彼には理解ができなかった。

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