特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第65話:勇者の分類

 2010年。

 

 風の町で2色のハンカチが町の涙をぬぐって、星を守る天使が戦い始めたころ。

 

 この年に、勇者がこの世界に現れた――いや、帰還したと言った方が正しいか。

 

 彼らのせいで異世界に移動する作品に発禁がかかりかけて、10周年記念作品が消えかけたりもしたので、特撮ファンとしては非常に気にくわない年だったあれから、もう15年も経った。

 

 そこまでに様々なことが起きた、ヒーローは新たなメモリ使いから時計を扱い、さらには再びカードを扱う錬金術師になったし、巨大ヒーローも復活した。

 

 悲しいかな50年の歴史に幕を閉じるものまで現れる年となってしまったりもしている。

 

 そして――勇者は社会における哀れな拉致被害者から、人類の救世主であり、同時に、天敵とまで影ながら語られる存在になった。

 

 現在、新たに力を得た3人の男を除けば、勇者は『強さ』の代名詞だ。

 そして同時に――狂人の隠語にも、なった。

 いつ爆発するかわからない爆弾であり、同時に世界を救う兵器。

 

 ある種の核兵器に近い扱い。それが、今の勇者という連中だ。

 もっとも、それよりもずっと身近で、ずっと爆発しやすい代物ではあったが。

 

 そして、だからこそ、人はその兵器との『関係』を重視し始めた。

 

 外見の美しいものは媚を売り、国は資材をなげうって彼らを囲い込もうとした。

 

 そして――ある3人の男たちは、彼らに独自の分類を行った。

 

 パターンA、「召喚後に精神が変質してしまった」あるいは「元はまともだったが環境によって歪んだ」タイプなどを指している個体例。

 

 例えば、黒土灯。

 

 彼女は、基本的に母と姉――と呼んでいる従妹――であるゆかりのためにだけ戦う、価値を見出す人間だ、言ってしまえば家族愛の権化というのが、最もそれらしい感覚だろう。

 

 最初に出会ったときの灯の態度からもわかるが、彼女にとって、他人とは「敵」かあるいは「その辺の石ころ」に近い。

 

 が、同時に言えば、それだけだ。

 

 路傍の石に注意を向けてしまえば、その形や色合いに興味を惹かれ、あかり女史のように友人になる個体も出てくる、現在の天塚のように「特殊な石」として、多少の尊重を勝ち得ることもあるし、あかねのように大事にされる個体もあらわれる。

 

 言ってしまえば、これは『もともとあった特定の部分の増幅』と言って良い、いびつな形に暴走しつつあるとはいえ、これもまた彼女の一部なのだ。

 

 そして、パターンB「元来問題があった個体」。

 

 異世界召喚される前から人格や社会性に問題を抱えており、力を得たことでそれが増幅・暴走しているタイプ。話し合いが通じない個体とも、彼らは呼んでいる。

 

 初期型――即ち、2010年ごろに帰ってきた個体にはこういった個体が多い。

 

 かの有名な勇者狩りもここに分類される――比較的、話の通じる手合いだ。

 

 設楽天京はこの手合いだ。

 

 2015年――つまり、ちょうど10年ほど前からよく失踪が報告されるようになった勇者の分類であり、現在の「爆弾」型の勇者の典型と言ってもいい存在だ。

 

 自己顕示欲が強く、それでいて、自分の優位性が崩されることを極端に嫌う……ある種の万能感だけを爆発的に増幅された勇者。

 

 稀に存在する、『異世界から伴侶を連れ帰った』勇者や『異世界の物質で儲けを手に入れようとしている勇者』は大体このパターンである。

 

 現在、ネット上にまことしやかにささやかれ始めた『魅力のない人間ほど勇者になりやすい』の「勇者」とはこういった人間を指すことが多い――もっとも、本人たちは自分ではない誰かだと思っていることだろうが。

 

 さて、ここまで長々と語ってきたが、何が言いたかったのか?

 

 簡単な話だ――黒土御影は、一体どちらに当たるのか?

 

 彼女の言動を聞いて、異様に思った聡明なる皆さんはこう思うことだろう――Aだろう、と。

 

 自己顕示欲がなく、それでいて、家族にだけ、執着している。

 その様はまさにパターンAに見える。

 

 実際、周囲の人間もそう思っていることだろう、彼女は黒土灯――即ち、双子の姉と同じタイプの勇者だと、分類わけなどなくとも、そう見えるから。

 

 実際、扇達もそう思っていた。

 

 が――違う。

 

 ことここに至って、彼らは彼女の分類が上の2つに該当しない第3分類。

 

 パターンC――『妖霊の加護によって「特定の存在以外への関心がなくなる」』パターンだと、彼らはここに来て初めて知ったのだ。

 

 これは、非常に珍しいパターンである。

 

 パターンAに酷似しているが……実際には、さらにひどい。

 

 特定の存在への関心が増しているのではなく『特定の存在以外への関心が、喪失している』のだ。

 

 これは、灯とは微妙に異なる。

 

 灯はあかねを友人にできるが、御影はできないのだ。

 

 なぜか?簡単だ『彼女にとって、他人(灯以外)は路傍の石ではない、空気だから』だ。

 

 存在していることすら気が付かぬもの、生きているか死んでいるのかさえ、関心に値しないもの。

 

 それが、彼女から見た他人だ。

 

 現在、あかねが――あるいは、天塚達とかかわっていることすら、彼女にとっては『家族がかかわっているものだから』意識に上がっているに過ぎない。

 

 例えば『アイドルが吸った空気』などと言っている熱狂的なファンに近い、『家族が存在を認知しているものだから』彼女は周囲の生物に意義を、あるいは、存在を認知できる。

 

 自分と家族に危害がある存在であるからこそ、モンスターに恐怖し、彼らを倒す――それが、彼女の戦う理由。

 

 天塚達の力に関心を持ったのも、家族を守る力だから、扇が設楽に狙撃された時に守ったのも、ゆかりにとって価値がある存在だから。

 

 彼女にとって『他者の死は、単に空気を吸うのと変わらない』のだ。

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