特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第58話:数週間ぶり二度目の狙撃

 ―――殺気。

 

 七星の斜め後ろ、雑居ビルの3階、右から3番目の窓。

 

 加速した反射神経の中で迫る砲撃を七星は確かに見た。

 

 3つのベアリングだ、ごく単純な球体が背後のビルから飛び出し、七星に向かって飛来する――速い。

 

 非変身時ですら、銃弾を見切る彼の動体視力をもってしても、投げつけられた野球ボール並みの速度で進むそれは、明らかに音速を超えていながら、何の音も衝撃ももたらさずに七星に向かって猛進する。

 

 ――まずい、狙われたのは自分ではない。

 

 軌道を見つめた七星は思う、この軌道、自分の体を狙ったものではない、とっさに視線が足元に流れる――突然現れた謎の生物、こいつだ、だから微妙に射線がずれている。

 

 今からこの怪物を動かすわけにはいかない、今の加速でこの生き物を動かせば、下手をすれば死ぬ。

 

 となれば――

 

 即座に、体が動く。

 

 両腕が稲妻もかくやという速度で動く――狙いは高速で走る弾丸だった。

 

 向かってくる砲弾を、ヒーローと化した七星の手が迎えに行く。

 

 砕かぬように、細心の注意を払って――弾丸をつまむ。

 

 怪物の頭部を狙った1発を止める、明らかな殺意を感じるそのベアリングは、表面こそ乾いているが、重みからして内部に何かが満ちている。

 

『……薬……か?』

 

 少なくとも液体だ、重心がぶれている。

 

 右胸を狙っていた2発目と3発目を止める――このブレ具合からして、どうも単発を立て続けに放ったらしい。

 

『薬品をこいつに打ち込みたいのか。』

 

 考えるまでもなかった、中身が毒なのか、あるいは、何かしらの薬品でこいつを回復させるつもりだったのかはわからないが……いずれにせよ、それをさせるつもりはない。

 

 飛び出した4発の弾丸を受け止め、じっと敵を見つめる――5発目は放たれない。

 

『……ふむ……?』

 

 明らかに、こちらの様子を見ている、自分の隙を伺っている、あきらめては――いない。

 

 ゆえに、七星も動かない、この怪生物は彼の考えが正しければ、殺させるわけにはいかない相手だ。

 

 にらみ合いが続く。

 

 常人には1秒にも満たない時間だっただろうが、七星にはたっぷり30分ほどのにらみ合いだった。

 

 そんな不毛な争いが終わったのは突然のことだった。

 

「うっぁあああ!うぁあぁっぁああ!」

 

 足元で、怪生物が叫んだ――次の瞬間、周囲が噴煙の中に消えた。

 

 体から突然すさまじい量の色のついた霧があふれて、全員の視界をふさいだのだ。

 

 逃げるための決死の行動だったのだろう――そのすべてを七星は知っていながら見逃した。

 

 今、この怪生物をここに置いておくのは危険だ、明らかにレベルの違う敵があの生物を狙っている。

 

 扇や天塚がいれば話も別だが、ここにいるのは退職済みの父親が1人と戦えない人間が大勢だ、断言してもいいがこの生き物を逃がすよりも、狙撃犯に周囲もろとも攻撃される方が怖い。

 

 そのためにも、今はあの怪生物には逃げてもらう必要がある、もう天塚にはこの状態は伝わっているはずだ、怪生物をドローンで追いかけているだろう、見逃したとしても、問題は薄い。

 

 ゆえに、七星は自分を覆おう煙の中に消えながら、じっと狙撃地点であるビルの窓を見つめていた。

 

 

 

 

「――ふーむ……」

 

 一方、黒土製薬本社の正義の味方こと特撮班本部。

 

 スクランブルを聞き、ドローンを飛ばしていた天塚がうなる。

 

 湧き上がる噴煙の中から飛び出す生物を見つめる――見たことがない。

 

 別段、異世界の生物すべてを知っているわけではないが――ここまで、普通の生体構造から外れているものを見るのは初のことだ。

 

『おまけに狙撃……』

 

 明らかに、何者かの意思を感じる。

 

 ドローンの位置を変えて眺めてみれば、そこには何もいない――逃げたのか、あるいは単純に不可視なのか。

 

「僕も行った方が良いかな。」

 

 いつのまにやら後ろにいた扇の1言に、天塚は否定の言葉を漏らす。

 

「いや、見える範囲にはいませんし、もし不可視になって隠れてたら下手に僕らが動いて、敵が暴発すると危ないでしょう、自爆でもされたらあのビル崩れかねませんよ。」

 

「あー……」

 

 そうなれば、変身抜きで民間人を守るのはほぼ不可能だ。

 

 そして、彼らの変身にはそれなりの時間がかかるのだ――さて、そうなると。

 

「狙撃手は逃がすしかないか。」

 

「ええ、まあ、どうせ、それなりに情報を漏らさないようにしているでしょうし、弾丸を受け止められた時点で逃げを打ってたと思いますよ。」

 

「あとで一応ビル潜ってサイコメトリーしてみるわ。」

 

「それが丸いですかねぇ、気を付けてくださいよ、精神を同調する魔法だってあるんですから。」

 

「ん、僕の反応、モニターしといてくれ。」

 

「了解でーす。」

 

 駆け抜ける不可思議な生物を見ながら生返事を返す――なんとなく、七星がなぜ自分達にスクランブルを出したのかわかったからだ。

 

 2足歩行、かつ人語を解し、けれど人間でもなく、赤い皮膚もしていない――となると。

 

『まさか……とは思いますが……』

 

 可能性はあるだろう、つまり、あれは――

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