特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第51話:予期せぬ来訪者

「君ほんとチョコミントすきね。」

 

「この世で最も美味な食べ物だと思ってますよ私は。」

 

 夕暮れ、行き詰まった研究室から抜け出した先輩《扇》と後輩《ゆかり》は友人達の分のアイスを片手にコンビニから出た。

 

 コンビニが生まれた時からある人間としては、この便利な商店が存在しない時代の生活が想像できないなぁ、とぼんやり考えながら、彼らは一路、社に戻る――眠る必要のない男にとって、夜はちょっとだけ長い昼とそれほど違いはない。

 

 そして、現在進行形で困り果てている後輩を見捨てるつもりも、彼にはないのだ。

 

「中身の液体が何であるにせよ、この世界の物質じゃないんですよ、元素でできてませんからね。」

 

「そうなんだろうなぁ。」

 

「となると絡んでくるのは勇者か魔物、確率としては勇者の方が高いですが、結局魔人という線も十分考えられます。」

 

「連中がこっちの次元に来られるのは確認されちゃったからなぁ。」

 

「ですです、おまけに魔物を送り込めることもわかりました、であるなら――」

 

「なにがしかの方法で魔物の死体をこっちの世界に残す方法があってもおかしくはない?」

 

「ええ。」

 

 以前も語ったことと思うが――魔物は、この世界に何一つとして利益をもたらさない生物だ。

 

 現れれば暴れ、理性的な会話など望むべくもない。

 

 止めるためにリソースを消費し、おまけに死体すら残らないためそれを使っての技術的な躍進も起こらない。

 

 困った連中――他次元からの侵略者、そんな呼び名も納得の生態だ、しかし、もしも魔人、ないしは魔王連中がそういった制約を取り払えるのなら。

 

「ファンタジー原産の理不尽物質がこの世にあらわれたってことになります。」

 

 非常に困る――物理学に喧嘩を売りすぎている物質だらけなのだ。

 

「そっちだと、もういよいよ一般の製薬企業に手出しできる話じゃなくなりますよ。」

 

 何せ、普通の会社にはゆかりも天塚もいないのだ。

 

 何なら、大部分の会社には勇者だっていない。その時点で、ファンタジーと戦うには荷が重い。

 

「先輩たちもいませんしね。」

 

 そう言って、意味ありげにこちらを見るゆかりに苦笑して――彼女を腕で制止する。

 

 背後から車の音。ブレーキパッドのこすれる音、動いていた物質の止まる気配。

 

「――なん――」

 

「――ごきげんよう、お2方。」

 

 振り向くと1台の高級車が停まっていた。

 

 ここ、オフィス街の、それもそこそこ大企業の多いこの地区においては珍しい車とは言えない……が、同時に、一般的ともいえぬ『浮いた』車だ

 

 ゆかりを庇うように声の主に向けて体を正対させる。

 

 車の前、降りてきたのだろう典雅な礼をする声の主は、かわいいと言うよりも綺麗な顔立ちの少女だった。

 

 年の頃はおそらくは黒土姉妹と同じころ、ただ、体つきはその母に近い。

 

 長く艶やかな髪は川の流れのように、それでいて、視界をふさがぬように横一文字に眉の上で切りそろえられた美しい夜の色をなびかせて、こちらに微笑む少女の身にまとう制服は、この辺では有数のお嬢様学校――俗にいう私立の女学校のものだった。

 

「――これはどうもご丁寧に……どちら様かな?占い師をお探しなら現在休業中だ、水晶玉が割れてね。」

 

 すっと、扇の気配が変わる。

 

 体の内側のスイッチが押されたように、明確な攻撃的意識を沸き立たせて彼は目の前の娘と、それを守るように運転席から出たのであろう、運転手の男の動向を見つめる。

 

『敵意はないが……さて、後ろの男はどこで見かけたんだったかな……?』

 

 首をひねる――見覚えがあるのだが、どこだかがわからない。

 

 初老の男。

 

 ひょろりと長い、カイワレ大根のような見た目の――まあ、見た目通りの生き物ではないが――七星と同じぐらいの背丈、短く刈り上げた軍人のように見える髪平均的な男よりもはるかに広い肩幅をしたスーツ姿の男性だ。

 

 ただの運転手ではあるまい。

 

 護衛か、あるいは何か別の……

 

「――ああ、申し遅れました、鉤咲。」

 

 思考を打ち切ったのは少女の声だ、思考を目の前に戻せば、少女の命令に音もなく従った男がこちらに向けて歩き出している。

 

「私、こういう者です。」

 

 そう言って、差し出されたのは――名刺?

 

「あ、どうも。」

 

 差し出された名刺を受け取って後輩が思わずと言った様子で口を開く。

 

「――ほう、笹藤麗華《ささふじれいか》。」

 

「知ってんの?」

 

「今の徳光電産の社長の苗字が笹藤です――と、叔母が言ってた記憶があります。」

 

「ああ……娘か。」

 

 それは相当な大人物だ、PC関係の部品などで名をはせる、黒土製薬でも手が出せない大企業である。

 

「あー……そのようなお嬢様が我々に何か御用ですかね?先ほども言った通り、占いは水晶玉が割れてますのでできませんが。」

 

「まあ、よく当たると噂なので少し期待していたのですが、仕方ありませんね……残念です。」

 

 そう告げて、沈痛な顔をする彼女はいったいどこまでが本音なのか、正直まったく理解できない。

 

「ですが、構いません、今日の私の用向きはそれではないので。」

 

「……ほう、ではなんです?」

 

 自分の背に隠れたゆかりが尋ねる――言葉は威厳に満ちているが、動きだけ見ると小動物だった。

 

「ええ、たいしたことではないのですが――」

 

 あの勇者を倒した3体の怪物、あれに会わせていただきたいのですが。

 

 そう言って、目の前の少女は笑みを深める――それを見ながら、扇はいつだか漫画で見た一節を思い出していた。

 

『笑顔とは、元来威嚇のためのものであり、その実、あれは非常に――』

 

 攻撃的な、表情なのだ。

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