特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第66話:監視と護衛

『……これ、放置するとまずくねぇ?』

 

 『まずいですねぇ。』

 

 『相当な。』

 

 扇のテレパシーによってつながった思考内会議は混迷を極めていた。

 

 端的に言って、思った数倍、御影の状態が悪い。

 

 てっきり、灯と同じように『家族愛は並外れているが、同時に、平凡な思考はある』タイプのパターンAだと思っていたのだが……よもやよもやだ。

 

 彼ら3人にとっても予想外のことだ、扇辺りが前もって少女の思考を読んでいれば変わったかもしれないが――正直、この世で最もプライベートで繊細な領域に土足で踏み入るほど、彼らの関係は深くはなかった。

 

『ばれると……まずいよな。』

 

『御影さんの精神構造的に、自分が『普通の妹』でなくなるのは相当にまずいですね、精神担当。』

 

『……あ、僕?いや、うん、まずいよ、かなりまずい。』

 

 正直、これ以上ないくらいだ。

 

 今、御影という人物を人間たらしめているのは、判定基準たるゆかり、彼女の母のような常人と、自分と同じ状態だと信じている灯による影響が大きい。

 

 具体的には、ゆかりや母の嫌う行動をとらず、かつ、姉の行動の模倣ができている、これが大きい。

 

 これで、突き放されでもすれば、その影響は想像するだに、胸に悪い。

 

 では、転じて、受け入れればいいのか――というとそうでもない。

 

 現在、彼女がかろうじて人間らしい存在になれているのは『今』が奇跡的にその条件を満たしているからに他ならない。

 

 もし受け入れて、彼女の思考を多少でも尊重してしまうと、その場で彼女の『一般人』の振りが破綻してしまう。

 

 そうなれば、御影の価値観はまた再びごちゃつき、次はこれほどうまく人に近い形で精神を保全できるかわからない。

 

 要するに、綱渡りなのだ、現在の御影は。

 

『だからってこのまま放置か?この分だとそのうち、人的被害も見過ごしかねんぞ。』

 

 まだ、大きな被害が出ている場所に仕事に行っていないから、問題になっていないが――もしも、民間人の避難が終わっていない場所でのモンスター被害が出た時、彼女はモンスターに襲われている人間を『誰にも何も言われない』としても、救うのか?

 

 そこが問題になってしまえば、もはや待っているのは御影の崩壊以外の何物でもない。

 

『こちらでどうにかするしかないでしょう、どの妖霊かは知りませんが、面倒な加護を……!』

 

『となると、出番は――』

 

『……え、俺!?』

 

『いやだって、僕はまだなんか出てきたときにここにいないとだめだし、後、ゆかりが放してくれんし。』

 

『疲れ果ててますからねぇ、ゆかりさん。あ、僕は機材が届いたらあの薬の解析するんで。』

 

 そうなると、動けて、勇者を殺さずに止められる実力者は彼しかいない。

 

『護衛兼監視、状況がまずくなったらなだめ役も可。』

 

『ガンバ。』

 

『無理言うなよ、敵殴ることしか能がないんだぞ。』

 

「『いけるいける』」

 

『他人事だと思いやがって……』

 

 

 

 

 

 放課後のファーストフード店というのは、戦場だ。

 

 喧騒、嬌声、油の匂い。

 

 テストの点数への不満や、他愛のない恋の話、あるいはアイドルへの熱狂が入り混じるカオスな空間。

 

 そんな、女子高生という種族の聖域に、異物が混じっていた。

 

「……目立ちますよ、七星さん。」

 

「そうか?20年ぶりぐらいに入ったから大変新鮮。」

 

「あ、やっぱり食事制限とかしてるんですか?」

 

「いや、扇の奴が飯食わないから、なんか、こう、入る気が起きなかっただろ?」

 

「ああ……9日絶食って本気でやってるんですか?水すら飲まないって。」

 

「うん、まあ、今でもやってるしね。」

 

 制服姿の黒土御影の対面、あろうことかLサイズのポテトとナゲットの箱を積み上げているのは、身長180台後半、どこにあんな超人性を隠しているのか全く分からない、ひょろりと長い男――七星一也だ。

 

 学校が終わった瞬間、校門で待ち構えていた彼に「送っていく」と言われ、なし崩し的にこうして寄り道に付き合わされているのだ。いや、まあ、ご飯がおいしいのは大変結構なことなのだが。

 

「わざわざすいません。」

 

「いいさ、言ったろ、護衛だ。ストーカーに狙われているか弱い女子高生を、放っておくほど俺は薄情じゃないんでね。」

 

「か弱くはないですけど。」

 

 苦笑交じりの言葉、ここだけ見れば、清楚な女学生だ、外見の美しさも相まって大変絵になる――傍らにいるのが、七星でなければ、もっと絵になるのだが。

 

「……やっぱり、殺すのって駄目なんですね?」

 

 小声で、まるで内緒話のように告げる――こういったところに気は回るのだ、ただ、自分がどのようにみられているかには頓着しない。

 

「そらね、取り返しがつかなくなるし。」

 

「でも、後腐れはないですよ。」

 

「まあね、死霊術を使う勇者がいるなんて話も聞いてないし。」

 

 否定はしない、確かに、殺してしまえば後腐れはない。

 

 ないが――

 

「それが許されたら、ゆかりや君のお母さんに不埒なことをしてもいいことになる。」

 

「……なんでですか?それとこれとは話が……」

 

「違わんよ、だって『自分の利益になるから、取り返しのつかないことをしてもいい』ってことだろうに。」

 

 それならば、気持ちよくなるために他人に不埒なことをする人間もまた、許されねばならない。

 

「……むぅ。」

 

「法律が常に正しいとは言わんが、できた理由ってもんは確かにあるんだよ。」

 

 苦笑する――さて、どうやって、この5歳児並みの倫理観を持つ大人の知性を持つ核爆弾を『黒土御影』に戻したものだろうか。

 

 そう考えて顔をしかめる七星を、ファーストフード店の片隅で、刺すような視線で見つめる彼の存在が、役に立つかもしれない――そんなことを考えていたことを、彼は後々後悔することになる。

 

 何だって、入念な準備というものが必要なのだ。

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