「――フム、やっぱりばれましたか。」
コンビニの袋からストロベリーのコンビニの中ではひときわ高いアイスを取り出す天塚は、片眉を上げる。
話題は、先だって彼らに接触を持ってきた少女のことだ。
「かなりお偉方が出てきましたね、先に公安辺りが絡んでくるかと思いましたが。」
アイスを口に運びつつの一言に賛同するのは扇だ。
「気が付いてはいるだろ、何人か見たし――ただ、まあ、誰も僕ら本人が変身してるとは思ってないらしいけど。」
片眉を上げる――おそらく、公安側も、彼女と同じように何かしらの新兵器が存在すると踏んでこちらを内偵しているのだろうとは、彼らもわかっていた。
取引先に化けて、あるいは、新入社員として、この会社に潜り込もうとしている連中は多い。
そんな中でありながら、彼らが自らの正体を隠しおおせている最大の理由は――
「まあ、普通鍛えたら人間やめましたとか信じませんしねぇ。」
――これだ。
根本的に、常識はずれなのだ、彼らの現状は。
普通の人間なら始めてすぐに死にかねないほどの修行を20年も繰り返してチャクラを開いた男。
5歳から阿闍梨のような生活を行い精神を鍛え上げた男。
稀代の大天才とはいえ、1人で別次元のエネルギー制御技術を生み出し、別の次元で戦闘用の肉体を作り出した男――そんな、真実特撮じみたことを行う連中がいると、公安は信じていない。
何かの隠語か、情報のかく乱を狙った与太話の類だと思ってすらいるだろう。
「5歳の時から100キロの石を持ち上げて山を登っていました!とか普通は信じないからねぇ。」
「9日断食してけろっとした顔でヒーローしてますの方がおかしくねぇ?」
結跏趺坐を組み、ゆかりをその上に乗せた扇の1言に、バニラのアイスを豪気に口に放り込んだ七星が唇を尖らせた――彼よりもおかしい人間のように扱われるのは気にくわない、こいつが一番おかしいはずだ。
「ふ、それに比べれば機械で変身している僕はまだしも正常ということですよ。」
「あたかも自分をマイノリティに置くなよ科学変人、何だプランクプレーンから引き出したプランク長のエネルギーって。」
「あ、説明します?」
「あ、ごめんなさい、全然いらないです。」
自分の異常性を他人に擦り付け合う彼らに、扇の膝の上でゆかりは思う――いや、全員普通ではないです。と。
とはいえ、語っている内容は実際問題、回避のしようがないことだった。
巨大ヒーローものによくある問題だ――「あいつ、ヒーローが出てくるといなくなるんだよなぁ。」のあれである。
特撮ではなぁなぁで済まされている問題だが……まあ、現実ならこうして疑いの目を向けられる。
「って言っても、別に何するってわけでもないんだろう?俺らの根底的に考えて。」
そう告げる七星に、2人はうなずく――5歳の幼稚園で誓った誓いは、今でも、彼らの行動指標だ。
『いい人達を助ける。』
これは何があっても変わらない。
正義の味方という言葉の意味を知り、その意味に感銘を受けて、行動にいろいろな理屈が付くようになったこの年でも、それは変わらない。
「最悪、ばらさないとどうにもならなくなったらばらすし、そうでないなら……現状維持だろ?」
「そうなるねぇ。」
「勇者の行動を止めるのに一番いいのはこれですしねぇ。」
だから、彼らは隠れ潜む――それがどこまで続けられるかはわからない。
「証拠固めとかされてたら怖いねー」
「そしたらもう、直前でドカンと発表しますよ、どうにもなりませんし。」
「社長に迷惑かけられんしなぁ。」
そんな会話と共に、夜は更けていった。
「――って会話したらこれよ。」
「……申し訳ありません、何のお話で?」
「ああ、いや失敬、こっちの話だろ。」
そう言って頭を振る、目の前にいる男――つい先日、扇の前に現れたご令嬢の運転手であるはずの男。
「あんたに会うのも久々だな、アントライオン。」
口から飛び出すのはずいぶんと前に辞めた同業の名前――彼の昔の名だ。
「……やはり気づかれましたか。」
日課のランニングの途上、脇から現れた男に、彼は見覚えがあった。
扇が悩んだのもよくわかる、あの頃とは何もかも変わった、老けているし、一回りは小さくなった。
ただ、それでも。
「覚えてるさ、8年前の渋谷の時に会ったろ、格好が違うのと、ちょっとちっこくなったせいで扇の奴も思い出すのに苦労してたけどな。」
「引退して5年ですからな。」
「そんなに経つっけ?娘さん調子どう?」
「おかげさまでずいぶんと持ち直しました――娘が倒れたと聞いた時は、我が身の不肖を呪ったものですが。」
「世の中いいようにできてるもんさ、少なくとも、あんたみたいな人にはな。」
「そう、なのかも知れませんな。」
「そうさ。」
そう言って会話が止まる――次に、この男が何を、聞いてくるのか、彼には手に取るように分かった気がした。
「――あの、不可思議な生き物は、あなた方なのでしょう?」
並走する男から届いた一言は、なるほど、彼が想像した通りの言葉だった。