特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第44話:夢の続きを、この場所で

 そのニュースが流れたのは、騒動から3日が過ぎた、よく晴れた昼下がりのことだった。

 

『――次のニュースです。先日、都内の私立高校で発生した爆破未遂事件および、建造物損壊の容疑で、同校に通う男子生徒が逮捕されました』

 

 テレビ画面の向こう、ブルーシートに囲まれて警察車両に押し込まれていく男の姿があった。

 

 かつて、傲慢なまでに胸を張り、世界は自分のものだと信じていた勇者の面影はない。

 

 うつむき、手錠をかけられ、怯えたように周囲をきょろきょろと見回すその姿は、どこにでもいる、ただの弱々しい少年のそれだった。

 

『警察の調べに対し、容疑者は「勇者だったんだ」「魔王が命令した」などと意味不明な供述を繰り返しており、警察は責任能力の有無も含めて慎重に捜査を進める方針です。なお、現場となった高校の校舎ですが、奇妙なことに被害の痕跡は一切なく――』

 

 プツン、と画面が消える。

 

 リモコンを操作した扇雄介は、背もたれに深く体重を預けて、盛大なため息を吐き出した。

 

「僕らの話、しないことにしたんだなぁ。警察。」

 

「まあ、そうでしょうねぇ、どこからともなく来た不可思議な生命体が勇者の力を奪って警察に逮捕させました探偵ったら、世間大パニックですよ。経過観察に3日も掛けたあたり、相当疑ってたようですしね。」

 

 苦笑交じりに告げ、紅茶をすする天塚の言説はもっともだ。

 

 確かに、扇達は生徒を皆救い、校舎を直し、すべての問題をなかったことにした。

 

 それ自体は、人の味方と取れる行動だった。

 

「半透明の青い宇宙人、光る仏像、生体兵器のような鎧男……まあ、どう見ても『正義の味方』というよりは『未確認知的生命体の侵略』ですからね。防犯カメラの映像をネットに流せば、魔王よりも我々の方がトレンド入りでしょう。」

 

「俺のはもう少しマッシブでかっこよくねー?」

 

「一般人から見れば、ただの魔物の新種なんだよなぁ。」

 

「はっ、一向にヒロイックな戦士だが?」

 

「百歩譲ってもどっかよそからの侵略者だと思いますけどね、あれ。」

 

「っく、美的センスの分からぬ奴らめ……脳が魔物に支配されている!」

 

 逆立ち腕立て伏せを終えた七星が不満げに口を尖らせる――まあ、本気で怒っているわけでもない。

 

 あの姿の強さは折り紙付きだが――同時に人の枠を大きく踏み外したものだった。

 

 もしもあの姿で街を歩けば、石を投げられるのは魔物ではなく自分たちだろう、まだしも、小鬼の方が人間らしい見た目だ。

 

「ま、そこがいいんですけどねー」

 

「排斥されるヒーロー、戦い続ける孤独な戦士……うーん、電磁戦隊。すごくいいと思います。」

 

「排斥とか今更だしなぁ。」

 

 けらけらと笑う3人に、悲壮感の色はない。

 

 当然だろう、彼らは夢をかなえたのだ。

 

「でー、僕らのこと、公表すんのか?」

 

「んー、まあ、社長次第ですよね。公表する準備自体は終わってますけど。」

 

「あれから3日出てきてないのか……お前、力加減ミスったとかじゃなかろうな?」

 

「違います―ちゃんと目覚めてますぅ。」

 

 ただ、合わせる顔がないのだ、ゆかりからのメールにはそう書かれていた。

 

 実際彼女のもたらした影響だけを見ると、そういう判断もおかしくはない。

 

 しかし、そうなってくると彼らは非常に困るのだ。

 

 なぜなら――

 

「……で、ぼくら、この会社に残れると思うか?」

 

「そこが問題ですよねぇ、扇くん、あの勇者に操られてた時のこと全部消したんでしょう?」

 

「いぇあ」

 

「ってことは、俺らが入社した記憶も、入社させた理由も忘れてんだよなぁ。」

 

「これ、社長出社してきたら首かな。」

 

「また占い小屋かぁ。」

 

 まあ、予知は変身したおかげで使いやすくなったからいいけども。

 

「でも、職歴の傷ひどくねぇ?」

 

「いいじゃないですか、ヒーローたるもの、無職なぐらいがちょうどいいんですよ。」

 

「それか警官か、軍人にでもなるか。」

 

「あーそっちもありだなぁ……」

 

「――安心してください、そんな話せずとも、首にはなりませんよ。」

 

「む。」

 

 響いた鈴が転がるような声――聞き覚えがある、後輩の声。

 

「おっす、ゆかり、叔母さんどう?」

 

「明日には出社するそうですよ。」

 

「おーそれは何より。」

 

「で、皆さんに辞令です。」

 

 取り出されたのは1枚の紙、何やら物々しいその1枚をゆかりは朗々と読み上げた。

 

「辞令。本日付をもって、あなた方3名を『社長直轄・特殊遊撃部隊』……通称『特撮班』の所属とします。」

 

 すっと差し出された書類には、確かに未来の署名と社判が押されていた。

 

「給与は現状の3割増し、装備開発費は青天井、活動内容は『正義の味方』としての判断に一任する、だそうです――どうですか『先輩方』、働く気、ありません?」

 

 いつだかと同じ質問、だから――答えも、いつだかと同じだった。

 

 差し出された手を握る――どうやら、自分達はまだ、夢と踊ってもいい様だと思いながら。

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