特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第50話:先駆者の苦悩/胸に悪い話

「わかりますかぁ先輩ぃ……必死にやってるのに、何にも見つからないんですよぉ」

 

「わかるわかる、解けない問題は気になる質《たち》じゃよな君。」

 

「そうなんですよぉ……天塚先輩の謎装置だけが頼りなんです……」

 

 ぐりぐりと胸に頭を押し付ける後輩に扇は優しく言葉をかける――こればかりは仕方がない、彼女もまた天才ではあるのだが、今回は分が悪い。

 

 相手は別次元の物質だ、いかに天才だろうと、まるっきり物理法則が異なる相手とは戦えない。

 

 調べる方法が全く分からないのだ、ゆかりの使える機材ではどうにもならない。

 

「真面目な話、別次元の物質ならお手上げです――現物が何一つないので、比較検査もできません。」

 

「物質転送はできないってあれか。」

 

「ですです、本来、異世界召喚において()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 それが、この世界の常識だ、数少ない例外として『肉体の内部に存在するものは例外的に次元移動を行える』が、それ以外に関しては、勇者の異常な能力をもってしても、これまで物質の移動には成功していない。

 

 一応、服は皮膚と判定されるのか、共に召喚されるが、携帯等はその場に置き去りにされると聞いている。

 

「どこかの勇者が、こちらの次元で物質の生成に成功した可能性はあります――設楽は、向こうの世界の物質をこっちの世界で作っていましたしね。」

 

 そして、そうなったとき、一般人はこの物質が何かを知るすべがない――この次元においては、それは新物質以外の何ものでもないからだ。

 

「見ても触っても嗅いでもそれが何かがわからないとなると……もう、天塚先輩の超科学に頼るほかありません、あとは、先輩の超能力とかですけど。」

 

「あーあいつの装置が来たら一緒にやる予定ではあるけど……僕も能力ってなるときちんとわかってるってわけでもないからなぁ。」

 

 そこが、問題だった。

 

 この世界において、おそらく明確に、かつ自在に超能力を使える初めての人間である扇は、それゆえに問題を抱えている。

 

 1つは誰にも、この使い方を教わることができないこと。

 

 そして、もう1つは――

 

「科学的に説明ができんのよなぁ。」

 

 より厳密に言えば、人を納得させられない。

 

 一応、天塚の手によってこの力の全容は理論としてまとめられ、彼なりの論法で論文にもされている。

 

 そして、即、学会に弾かれた。

 

 こんなことはあり得ないと一蹴され、そんな人間はいるはずがないと嘲笑された――まあ、本人は気にしてもいなかったが。

 

「だからねぇ、説明ができないのよねぇ。」

 

 この世界において、おそらく明確に、かつ自在に超能力を使える初めての人間である扇は、それゆえに他人を納得させることができない。

 

「警告を流すなりなんなりするとなると、明確な科学的根拠を求められるでしょうしねぇ。」

 

「そうなると、僕は役に立たんのよなぁ。」

 

 困ったように、扇が顔をしかめる――この世界に初めて生まれた超能力者の、明確な悩みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――助けてほしい。」

 

 そう、校舎裏で語られた御影は困ったように頬をかいた。

 

「えーっと……?」

 

「勇者なんだろ?助けてくれよ。」

 

 見ず知らずの男子生徒はそう言って悲壮な顔をこちらに向けている――そう言われても、困ってしまうのだが。

 

「えっと……そもそも、どちら様……?」

 

 おずおずと話す――突然、下駄箱で呼び止められたかと思えば、これだ、意味が分からない。

 

「……隣のクラスの竹林だよ、たまに廊下ですれ違って挨拶する。」

 

「あー……」

 

 さっぱり覚えていない。

 

 いや、こんな顔の人間はいた気もするが――正直、姉や家族、後最近はようやく同僚の顔の区別がついてきたところだ、それ以外の人間の顔に違いなどまったく分からない。

 

「で、その、竹林君が私に何を……?」

 

「助けてほしいって言ってるだろ、馬鹿な奴らに……攻撃されて大変なんだ。」

 

「……いじめ、ってこと?」

 

 そう尋ねると、一気に男子生徒の顔がこわばる。

 

 実際、この学校にもあるらしいとあかね――ああ、彼女の顔の判別もつくようになってきた――から聞いてはいた、いたが……なぜ自分にそれを?

 

「……いじめっていうか、いじりっていうか、カネも巻き上げられているし、うんざりなんだよ。」

 

「あー……」

 

 そう言われても、困るのだが。

 

「その、先生に相談してみたら?」

 

「したよ!したけど止まらないから勇者に頼んでいるんだろ!」

 

 叫ぶ男子生徒に御影の困り顔が深まった――そんなことを言われても、知ったことではないのだが。

 

「……なんで、いじめられているの?その原因を直せばいいんじゃ……?」

 

「そんなの――」

 

「――そいつが、勇者になれるかもっつって俺らのこと脅したんだよ。」

 

 そう言って、別の声が割り込む――また何か増えたと、御影はげんなりと肩を落とす。

 

「……誰?」

 

「そいつにあらぬ疑いを掛けられた方だよ、竹林ぃ、なに人様にチクってんだ?」

 

「……!」

 

 気の毒なほど身をすくませた少年は御影の後ろに隠れる――いや、隠れられても困るのだが。

 

「どこのネットで拾ったんだか知らねぇが、『魅力のない人間ほど勇者になりやすい』なんて文言信じやがってよ、俺らにたてつこうとして来やがったからちょっと身の程を教えてやったんだ。」

 

「……ふぅん?」

 

 話を聞くにどうやらこの男――名乗りもしない――が、彼に対していじめを行っていたのは事実らしい。

 

「そのくせ、ふたを開けてみりゃ、ヒーローの適性もなけりゃ勇者になる気配もねぇ、人のこと脅しといてこのざまだ。」

 

 そう言って背後の生徒をつまみ上げようとでもしているのか、生徒は腕を伸ばす――

 

「あ、やめてくれる?不快だから。」

 

 ――その腕を、御影が止めた。

 

「……あっ?なんだよ、黒土、こいつにほだされてんのか?」

 

「……?ううん?別に何の興味もないけど……ただ、あんまり目の前でもめられるのも気分悪いの、それに――」

 

 自分の姉の周囲に、こういった屑が存在するのは非常に気分が悪い。

 

「だから、ちょっと黙ってもらおうかなと思って。」

 

 そう言って、彼女は体の内側に存在する加護に意識を向け、力を誘導する――導くのは弱化の魔法、人間の生態維持のぎりぎりを狙った筋力の剥奪。

 

「――――」

 

 一瞬にして、男が崩れ落ちる。

 

 まるで地面に打ち上げられた魚のようにパクパクと体を震わせて、喘鳴のような音を上げる男に、御影は覗き込むように顔を見つめる。

 

「別に何をしようと構わないけど、私やお姉ちゃんに面倒があるようにはやめてね?次はもっとひどいことになると思うから……それじゃあね?」

 

 そう言って、御影は朗らかに笑い、手を振って歩き出す。

 

 その背後で、竹林がまるで何かに気が付いたような顔をしていることには、終始気が付けなかった。

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