特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第42話:お前を逮捕する

「ぐぅ……何で、何で。俺は被害者だ、復讐者なんだ……うあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 叫んで、周辺の鉄材を体に纏わせる。

 

 魔力によって分子構造を制御、鉄くずになった構造物を身にまとう。

 

『錬金』『身体強化』『魔力制御』『魔力硬化』『魔力激化』『魔力暴走』『物体波及』『物体強化』『激発』『魔力の才能(小)』

 

 彼の持つ加護をすべてまとめて作り上げられた鋼鉄の鎧。

 

 錬金によって作り変えられた鉄だったものは彼が創造する最も固い金属――異世界ではアダマンタイトとうたわれていた金属に姿を変える。

 

 銅《あかがね》色の鎧、彼が誇る最高の鎧。

 

 それに、魔力を伝達して、作り出したパワードスーツ。

 

 勇者を相手にするときのために絶対に見せなかった切り札――だが、こいつが相手では仕方がない。

 

『刹那スイッチ――』

 

 右手を握り込む動作で、加速機構が展開される。時間が泥めいて遅くなる。

 

 地面を強く蹴る――コンクリートの床がひしゃげた。

 

 音すら置き去りにして、人の原質に接近する――この拳は一撃で山を吹き飛ばす、その小ささでは受け止められない。

 

 これで倒せるとは思わないが、同時に、勝てないとも思わない、だってこれで勝てなければ――

 

「――もう勝ち目がない、か?」

 

 殴りつけるはずの男の声が、後ろから聞こえた。

 

 いない。

 

 つい、つい1秒前まで――いや、刹那の間ですら目を離していない、確信がある。なのに、目の前から人の原質が消えている。

 

「そう驚くなよ、最近の光の巨人の4番目の弟は光速で動けるんだ、僕だって刹那の間に動くぐらいできるさ。」

 

 そう言って、彼は――人の原質は――扇雄介は自慢げに告げる。

 

 声が聞こえた方向にとっさに体を回転させ体を射抜かんとひじを放つ――いない!

 

「高速移動能力と瞬間移動に関しては僕の方が上らしいな――」

 

 頭上から声――顔を上にあげ、腕を伸ばして必殺の兵器を起動させる。

 

 概念崩壊兵器、どうやって作っているのか自分でも理解していない錬金の力の最たるもの。

 

 対象の存在そのものを消し去る力、それを、彼は全く躊躇なく放った。

 

 当たれば――いや、放てば相手を殺せる力、自分のたどり着いた究極。

 

 相手を殺すためだけに作られた力が、猛烈な閃光として放たれ、相手を滅ぼす――

 

「ぇぁ……?」

 

 ――はずだったのに。

 

 放たれた後でなお、人の原質はそこに傲然と立っていた。

 

 あり得ない、あってはいけないはずの光景。

 

「な、ん、……でだよ、概念を、お前って概念を滅ぼすんだぞ!」

 

 叫ぶ、生きていていいはずがないから。

 

 そんな叫びに、扇は困ったように顔をしかめる――何が言いたいのか全く分からないからだ。

 

「……いや、ごめん、なんか、効かない。」

 

 それ以外何が言えるというのだ?

 

 そもそも、前提が間違っている気がする――だって、自分という概念は自分が生まれた時に生じたもののはず、であるならば、存在や概念というのは『生き物が生きている』という事実に紐づいたものだ、であるなら。

 

「僕が生きてるときに僕って概念が滅んだらふつう、僕が生きているからまた新しく誕生するんじゃないか……?」

 

 前提が逆だ、概念は『自分達が生きている事実に従属する側』であってそんなものが滅んだところでまた新たに生みなおされるだけだろう。

 

 そう思って首をひねる扇に、勇者は何も言えない――そんなこと、考えたこともない。

 

 みんながすごいというからすごいものだと思って使ったのだ、そしたら魔物が死んだからすごいのだと信じた。

 

 だから――そんな理由の話などされても、彼はわからない。

 

 彼にわかるのは、自分が頼りにしていた必殺の兵器が使い物にならないということだけだ。

 

「意味が、わかんねぇんだよぉぉぉぉぉ!」

 

 叫び、足を動かす、刹那スイッチの出力を最大に、あらゆるものが静止し、音さえ消え、光さえ緩やかになるその瞬を縫って、勇者は脅威を排除せんと殴り掛かる――当たりさえすれば、死ぬはずなのだ。

 

 そう思っての1撃は――しかし、やはり空を切る。

 

「――言ったろう、高速移動は僕の方が上だと――それと――」

 

 バチン!と、体にしびれが走る――感じたことのある痛みが、設楽を襲った。

 

 バァン!と何かがはじけたような音が響き、突如として、勇者の銅の体を稲妻が襲った。

 

「――攻撃もな。」

 

 稲妻に、一瞬体が固まる――その一瞬の隙をついたのか、体が金縛りにでもあったかのように動かなくなる。

 

「――ブレインロックだ、身動きはとれまい?悪いがこのままお前を逮捕する、容疑は殺人未遂の現行犯だ。」

 

 扇の声が、響く。

 

 それは彼の人生の終わりを意味する。

 

 だから――泣いた。

 

 理解できないことが怖かったし、なぜ、こんなことになっているのかもわからない。

 

 まるで、あの頃――いじめられていたころの自分のように、彼は体を丸める。

 

 もう、こんなことしなくていいと思っていたのに!

 

 ゆったりと自分に向けて歩いてくる青色の化け物を見つめる。

 

 あの小太りの男が成ったとは思えぬ中肉中背の人型。

 

 筋肉質でもないが骨と皮だけというにはいささか肉のついたその生き物は、人の――原質に見えるそれが、ゆっくりと近寄ってくる。

 

 怖い、昔、熱を出した時に見た悪夢のようだ。

 

 歩いてくる男から逃げられないのなんてまさにそうだ。

 

 ああ、でも、もしそうなら、この後の展開はお決まりだ、このよくわからない化け物がにやりと笑って自分を――

 

「――まって、扇くん!」

 

 ――そんな声が聞こえたのは、その時だった。

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