特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第53話:ある少女の理由。

「えっ、あ、えーっと。」

 

 突然告げられた一言に、困ったように眉をひそめた少女は、これまでの会話からは考えられないほどうろたえ、ともすれば、年相応の振る舞いを思い出したかのようだった。

 

「違う、のですか。」

 

「違うのですねぇ、あの時僕らは出動したよ。ただ、勇者に負けただけだ、あんとき近くにいた後輩に助けてもらっただけさ。」

 

 だから、出動記録には残っていない――早々に敗れたからだと。

 

 さらりと、嘘を吐く。

 

 まあ、まるっきり嘘ではないのだ、実際負けていたし、後輩にゆかりを助けてもらっている、直接的な戦力だけが助力というわけではない。

 

「ですが、通常、トランサーには出動記録を取る装置が付いていると聞き及んでいますが。」

 

「あの時、僕らのトランサーには設楽が仕掛けた爆弾があってね、それのせいで機能が停止してる、そのせいで出動記録が残らなかったんだろう。」

 

「その状態で、たすけに、行ったと?」

 

「それが僕らだ――知ってるって、あんたが言ったと思ったけどな。」

 

「……そう、ですが。」

 

 納得のいっていない表情で、少女はこぼす。

 

「信用できないんなら、ヒロイックアカウントにいた堀田に聞くといい――所属は移ったけど、あんたなら探せるだろう?僕らを助けてくれたのはあいつだ。」

 

 そこまで言われては彼女としても何も言えない。

 

 ゆえに、あれは彼らではない、現地にいたのならば遠隔操作ではなく、遠隔操作だというなら

 

「ついでに言うと、魔人を制御する技術があるわけでもない――もしそんな技術ができたら、僕らは公開してるさ、あの薬だって公開したろう。」

 

 D.I.N.T.

 

 あれの製法は相応に世間にばらまかれている、利益も度外視でだ、それを考えると、そんな技術があるのなら、世間に発表するはずだと言われては否定もできない。

 

 彼らはそういう連中なのだ。

 

「……そう、ですか。」

 

「そうですよ。」

 

 そう言って鷹揚にうなずく扇の様子をおかしいと思う人間はいないだろう――自己暗示の偉大なる力である、生理反応すら彼の意思に隷属する、その力をもってすれば嘘を覆い隠すことなど造作もない。

 

「……どうしましょう雨傘、見当外れだったようです。」

 

「仕方がありませんお嬢様、そういったことも、まれにはあるでしょう。」

 

 そう言って、後部座席の扉を運転手らしき男が開く――その動きは洗練されていて、明らかになにがしかの体術的な動きの片鱗が見える。

 

「ところで……なんでそんな話を、今僕に?正式に会社に話を通せばよかろうに。」

 

「……一応、お願いしたのですが、存在しないの一点張りでしたから。」

 

「うん、まあ、いないからね。」

 

 少なくとも、()()()()()()()()()()は明確に存在しない。

 

 そこに関して、嘘はついていないのだ――本当は、もっと、複雑で、意味の分からぬことをしでかしているのだから。

 

「……そう、なのでしょうね。ですが、私にはいまいち信じられませんでした、ですので、直に交渉するほかないのでは――と思い立ち。」

 

「僕のところに来たと、おあいにく様だったな。」

 

 肩をすくめる――実際、合わせるわけにはいかないのだ。

 

 現状、三人の超人は自分達のことを明確に発表するつもりはなかった。

 

 それは、彼らのこだわりであると同時に――勇者たちへの牽制でもある。

 

 現在、この国を含めた主要な国家において、勇者の犯罪は過去類を見ないほど減少している。

 

 なぜか?

 

 考えるまでもないだろう、設楽天京の一件が、勇者内で広がっているからだ。

 

 突如として姿を現した謎の生物たち、それによって打倒された勇者と魔王。

 

 彼らにとって、これはこの世界に非ざる、そして、あってはならぬ脅威だ。

 

 これまで、勇者であるという一点だけで自分の存在を、罪を、打ち消してきた彼らにとって、この『不可思議な生き物』は恐怖の対象なのだ。

 

 どこぞの蝙蝠男の理論と同じだ――正体を知られていないからこそ、彼らの行動は抑制される。

 

 知らないというのは恐怖なのだ、ゆえに、彼らは自分達の存在を『隠しきりはしないが正体にはたどり着けない』位置で固定する。

 

 そうすることで、勇者達への抑止力に変えるのだ、そのために、あれほど大げさに勇者を倒したのだから。

 

「わざわざ僕に会いに来るほどの用かね?」

 

「……ええ、どうしてもその兵器を拝見し、意思の疎通が取れるのなら聞きたいことがあったのですが。」

 

「……ほう、何を?」

 

「その力を、人の身で御せるか否か。」

 

 そう告げた少女の目は、決然とした光を宿している。

 

「……ほう?なんでまた、そんなことを。」

 

「必要だからです、私には、どうしても。」

 

 そう言った彼女からは、どこか強い敵意と明らかな――悪意を感じた。

 

 誰か、誰かはわからないが、誰かへの鮮烈な敵意、悪意、そういったもの、すべて。

 

 その気配だけで、彼は彼女が、何を望んでいるのかわかった――そして、だからこそ、彼女に、自分達の正体は明かせない。

 

 もしも明かせば、彼女は自分達と同じ力を望むだろう、そして、その果てに……おそらく、心を壊す。

 

 扇雄介は自分が異常な人間だとわかっている――だから、彼は正体を明かさない。

 

 たとえ、()()()()()()()でも、この力を得るには相応の手間がかかるのだ。

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