特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第48話:あー!困ります!!

 『魔物は、勇者によって故郷を追い出された哀れなる被害者であり、そして、それを受け入れるのは勇者を生み出してしまった我々の責務である。』

 

 こういった輩は今に始まったことではない。

 

 過去には熊やら犬やら、過激な環境保護活動家というのは枚挙に暇がないほど現れるものだ。

 

 実際、勇者たちが現れなければ、魔物たちがこの世界に逃げてくる必要もない――そう言われればその通りだ。

 

 が、もとをただせば『この魔物どもが暴れまわっているから』勇者はこの世界から拉致されるのだ。

 

 そういった部分に目をふさぎ、彼らは今日も声高に権利を主張するわけだ――誰からも認められていない権利を。

 

 そして、そういった人間にとって、ヒーローあるいは勇者という連中はなるほどまったく素晴らしいたたき台だ。

 

 特に人気があるヒーローには付き物。

 

 何せ、人を殺す危険がかなり少ないのだ、実社会に生きる人間として、これほど楽に叩ける相手もいない。

 

 会社の宣伝もあり、最近話題の2人もついに目をつけられたかと内心ため息をつくしかない。

 

「……あー……その、ごめんなさい、そういうことは会社の広報を通してもらわないと答え――」

 

「――答えられない!?そんなはずはない!いま、あなたが自分の目の前で奪った命の話なんだぞ!」

 

「えっと……そう、ですけどね?」

 

「そうだ!つまり、お前は今、認めたんだ、自分が殺戮者だと!」

 

 声高に、まるで世界中に響かせるように、男が叫ぶ――まったく、うっとおしい。

 

 気の弱そうに見える御影だからだろう、ゴリゴリと自分の論法を押し付けてくる。

 

「そういった話も、すべて広報が返事を――」

 

「――お前たちは語らなければならないんだ!ここで死んでしまった鎧の魔物の魂のために!何よりも視聴者のために!」

 

 陶酔したように、あるいは、熱に浮かされたように、男が御影に詰め寄る。

 

 びくりと御影の体が震えた、まずい、このままでは――

 

「―――あー!!困ります!!困ります!!お客様!!困ります!!あーっ!!困ります!!お客様!!あー!」

 

 ――そう危惧するのと、3つの影が御影と男の間に割り込んだのは同時だった。

 

「な、なんだ、お前達!ど、どけ!!」

 

「あー!困ります、困りますよお客様!!うちのかわいい後輩に触れてはいけません!!あー!警察に、警察に通報ですよお客様!」

 

 まるで気狂いのように割り込んだ扇はまるで踊るように両腕を伸ばし、軽いサイドステップを繰り返して男の行動を妨害する――その背後で、七星と天塚が中国雑技団か何かで見たことのある曲芸を始めた。

 

「――だから何だ!私は、私はこの殺戮者たちに!」

 

「やーダメですよ、お客さん、未成年に触れたらー犯罪っすよ?」

 

 そう言ってカメラの前でポーズして見せる扇に、視聴者は呆れと笑いを半々にしたような反応を返している。

 

「うるさい、邪魔をするな殺戮者が!貴様も殺しを楽しんでいるのだろう!?」

 

「やーちょっとなにいってるかわかりませんねー……あ、あちら、人間楼塔です、今日は丸い球がないから玉乗りはないよ、許せ視聴者。」

 

 背景で片手逆立ちをする七星を天塚が片手で持ち上げて決めポーズをとっている――やはり、雑技団の動きだった。

 

「――ええい、うっとおしい!邪魔をするな!私は正義の行いを――」

 

「――わかってるだろ、あんたの視聴者も、それほど本気であんたの配信に価値を見出してるわけじゃないって、その証拠に、妨害されたことより、後ろの2人の曲芸に目が行ってるぞ。」

 

 言いながら顎で配信画面を開いているだろうスマホを示す――実際、コメント欄に流れるコメントは、彼の主張へのものではなく、後ろで繰り広げられている曲芸へのコメントであふれていた。

 

 単なる便乗で騒いでいた連中の意識が、自分の主張から離れていると彼はようやく理解した。

 

「―――!」

 

「ここは素直に引いておけ、視聴者が気になるってんなら曲芸でも見せておくといい――話がしたいのなら、黒土製薬の広報か特撮班に連絡を取って正式に許可を取ってからやることだ。未成年相手に詰め寄る情けない姿ばかり映し出されるよりましだろ?」

 

 そう言ってにっこりと笑った扇は、手で背後を指し示す。

 

「はーい、以上お邪魔虫でした―♪あ、雑技団はまだしばらく曲芸するので暇な人は見ていってやってください、日々15分の練習でああなります、人間ってすげぇ!」

 

 扇達3人のSNSが炎上したのはその少し後のことだ。

 

 

 

 

 

「なんかすごかったねー」

 

「あはは。」

 

 苦笑交じりに視線を逸らす。

 

 実際、あれは結構荒れた。

 

 曰く、魔物の権利を認めないのか?

 

 曰く、魔物を殺すことに抵抗がないのか?

 

 曰く、こいつらは善人の仮面をかぶっただけのくずだ――とか何とか。

 

 かなり荒れて――そのほとんどを、3人はけらけらと笑って受け流し、会社に影響がありそうなものだけを的確に攻撃した。

 

 後半になれば天塚がつくったAIが自動的に反論をぶち込んでいたくらいだ。

 

「本人たちは気にしてないみたいだけど、ちょっと株価も荒れたしね。」

 

 とはいえ、今は沈静化済みだ――天塚のAIの反論に抵抗できなくなったことが1つ、よそのヒーローが参戦して旗色が悪くなって相手側が逃げたのが1つ。

 

「実際、あれはないよねー」

 

「……どっちが?」

 

「ん-?あのへんな耳の男の人。まあ、天塚さんたちも茶化してたのはよくなかったのかもしれないけどさー」

 

 実際魔物の恐怖を見た人間からすれば、あんなものに権利を与えるなど到底考えられないことだ。

 

「勇者が怖い、とか、強くて危ないとかいう話は聞くけど、やっぱり人の敵は魔物だよ、間近で見たから思う。」

 

 そう告げるあかねは、きっと気が付いていないのだろう。

 

 彼女の体がかすかに震えていることを。

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