特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第59話:過去の幻視

 黒土製薬の会議室、広く並んだ机の大群の中で3人の男と1人の女はスクリーンに投影された映像を見ている。

 

 先立っての怪生物事件から4時間、日も暮れ、定時を過ぎた社内で、4人は映し出された映像を見ている。

 

 映し出されているのは先程の怪人だ。

 

 空撮ドローンに気づいた様子もなく、霧の中から逃げ出したその怪物は、路地を数本越えたあたりで突如として苦しみだす。

 

 腹を抱えるように押さえて膝を折る、がくがくと震える体をがっくりと折る――そして、体から爆発したかのように噴煙が立ち上る。

 

 まるで煙幕だ、七星を隠したあれに勝る爆発的な量の噴煙。

 

 数分間、煙の渦に包まれていた路地裏からよろよろと現れたのは――1人の男だ。

 

 決して、屈強とは言えない、むしろ貧相な体つきをした男。

 

 道端に唾を吐き、何事か喚き散らしながら、ふらふらと壁に手をついている。

 

「やっぱあれ、人じゃーん!」

 

「超人の次は怪人ですか?世界始まってますねぇ!」

 

「とうとう、とうとう、世界が僕たちの速度についてこられるようになったようじゃな!」

 

「楽しそうですねぇ……」

 

 自分の推論が当たったとはしゃぐ七星たちにゆかりは苦笑交じりに声を上げる――初めて話を聞いた時は半信半疑だったが、マジで人間だとは。

 

「普通考えませんけどねぇ。」

 

「僕ら自身、普通ってわけじゃないからなぁ。」

 

 ぽつりとこぼした一言に、扇が返答する――実際、普通の人間は想像もしないだろう、正常な人間が、突如として魔物のような体に変わるなどというたわごとを。

 

 ここ20年ほど、世界は魔物の脅威にさらされてきた。

 

 勇者から逃げた者、侵略を目的にしたもの、単に迷い込んだもの……それなりの理由の違いはあれど、魔物とは常に『別の世界からの来訪者』であった。

 

 ゆえに、誰も考えない――『この世界の人間が、魔物になる』などという可能性は。

 

 が、彼らは別だ――何せ、訓練や学習の果てに自ら超人に至った彼らからすれば『当然』や『普通』などというものは、いつだってガラスか障子紙のようにたやすく破れてしまうものなのだから。

 

 よたよたと歩き去る男を追って、ドローンはすでに彼の家を突き止めていた。

 

「取り押さえに行くか?」

 

「そうしたいところですが……どうやってあの怪人になったのかが気になりますね。」

 

 そして、だから同時に、彼らはわかっている――自分達のように超人や怪人になるのは並大抵の努力では行えないことを。

 

 ゆえに、気になる――人を、ああもたやすく化け物に変えてしまう力の正体が。

 

「先輩たちよろしく阿呆みたいな修行したってわけでもないでしょうしねぇ。」

 

「だろうなぁ、装置って感じもしないし……」

 

 もしも、なにがしかの装置による変身であれば、それを制御する部分が存在するはずだが……少なくとも、映像でそれを制御しているようにも見えない。

 

「トランサーの亜種でも出たかと思ったけど違うっぽいしな。」

 

「見た感じ、時間制限がある気がするんですよねぇ、薬とか?」

 

 ありそうな線だ、人を怪物に変える薬――なんて、昨今ありふれた創作のネタである。

 

「どっかの大天才が被爆した蜘蛛にでも噛まれたのかね?」

 

「ノリだけで言ったらそいつの恩師じゃねぇ?」

 

「グウェンにはかわいそうなことをしました……僕らがいれば助けられたんですけどね。」

 

「さすがに映画にゃ出れんだろ……いや、エキストラで出たけど、夏映画。」

 

 などとくだらぬことを話す3人に、ゆかりからの一言が飛ぶ。

 

「狙撃してきたやつのこともありますしねぇ。」

 

「ああ、それよ、サイコメトリーしてきたんだろ?どうなったんだろ。」

 

「あーまあ、そんなに大したことはわからんかったけど……っていうかお前、語尾戻ってね?」

 

「いいだろ別に、知ってるやつしかいないし。」

 

「まあいいけど……口で説明するより、見せた方が早かろう。」

 

 そう言って、ひらりと手を振った直後、3人の脳裏に、扇の見てきた映像が映る――テレパシーのちょっとした応用だ。

 

 

 

 

 

 映し出されるのは、昼の町、眼下に広がるのは怪人によって破壊された街並みと、暴れまわる怪人の姿。

 

 その胸中に浮かぶのは喜悦――自分の思惑がうまくいったことに対して感じる喜びと、他人を制御していることへの明確な喜び。

 

 そして何よりも、自分よりも下の者を見出した時に感じる暗い昏い愉悦だ。

 

 明らかに、善良な人間の思考ではない――人を貶めることを喜ぶ、暗い思念だった。

 

 人が傷つくことに喜び、怪人の動きに喜んでいた。

 

 興奮と喜悦をないまぜにした思考は、七星が現れるまでとめどなくあふれ――彼の登場で霧散する。

 

「――クソが、目立ちたがりの雑魚がよぉ、邪魔ばっかスンなら生まれてこねぇで死ねよ!」

 

 口ぎたない罵声、聞くに堪えぬそれを放った彼――どうやら男らしい――はおもむろに何かを取り出す。

 

「……あの女、マジで、これでどうにかなるんだろうな……?」

 

 取り出されたのは7粒ほどの球体――あの時、七星がつかんで止めたベアリングだ。

 

 それを、七星――ではなく、その背後の怪人に向けて放つ。

 

 口封じにはこれを使えと言われたが……さて、本当にどうにかなるのだろうか?

 

 手始めに高速で4発、今の『彼』の力なら、ヒーローに悟られない速度で打ち出すことなど容易――そのはずだったのだ。

 

「―――!?」

 

 受け止められた。

 

 最速の砲撃を、素手で。

 

 いくらヒーローになっているとはいえ、そんなことはできないはずだ。あの女曰く、今の自分はヒーローをはるかに凌駕する力を持っているはず。

 

 なのに、なぜ――

 

「――おれをだましたな、あの女……!」

 

 固まる、こちらを、あのヒーローが――インパルス・バングルが見つめている。

 

 なんでこの位置でこちらのことが見える?ありえないはずだ、いや、そんなことないのか?

 

 冷や汗が垂れる――結局、彼は視線が切れるまで、その場を動けなかった。

 

 

 

「……女?」

 

 過去の幻視から覚めた天塚の第一声は、疑念に満ちた一言だった。

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