特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第63話:失敗

 「……ほんまに大丈夫なんこれ。」

 

 心から不審そうに、灯が告げる。

 

 ここ数日、魔物退治以外で会話の機会もなかった姉と同僚に呼ばれて会社を訪れてみれば、研究室はどうにも物々しいありさまだった。

 

 初めて、新型の装備を纏ったときの比ではないほど厳密に密閉された部屋の中に、体が見えないほど大量のコードにつながれた男――扇がいた。

 

 周囲を囲む研究員も、皆さすような視線を彼に向けている――その頬に冷や汗を見て取ったのは灯だけではなさそうだ。

 

 これまであらゆる科学的検査を潜り抜けてきた謎の物質に対する超能力の行使。

 

 言ってしまえば、それだけのことに、この会社は総力を挙げて取り組んでいた。

 

「何や、こう……えぐいことなっとるけど。」

 

「って、聞かれてますけどどうなんです天才。」

 

「僕にもわかんないっすね。」

 

「おい。」

 

「いや、まじめな話、こればっかりはどうにもならないんですよ、超能力者に何かあった時の反応なんて誰にもわからないんですから。」

 

 ゆえに、最大限警戒する、当然のことではあるのだ。

 

「そういうわけなので、お2人にも来てもらっているわけですよ。」

 

「ん、まあ、それはわかるけどもやな。」

 

「こっちがやるって言いだしてるならあれですけどね、向こうがやるから見てろと言っている以上、僕にももうどうしようもないんですよ。」

 

「……むぅ……?」

 

 困ったように肩をすくめる天塚に、灯は何も言えない、実際問題、本人の意思を捻じ曲げる方法がない以上、このまま始めてみるしかない。

 

「まあ、あの薬の中身は知りたいから仕方ないよ、おねぇちゃん。」

 

「……まあ、それもそか、うちらはここで待機しとったらええの?」

 

「はい、やばそうなら、僕らと乗り込んでいって雄介を制圧します。ああ、でも、一応御影さんは精神に何の問題もないのか念のために魔法なりで確認してほしいところではあります。」

 

「了解。」

 

「あ、わかりました。終わった後ですよね。」

 

「ええ。お願いしますね。」

 

 そう言って、視線を扇に向ける天塚達の傍ら、あまり口を出さなかった御影は楚々と、体を動かす。

 

「……あの」

 

「おん?」

 

 声を掛けられたのは――意外にも七星だった。

 

 はて、何のようだろうか……?と首をひねる七星に、御影はこっそりと告げる。

 

「……その、これが終わったら、ちょっとお話したいことがあるんです、いいですか?」

 

「……あ、俺に?あ、はい、全然大丈夫です。」

 

 驚いたように目を見開く――いや、実際、かなり驚いている。

 

 自分と彼女との関連はほぼほぼないといっていい、そもそも、顔を合わせたこともそれほど多くないのだ、そんな相手から話とは……?

 

『……果たし、状……!?』

 

 あらぬ方向に思考が飛躍する七星をしり目に、了承の返事を得られたことに安堵したようにほほ笑んで、扇に視線を向けた。

 

 

 

 

 

「始めまーす。」

 

「はーい、どうぞ―」

 

 気の抜ける声と共に、扇の指が、黒い液状の物質に触れる。

 

 扇雄介はエスパーである。物体を通じて、それに触れていた人の思いを読み取ることができるのだ。

 

『僕今最高にS.P.Dしてる……してない?』

 

 感動に打ち震える扇の傍らで、2人の友人は不満げであった。

 

「お前だけ、生身の時に超能力使えんの狡いだろ、オタク的に考えて。」

 

『お前直立状態から何メートルジャンプできる?』

 

「……8メートルぐらいか?」

 

『その時点で超能力みてぇなもんだろ。』

 

「僕はなんもないんですけど。」

 

「『純粋科学力だけで変身する奴にこの会話に混ざる権利はねぇよ。」「ない。』」

 

「えぇ……?」

 

 困ったように片眉を上げる天塚に、生ぬるい視線を向ける2人は、しかし、その体は緊張に満ちている。

 

「――で、どうです?先輩、体に不調とか。」

 

『ないでーす、ないですが……ちょっと問題がある。』

 

「何です?危険ならすぐにやめてくださいよ?」

 

『いや、僕は危険じゃないんだけど――君らがまずいかな、御影。』

 

「え、はい!?」

 

『星辰に関係する魔術とか魔法とか防げる呪いってあるのか?あるなら使っておいてくれ。』

 

「え、あ、了解です……?」

 

 意味が分からない――と言いたげな御影の口から呪文の言葉が消え去り、不可視の結晶壁が研究員を含めた全員を覆う。

 

 それと全く同じタイミングで、実験室の中があふれ出した黒に覆われた。

 

「――先輩!!」

 

 ゆかりの絶叫、眼を細めた扇が、闇の中に消え――

 

「――超力変身。」

 

 ――ない。

 

 1瞬の瞬きの後、そこにいたのは1体の超人だ。

 

 青い肌をした全裸の人型、人の原質とでもいうべきその姿が一瞬で瞬き――

 

「失せろ!」

 

 ――稲妻が閃く。

 

 全身から噴き出した閃光が、刃のごとく闇を切り裂く。

 

 現れた時と同じように、闇が即座に駆逐される。

 

 瞬きほどの間に、空間を満たす闇は、稲妻の果てに消え去り、あとに残ったのは――人の原質ただ1人。

 

「――先輩!無事ですか!?」

 

『ん、僕本人の感覚としては、御影に調べてもらわんと何と言えんが――ああ、まだ入ってくるなよ、噴き出した分は消したが、まだ残っているから。』

 

「あ、はい……えっと、何が……?」

 

 困ったように告げる御影に、扇の返答は一言。

 

『罠っぽいな。』

 

「わな……?」

 

『過去視とか、精神探知をされると相手を攻撃するように設定されていたらしい、精神を破壊して対象を殺害する術だったんじゃねぇかな。テレパシーで弾けたし。』

 

 運がよかった、相手が扇でなければ、今頃大惨事だったことだろう。

 

「ってことは、サイコメトリーは……」

 

『多少は見えた、これ以上やれっていうならやるが――あれより深く覗くとたぶんなりふり構わず辺りぶっ壊すぞ。これ。次は物理的に来る。』

 

「……やめときますか、山とかでやっても漏れますしねぇ。」

 

『やるなら、俺らだけで影響が漏れんようにするしかないな。準備がいる感じ。』

 

 そう言って、苦々しげに黒い液体を見つめる――まったく、厄介なものが世に出たものだ……

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