特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第62話:ある少女の願い/実験許可

 翌日の午後、扇は会社にある研究室にいた。

 

 とある事情で、ここに来たのだが……どうも、運がよかったらしい、椅子に寄りかかりながら干している布団のように項垂れている後輩を発見できたのだから。

 

 漫画なら口から魂が出ているだろう。少しだけ面白いと思ってしまったが……いや、そうでもないな、結構な事態だ。

 

 幼稚園のみぎりから知っているが、彼女がここまでへばっているときは、大抵、本当にどうしようもないほど疲れている時だ。

 

 そっと扉を閉めて、そそくさと移動、大きい企業というのは社内にも自販機があるというのだから驚きだ。

 

 糖が口からあふれるほど甘い苺ミルクを確保して再び部屋に――戻ってみても、後輩は身じろぎ1つしていない。

 

 精神の反応からして生きてはいるが、身動きができない程度には疲れているらしい、あれで、寝ていないのだから不思議な娘だ。

 

 机の脇にペットボトルを置けば、何ともまあ、不気味な動きでそれを口に運んだ後輩は、何やらひどく――

 

「ご機嫌ななめだな。どうしたん。」

 

「……あの娘、また来たんですよ。根掘り葉掘り聞かれまして。」

 

「あー……」

 

 どうやら、アントライオンは説得に失敗したらしい。

 

「僕らのことは?」

 

「気が付いてないみたいですけど……そのせいでなおのこと、この会社が何やら秘密兵器を隠していると疑ってはいるみたいですね。」

 

 そう告げるゆかりの顔はまるで土砂降りの中傘を差さずに帰る羽目になったかのように不機嫌だ――まあ、基本、あまり人の好きな娘ではない、そんな顔にもなるだろう。

 

「あの薬についてはまだよくわかりませんし、天塚先輩の装置も届くのに時間かかってますし、あの子自体はそれほど悪い人間でもないんで秘密にするのが心苦しいし……」

 

 で、キャパオーバーしたというのが今の現状らしい。

 

「いっそ話しちまうか?」

 

「……いいんですか?」

 

「よくはないけど、まあ、あんまりしつこいならプランBって手もなくはない。」

 

 今よりも、効率は落ちるし、疲れもするが、その程度の話だ。

 

「……いいですよ、それをはじめから選んでないのなら、それなりの理由があるんでしょう?」

 

「まあね。」

 

 そう言って、肩をすくめる。

 

「実際、どうなんです?やっと変身できたのに、あれ以来変身してませんけど。」

 

「……あんまり長時間、変身できないんだよ。」

 

「体の問題で?」

 

「被害の問題で。」

 

 それが彼らの制限だった。

 

 今、彼らが変身するのは簡単だ、単にスイッチを押すなり、気をためるなり、変身の意思を持つなりすればすぐにできる。

 

 20年の研鑽は、彼らの体を強く、強靭にし、彼らの内からあふれ出す力を自在に制御せしめるに至った。

 

 ――が、周囲の人間は、そうもいかない。

 

 チャクラにせよ、プランクプレーンのエネルギーにせよ、あるいは、超能力を使う際の力場にせよ、あれらは徐々に周囲の空間に拡散していく。

 

 それ自体は自然なことだが……拡散していくエネルギーそのものの性質が、明らかに普通ではないのだ。

 

 それらは通常人の体に宿らぬものであり、同時に、大抵の人間は耐性を持たぬものである。

 

 ゆえに、それらの力に触れると、人間には多大な影響がある。

 

 それはえてして体調不良という形で現れ――時と場合によっては、病院の厄介になることもある。

 

「死ぬようなことにはならんが……ヒーローが人に危害を加え続けるわけにもいかんしな。」

 

 ゆえに、彼らは基本的に変身をしない。

 

 そのおかげで、あの少女につかまっていないあたりは、怪我の功名といってもいいのかもしれない。

 

「ただ、話したからって彼女の願いが叶うわけでもないのがちょいと厄介なところではあるんだよな。」

 

「実際、何がしたいんです?」

 

「天塚と七星曰く、家族と勇者の手を切らせたいんじゃないかってことらしい。」

 

「あー……脅迫?」

 

「か、この前までの社長よろしく洗脳か。」

 

 いずれにしても、碌な状態ではあるまい。

 

「まあ、話す話さないは先輩たちに任せますけど……例の怪人の件もあります、あんまりうろうろされると危ないですよ。」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

 そのためにも、早いところあの怪人の正体について明らかに――

 

「って、あ。そうだ、実験してぇんだけど、実験室使っていい?それ聞きに来てんだわ僕。」

 

「む、先輩は私のピンチを察知してきてくれたわけではないんですか?」

 

「ん?うん、まだピンチじゃないだろ、一時的にキャパ超えただけで――甘えたいなら好きにしていいけど。いや、ほれ、あの薬、とうとうサイコメトリーしようかってことになったから。」

 

「おおっ、甘えますね、甘えますよ、いいですね!」

 

「えっ、うん。急にぐいぐいくるじゃん」

 

「当然でしょう、最近甘えてないからセロトニンが足りないんです……では失礼して、で、大丈夫なんですか?」

 

「何が」

 

「あんなよくわからない物体にサイコメトリーなんてして……乗っ取られたりとかしません?」

 

「わからん――が、やるときは君の従妹と2人もいる、僕がどうこうなってもどうにかなるだろ。」

 

「……けが、しないでくださいよ。」

 

「最善は尽くそう。」

 

 それしかできんからな、と言外に語って、扇は保存された回収物を見つめる。

 

 その黒曜石の輝きの後ろで、誰かが笑っているように見えて、彼は内心で舌打ちした。

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