特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第57話:電光石火の

 光輝の内から現れたのは2体の超人だ。

 

 磨き上げられたスターリングシルバーの体に籠手を着けたインパルス・バングル。

 

 ウスバカゲロウの幼虫――アリジゴクを模したデザインをしたサンドイエローとマットブラックのヒーロー。

 

 すでに消え去った伝説、いなくなったはずの存在――アントライオン。

 

「インパルス・バングル!は、早く、その足元の人は助けてください!」

 

「アントライオン?何年か前に引退したって……な、何でもいい!早く助けてくれ!」

 

 背後に背負った人々の声を聴きながら、彼らはおもむろに敵を見つめる――見れば見ただけ、見覚えがない。

 

 魔人――にしては肌の色が違う、あの連中はことごとく赤い肌をしていると聞いている。

 

 こいつの肌は……何とも形容しがたい色だ、が、少なくとも赤ではない。

 

『憑依型の魔物……いや、ここまで見た目が変わる奴は知らんな……?』

 

 これまでこの世界に逃げてこなかった希少な種族が、とうとう勇者に住処を追われた――いや、だとしたら召喚円がない理由がわからない。

 

『……こういうの考えんのは天塚の仕事なんだがなぁ……?』

 

 内心で苦笑しつつ、彼はゆっくりと敵であろう存在に近寄る――さて、どんな反応を返すか……?

 

「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきぃ!」

 

 叫ぶ――叫ぶ?魔物が?

 

『普通の魔物にそんな高度知性があるとは思えん、少なくとも、これまでこの世界の人間が接触してきた異世界の住人にはそんな特徴は――』

 

 ない。

 

 となれば――

 

『こいつまさか……』

 

 そっと、仲間2人にスクランブルを飛ばす、機械的に作られたヒーローの基本装備、もしも、自分の想定が正しいとすれば、あの2人の助けが必要かもしれない。

 

 2人が通知を受け取ったと示すアイコンの表示と、敵の攻撃は同時だった。

 

 ぎゅるんと体を回転させて――なんとまあ、恐ろしいことに胴体が270度は回転している――大上段からの一撃。

 

 まるでギロチンかプレス機かと見まがう一撃、しかし、七星は慌てない。

 

 真っ向から受けるのは危険だ、それは、周囲に残っている切り傷から見て間違いあるまい。

 

 ゆえに――

 

 王心七征拳・回し受け

 

 川の流れに乗る木の葉のように流麗に動いた掌が、にわかに敵の爪に触れる。

 

 爪の横側から触れた手が、かすかに、軌道を逸らす。

 

 するり――と地面に向けて切っ先が落ち、目の前に立つ七星に触れることなく舗装を切り裂いた。

 

 空手の回し受けを模倣した妙技、体の前で行う円運動が上段から迫る凶刃を阻むのではなく逸らす。

 

 一瞬、空白ができた。

 

「―――お前お前お前!お前も、お前も俺を馬鹿にするんだなぁ!?邪魔をするなぁあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 絶叫、ガラスが振動し、おおざっぱな踏み込みから腕が振るわれる。

 

 横薙ぎに振るわれた一撃に、七星は後ろに一歩下がる――あまり大きくは下がれない、自分達が来たせいなのか、観衆が逃げ出そうとしていない。

 

『2人で来たのが悪かったかな。』

 

 そのせいで、自分達が優勢に見えているのだろう、まあ、実際、それほど危ない敵とは言えないが……何にだって、例外というのはあるのだ。

 

 哀れにも空を切った自分の一撃は、目の前の不可思議な生物にさらなる苛立ちをもたらしたらしい、もはや、彼の目には自分が傷つけた人間も周りの観衆も映っていない。

 

 自分だけだ、そして、それが七星の狙いだった。

 

 突き出される腕を半身になって躱し、即座に腕をつかみ、脇で締める、このまま折ることもできるのだろうが……どうせまっとうな生命ではないのだ、その程度のダメージならばすぐに復帰するだろう。

 

 だから――

 

「悪いね、地味な仕事で。」

 

「――お気になさらず、皆さんの気持ちが少しわかりましたよ。」

 

 そう告げたのは、背後で動こうとしなかった過去の遺物――アントライオンだった。

 

 彼の固有の力である『砂の操作』の力が作用し、舗装下のごく薄い調整砂の層を支配し、被害者を逃がす。

 

 傷口に砂が入り込むだろうが、そこは勘弁してほしいものだ――あのまま放置していれば、確実に彼は死んでいるのだから。

 

「――おば、おべえ!」

 

 どんどんとくぐもり、意味の分からなくなっていく声を聴きながら、七星は体を回転させる。

 

 腕を担ぎ、体を落として――投げる。

 

 単純な一本背負い、背中をギザギザとした刃が切り裂くが気にしない――どうせ、自分の皮膚に傷つけられるほどの力はない。

 

 グルンと、敵の体が回転し、地面にしたたかに打ち据えられる――舗装を貫きながら。

 

 拘束のために上から相手の体を踏みつつ思う。

 

『異常な切れ味、たいした能力だ、だが……』

 

 動きは素人そのものだ、まるで喧嘩をしたことのない子供――中学生だって、もっとましな喧嘩をするだろう。

 

 やはり、魔物ではない――これは――

 

「うぁぁっぁっぁぁぁぁぁ!うぁぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁっぁぁぁ!」

 

 奇声が響いた。

 

 その時だ、敵の体が輝いたのは。

 

「!」

 

「―――インパルス・バングル!」

 

 背後で響く声に、七星の感じる時間感覚が泥めいて停滞する――チャクラの1つであるマニプーラの影響で、神経伝達が加速、すべてが止まって見える。

 

 即座に地面を強く蹴る――さて、何をする気だ?

 

 次の瞬間だ、ごくゆっくりと、体全体の刃が伸び始めたのは。

 

 加速した神経の中でなおこの速度ならば、周囲にいる人間にはそれはほとんど一瞬で引き起こされた現象に見えるだろう。

 

 さて、そうなるとまずい、周囲の人間を傷つけかねない――少々危険だが、早々にケリをつけてしまおう。

 

 伸びる刃をかき分けることすらなく、電光石火で拳が落ちた。

 

 ゴン、と硬質な音が響く。

 

 舗装が砕け、敵の目がぐるりと上を向く。

 

 誰の目から見ても明確な決着、善が悪を倒すいつもの光景だった。

 

 ここまでは、そうだったのだ。

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