特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第71話:背骨

 それは、文字通りの『消化試合《ルーチンワーク》』だった。

 

 御影の目の前で繰り広げられているのは、戦いと呼ぶことすらおこがましい、一方的な制圧だ。

 

 突進してきた怪人を七星が最小限の動きでいなし、天塚の光が刃となってその凶器を縛り、扇の風が毒液や破片を完全にシャットアウトする。

 

 精密機械のように無駄がない。自分や姉が魔物相手に振るう、力任せの暴力とは明らかに違っていた。

 

「ミ、カゲ……さァァんッ……!」

 

 地面に叩き伏せられながらも、怪人はハサミを振りかざし、御影に向かって叫び続けている。

 

 あんなに醜い姿になっても、自分を呼んでいる。いや、自分が「空気」のように無視したせいで、彼はあんな怪物になってしまったのだ。

 

 だというのに、御影はそれを悲しめない。

 

 悲しいと思うべきだと思っているのに、昔の自分なら、悲しいと思えるはずなのに。

 

 今の彼女には、それができない。

 

 自分の影響、自分が救った相手、自分を追ってきた相手。

 

 それが、人を殺しかけているのに、彼女は何も思えない。

 

 それが、おかしなことだという自覚すら――近頃は薄い。

 

 今だって、ああ、そういえばそれが普通じゃないんだなと、七星が叫んで気が付いたのだ。

 

 他人の死に、無感動になっている。

 

 それが、なぜだかひどく、目の前の生き物とダブって見えて、それが、ひどく――怖かった。

 

 

 

 

 

「ばぁぁぁぁぁぁ!」

 

 とうとう、人の心をなくしたかのように、怪人が奇声を上げる。

 

 振り下ろされるその肥大した腕の1撃は、なるほど、万物を断ち切るほどの力が込められている。

 

『ただの1学生がこれか……?』

 

 内心で、天塚は舌を巻く――自分達、ひいては七星が圧倒していることから勘違いされるかもしれないが、正直に言って驚愕せしめる力だ。

 

 かれこれ10年、彼らはヒーローとして戦ってきた。

 

 以前戦った岩の巨人はいわんや、様々な敵と戦ってきた。

 

 鬼、獣、粘体、小鬼――様々な存在がいた。

 

 竜とだって戦ったことがあるのだ、自分達の実力はちょっとしたものだと思っている。

 

 そんな自分達と、この少年は渡り合っている。

 

 傍から見れば、確かに、自分達が圧倒しているように見えるだろう、それは事実だ。

 

 そして、圧倒しているかいないかで言えば、しているとも思う。

 

 だが、同時に『圧倒している』程度で止まっているのだ。

 

 懸念事項から本気が出せず、殺すこともできないがゆえに、破壊力の高い攻撃――穿孔キックのような――も行っていないが……それにつけても、この防御能力と攻撃力は脅威だ。

 

 断言してもいい、大抵のヒーローよりは強い。

 

 そんな力を、適性も何もなく、その辺の学生が突然発揮する。

 

『悪魔の小箱じゃないんだから……』

 

 勘弁してほしいものだ。

 

 とはいえ、ここから先は単なる処理だ、実際、今も七星1人で制圧できている。

 

『問題は――』

 

『――この先か。』

 

 そうなる。

 

 脳裏に宿る扇の言葉に、胸中で賛同する。

 

『あの薬が原因だとすれば、あれは大した薬ですよ、が、あれだけで人間の体をああも可逆的に変態させられるとは思えない。』

 

 そもそも、戻る方法がない。

 

 薬によって細胞が作り替わったとして、それで一体どうやって薬で戻すのだ?別の薬で再度細胞の変異を誘発するのか?

 

 だが、設楽の家から押収したあの薬は、あの種類しかなかった。

 

 となると……あの薬に人間に戻る力があるか、さもなければ「戻るための作動機序がどこかにある」のだ、機械的か、魔術的かまではわからないが――

 

『どうです?』

 

『……透視で見た感じ、肉体がごりっと作り替わっているのは間違いない――ゆかり、これ、左側が人間の形でいいんだよな。』

 

『はい、先輩の装備に投影しているのが、通常の人間の臓器です。』

 

『……脾臓が消えていて、肺が倍ぐらいになっていて……ああ、でも、1個明らかにおかしいのがある。』

 

『いえ、何もかもおかしいですけどね、何です?』

 

『背骨だ、形も数も変わっていない――ああ、いや、何かの金属が上から下まで通っているな。』

 

『背骨……』

 

『『脊柱?』』

 

『……なるほど?体に取り込んだ薬の効果切れと同時に、脊柱から別の物質を分泌して肉体を元に戻しているわけですか。』

 

『かなり強引な手段ですけどね。』

 

 顔をしかめる――1歩間違えば、体がマヒする危険性のある措置だ。

 

 が、できないわけではない。

 

 そして、もしもその装置が、この薬の元締めの制御下にあるとしたら―――まずい、かもしれない。

 

『倒さない方が良いか?』

 

『いや、この調子じゃ倒さないって選択肢はねぇよ、この分じゃ脳までおかしくなるぞこいつ。』

 

 七星が告げる――実際、直に触れ合っている彼でなくとも、そうだろうと思える様相を、カニの怪人は呈している。

 

 口からはブクブクと泡を吹き、意味のある言葉を発することができなくなってきている、数少ない意味の通る言葉は『みかげ』の3文字だけだ。

 

 このままでは脳に重篤な影響が出かねない、早く倒して、解放する必要がある。

 

 となれば――

 

『……御影さんは?』

 

『葛藤中、今はそっとしとけ。』

 

 にべもない拒否。

 

 が、扇がそういうのなら、その方が良いのだろう、心に関しては、この場の誰よりも詳しい男だ。

 

 となると――対応策は1つだ。

 

『――いいですか、作戦を伝えます、まず一也君は……』

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