特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第49話:炎上の裏側/あるいは何かの胎動

「で、実際どうなん?」

 

 自動車もかくやと言う速度で回るトレッドミル――なぜか知らないがこの名で呼びたがるのだ――の上で涼しい顔の七星がそう尋ねる。

 

「ん? ああ、炎上のことですか?まあ、ほどほどですよ、活動自粛してる体なので、下火にはなってきてますよ。」

 

「後、元もと非難轟轟だったからなぁ、あっちが逆に炎上しだしてって感じ。」

 

「あー……」

 

 現在3名は活動を自粛している形になっている、表向きは不適切な発言があったからという話になっているが現実のところは少し違う。

 

 やることが多かったのだ。

 

 あの男の炎上が起きたのとほとんど同時に、国から例の『カプセル』の調査依頼が舞い込んだ、一般的に、あの薬と言われる物質のことは公表されておらず、される予定も、現状ない。

 

 ゆえに、もともとは内勤の皆様――即ち、ゆかりを筆頭にする研究班がこれを調べる予定だったのだ。

 

 が、その薬を見た扇は一言、「これ多分、僕らが絡んだ方が良いやつだな。」と漏らしたのだ。

 

 彼の力――ψ意識場における現実性の湾曲は、俗にいう超能力である。

 

 彼の考える異常な精神修業によって、鍛え上げられた彼の精神構造と肉体構造は常人のそれではない。

 

 9日間「飲まず・食わず・寝ず・横にならず」を続けて10日目に栄養を補給し、また断食を行うという人間がおおよそ行っていい範囲ではない苦行を、20年続けた彼の精神はすでに脳に収まらず、未来すらその視座に収める。

 

 その結果、彼は超人的感覚を持つに至った彼の、超自然的な感知能力は、あの薬と思しき物質の異常性を一目で見抜いたのだ。

 

 調査の時間が必要だった、強引に捻出もできるが、時間を掛けられるならそれが一番いい。

 

 つまり、実際のところ渡りに船といえば渡りに船ではあったのだ。

 

「ま、だからわざと炎上しやすそうな方法で止めたってのもあるしなぁ。」

 

 ゆえに、活動自粛自体は問題ではない――そもそも、本当に危険ならばそんなこと気にもせずに飛び出すのが彼らだ。

 

「まぁ、そもそも、あんまおれらばっか目立っても仕方ないしな。」

 

 加速を始めたトレッドミルを軽くこなしていく七星が語る――実際、このチームのコンセプト的には、ヒーローと勇者の協力が肝心なのだ。

 

 操られたりとはいえ、社長とゆかりが自分達に話したこのチームの生まれた理由は『勇者とヒーローの協力関係の構築と喧伝』である。

 

 のためにも、一旦、知名度のある自分達は引っ込んでおくべきだ――その間に、勇者としての2人の知名度を上げて、そこから自分達との協調関係を明示にしていけばいい。

 

 ゆえに、彼らは謹慎生活を満喫していた――目の前にある、最大の問題と戦いながら。

 

「……やっぱり科学的に分かる範囲では単なる水ですね……サイコメトリーとかやってみます?」

 

「……うーん……やってもいいけどなぁ、中身が何かはたぶんわからんよ?そういう力じゃないからねぇ……でげす?」

 

「……お前、もしかしてあの炎上動画の時についてた「インパルスとウィンドヴェーラーしゃべってる声だけだとどっちかわからん」ってコメント気にしてる?」

 

「……一応、ヒーローとして広告塔にもなるし、ちょっとぐらい個性付けた方が良いかなって……」

 

「……それだと、三下なのは問題なんじゃないですかね。」

 

 呆れたような天塚の一言に、扇は悲しそうに横を向いた――どうして世の中とは、かくもままならないのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中ほの暗く光る画面を食い入るように睨む男がいた。

 

 まるで2本の耳のように逆立てた不可思議な髪をした男――そう、あの一件で扇達ともめた男。

 

 名を、「ローンウルフ」としたその男が、画面を睨んで舌打ちを漏らす。

 

「なぜ、なぜ理解されない、あんな化け物共が許されていいはずないのに、外見に騙される情弱どもが、人の形をした化け物だぞ……!」

 

 彼の憤りは止まらない。ストレスに胃が痛み、自分を称賛しない言葉に憤慨する。

 

 画面に踊るのは、彼の投稿した動画に寄せられるコメント群だ。

 

「実際、魔物のこと見たことないからこんなこと言えんだよな。」

 

「リアルな鬼ごっこ番組を企画して欲しい。どっかのヒーローに頼んでゴブリンを10匹集めて、逃げ切れたら一攫千金で一生遊んで暮らせる賞金ゲット。最高の視聴率取れるんじゃないの。説得できるんでしょ?」

 

 オーク「なぜ逃げる?共生しようよ――お前餌な!」

 

 呆れるほど低俗なコメント。

 

 思い出すだけでイライラする。自分の主張に賛同していたはずではないのか?

 

 だから、あの殺戮者を糾弾し、弾劾し、ゆくゆくとはあの自分を上から見下す下らぬ勇者共をこの世から追い出し、自分が称賛される理想の社会に一歩近づけると思ったのに。

 

 あの連中だ、正義の味方などと語る偽善者どもが現れてから事態は一変。

 

 邪魔だと言っていた者もいたが、自分の主張を非難する声も現れ始めた。更に今回の件で黒土製薬から警告まで出てしまい、それがネットに広がっている。

 

 現実が見えていない馬鹿――そんな扱いをされている。

 

 我慢ならない――自分だけが、自分だけ唯一この世で真実を語っているのだ、自分だけが世界を救おうとしている救世主なのに!

 

「――――ええ、そうですね、おっしゃる通りです。」

 

 その時だ、そんな声が聞こえたのは。

 

「――――!」

 

 慌てて、振り返る。

 

 彼はこのことを生涯後悔することになる。

 

 こんな動画を上げなければ――いや、この生き物のいざないを振り切ることができていれば。

 

 あんなことには、ならなかったのに。と。

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