特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第47話:厄介な客

「やー大活躍だねぇ。」

 

 そう言って御影の前の席を引いて、くるりと器用に座り込んだのは、近頃姉の友人になった少女――あかねだ。

 

 学校の昼休み、食事とともに行われる

 

「また、すごい活躍だったね!動画見たよー、トレンド入りしてたし!」

 

 言いながら突き出されたスマホの画面には、再生数百万回を超えた自分達の勇姿――もとい、魔法少女姿が映し出されている。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 朗らかに、裏表なく声をかけてくれる彼女のことを、御影はそれなりに好いていた。

 

 自分に媚を売ってくる有象無象のクラスメイトとは明確に違う。彼女の瞳にあるのは、打算ではなく純粋な「推しへの熱量」だけだ。その湿度のない態度が、御影には理想的だった。

 

「それにしても、なんかすごい恰好になってるね!あれ、新開発の……トランサー?の効果なんでしょ?」

 

 あかねが身を乗り出す。眼鏡の奥の瞳が、獲物を見つけた肉食獣のようにギラリと光った。

 

 彼女が差し出してくるスマホの画面には、自分と姉が撮った宣材写真が使われたホームページがある。

 

 ロップイヤーを模した大きなヘッドドレスを付け、白くて長いリボンが頭の両サイドから肩口まで垂れ下がっており、先端には青いクリスタルが付いている――無論飾りだ、何の効果もない。

 

 灯がノースリーブで露出多めなのに対し、御影はガードの固さを表現するというコンセプトで。

 

 首元まであるハイネックのインナーに、肩を覆うショートケープを羽織っている。

 

 ケープの裏地は電子回路のような幾何学模様が走る青色。

 

 胸元には灯とお揃いの、しかし色は「サファイアブルー」の巨大なハート型ジェムを配置してトランサーを隠している。

 

 フィッシュテールのスカートを履き、幾重にも重なった半透明のフリルが、彼女が浮遊したりバリアを張ったりするたびに、花びらのように舞う。

 

 白のガーターニーソックス、編み上げのショートブーツ……うん、かわいいと思う。

 

 内心でそう自画自賛して、ここに姉と従妹――自分達は姉だと思っているが――も入れば完璧なのに、とかすかに残念に思った忸怩たる思いを隠した。

 

「あのフリルの多さといい、あざといまでの『魔法少女』感といい……あれ絶対、天塚博士の趣味だよね?」

 

「あはは……うん、まあ、お姉ちゃんの意向も入ってるけど。」

 

「やっぱり!恥ずかしくないの、あれ?いや、私は似合ってると思うけどさ。コスプレ的な感覚として。」

 

「……お姉ちゃんは、結構?」

 

「あー……灯ちゃん、そういうところ気にしそうだもんねー」

 

 かわいいけどなぁ……と笑うあかねに、御影は苦笑いしながら自分の事情を隠した――自分はそれほどあの衣装が嫌ではなかったという事情を。

 

 何なら、ちょっと改良案まで出した――だって、ああいうの結構好きだし。

 

 何なら、勇者になった時、ああいうのになりたかったまである――あの3人ほど狂気的でなかろうと、誰しも一時、ヒーローにあこがれる時期というのはあるし、それを胸に抱いたままの人間は少なくないものだ。

 

「――で、お姉さまは何してらっしゃるわけ?」

 

 そんな後ろめたさを切り裂くように告げられたのは、疑念の声だった、あかねの視線の先には、頭を抱えてうんうん唸る姉の姿があった。

 

「あー……その、登場用の前口上を準備しろって課題が出てて。」

 

「前口上……?」

 

「あの、ほら、『何々に咲く一輪の薔薇』みたいな感じの」

 

「あー戦う前に名乗る感じの奴か、へー……そんなのいるの?」

 

 疑念の言葉、まあ、実際、それが必要かどうかはよくわからない、が、ヒーロー大好き勢曰く――

 

「そういうのが、耳に残るもんだからって……開始10秒で価値を見出させる必要がある……?とか言ってたかな。」

 

「あーまあ、挨拶が奇抜なインフルエンサーとか見るもんねぇ、私もだ。」

 

 そう言って納得する――どうやら、姉を助けるつもりもないらしい。

 

「――インフルエンサーっていえば……なんか、変なのに絡まれてたよね、大丈夫?」

 

「……ああ、あれ……」

 

 困ったように、御影の顔が曇る――実際、少々面倒な手合いにからまれたのは事実なのだ。

 

 思い返されるのは数日前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 魔法少女的な姿に変身しての2度目の戦闘の折に、その迷惑な輩は現れた。

 

「ど、どうもー……」

 

 困ったようにあいまいな笑みを浮かべて、逃げ出したそうにしている姉の横で自分も控えめに手を振っていた時のことだ。

 

「――皆さん、ご覧ください、これが、この笑顔が、あの女たちが魔物を惨殺するのを楽しんでいる何よりの証拠なのです!」

 

 そんな、意味不明な言葉が飛び込んできたのは、突然だった。

 

 見れば、髪をまるで2本の耳のように逆立てた中年に見える男がスマホを自分達に向けながらこちらに駆け寄ってくる。

 

 勿論2人は知らない人物だったし、そもそも、まだ魔物が倒されたとはいえ、危険区画内に入ってきていい役職でも服装でもなかった。

 

「見てください、こんな華やかな服装をして、あの娘たちは自分達の罪を覆い隠しているのです、皆さんもご存じでしょう!勇者共の傍若無人なふるまいを――」

 

 その1言で察した、この男、どうやら、動画配信者であり――近頃増えている、『魔物擁護論者』の1人らしかった。

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