特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第46話:カプセル

「うーむ、僕らのマネジメント能力もなかなかのものですね。」

 

 初めてのプリキly……いやさ、新装備の出陣から3日、都合2度の出陣で、黒土製薬の公式SNSのフォロワーは2倍に増えた。

 

 ここまであっさりと増えるあたり、世間のかわいいものへの執着というのは恐ろしい。

 

「やっぱりトランサー着けたからボディカメラ付いたのが良いかんじでげすな、勇者視点の動きってんでずいぶんと評判がいいでげす。」

 

 そんな扇の言葉を後押しするかのように、エゴサの結果がプロジェクターに映し出される。

 

「何で今度三下なのお前?まーいろいろ補正かけんとお見せできないけどな、それはそれとして見世物としては面白いんだろうなぁ、魔物、血出ねぇし。」

 

「これ、切り抜き師とか雇った方がいいんですかねぇ、動画の編集ぐらいなら僕らにもできますけど。」

 

「いやー人に動画データ渡すの怖くねぇ?いらんこと調べられるといろいろとだるいぞ。」

 

「そうでげすなぁ、トランサーの情報が企業機密でげすから、こればっかりはどうにもなんねぇでげしょうねぇ?」

 

「……なんか慣れてきたなその口調、じゃあ、とりあえずこっちで始末付けていいか。」

 

「そうしますかぁ。」

 

 簡単な会議……と呼ぶまでもないような世間話を終えて、3人はすっと視線を細める――本題はこっちだ。

 

「――で?回ってきた妙な代物の解析結果ってのは出たのか?」

 

「……それなんですよねぇ、下でゆかりさんも必死こいてやってくれてますが……あれが何なのかが全く分かりません。」

 

 そう言った天塚は不満げに顔をゆがめる――この会社は自分達が入る前から、かなりの大きさの企業だった、以前、自分達がいたヒロイックアカウントの数倍の規模があり、名の通り薬関係のシェアとしてはかなりのものだ。

 

 そんな企業だったからだろう、設楽天京の実家の部屋から引っ張り出された不可解なカプセルの解析依頼が来たのは。

 

 一見すると風邪薬にも見えるそのカプセルは、しかし、市販されているどんな薬にもない色合い――黒かと思えば白になる、不可解なる色彩を持つ、この世のものとは思えぬ錠剤。

 

「カプセルそのものは単なる市販品です、あの、ほら、扇くんの家のお父さんがたまに飲んでたあのへんな漢方みたいなの閉じ込めてたのと同じ奴ですよ。」

 

「んー懐かしい思い出でげすなぁ、最近は飲んでないからねぇ親父。」

 

「覚えてる覚えてる、なんか興奮したよなあれ――で、中身は?」

 

「それが問題なんですよ。」

 

 肩をすくめる――こういう時、天塚は困っているのだと、20年来の友人である2人にはよくわかっている。

 

「現状、この施設にある装置で、この物質が何かはわかりません、HPLC《高速液体クロマトグラフィー》、GC《ガスクロマトグラフィー》、MS《質量分析計》、NMR《核磁気共鳴装置》、SEM《走査電子顕微鏡》、XRD《X線回折装置》、XRF《蛍光X線分析装置》……不必要なものまで含めた全部使いましたがさっぱりわかりません。」

 

 それは端的な現代科学の敗北だ、このカプセル内部の薬品が何か、科学的には読み取れない。

 

 というか、機械の上では、これは存在しない物質なのだ。

 

「少なくとも、この地球上に存在する何か――ということはないですね、この宇宙全体を見てもこんな唯物論に喧嘩売った物質が存在するとは思えません。」

 

 となれば――これは、およそ尋常ならざる場所から現れたもの、はるかかなたの地から現れた招かれざる者どものもたらした悪意の何かであると考える方が妥当だ。

 

「……こいつのせいで設楽が狂った――ってのは、マジなのか?」

 

「狂ったとまではいわねぇでげすが……僕のテレパシーとサイコメトリー的には、そうっぽい。」

 

 顔をしかめて聞く七星に、扇の返答は端的だ。

 

「僕が奴と接触した短い時間の中にあって、それでもあいつの精神はそれなりに読めたが――こいつを服用するようになってから、明確に、あいつの凶暴性が増してる、でげス。」

 

 その感覚を言葉にするのは難しい――テレパシーなど使えぬものが作ったのが言葉だ、何でもかんでも説明できるわけではない、ないが……

 

「自分って個人2人から4人分ぐらいの感情が湧きだしてきて、細かいことを押し流してく感じ……でげすよ。」

 

 その結果、設楽はあれほどの凶行に出た。

 

 要所要所で行動が不可思議だったのはこのせいなのだと、扇達は納得したくらいだ。

 

 いきなり、勇者狩りに喧嘩を売るように動き出したのも、この薬の影響が大きい――細かい判断が狂っているのだ。

 

「薬効としては、能力の上昇、それに付帯した自信の増大……いや、万能感の誤認ってところですか、仮にもそれなりの学力がある学生があそこまで振り切れるとなると、それなりの理由があるだろうなとは思ってましたが……」

 

「闇のお菓子かな?」

 

「まぶしくて戻れない一瞬に縋りすぎたなぁ。」

 

 別にこの薬だけが悪意だとは言わないが――間違いなく、この薬は彼の暴走に一役買っている。

 

「あいつが自分で作って暴走したって可能性は?」

 

「あるが……それならもう、こいつについて警戒する必要がなくなるだけだ、問題はどっちかっていうと犯人が別にいた場合でげすよ。」

 

「流通に乗ってばら撒かれるかもしれませんからねぇ。」

 

 となれば……

 

「早いとこ製造者を見つけるか……流通路をつぶすか。」

 

「さもなきゃどっちもつぶすでげスよぉ、あにきぃ。」

 

 ふざけたような口調で、しかし、眼光だけは鋭く。

 

 扇が告げる。

 

 次の嵐が、迫っていた。

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