特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第72話:変身

「GIYGIYGIU」

 

 とうとう、人間の発していい言葉ではない音を発するカニの怪人に、七星はためらわずに襲い掛かる。

 

 腰と腕が少しバラついた突き、巨大な鋏を突き出す1撃。

 

 決して、素晴らしい突きとは言えないその1撃すら、この怪人が放つと脅威だった。

 

 電柱に当てぬようにと体を躱した直後、ギャリィ!という、硬質の物質が石を削る音――コンクリの塀が削れた音だ。

 

 たいした火力だ、鋏の本来の用途ではない使い方でありながら、たやすく、コンクリートを削る。

 

 今頃、背後の塀は鋏の穂先の形に穴が開いていることだろう、こんなもの一般人の前に出すわけにはいかない。

 

 腕の内側に侵入し、くるりと回転しながら、肘を放つ。

 

 1回転の果てに放たれた肘の1撃が、甲殻を強くたたく――固い。

 

 カニというだけはある、高硬度だ、やはり、並のヒーローでは対処できない。

 

 だんだんとシャープになってくる狙いは、徐々に徐々に鋭さを増していく――妙な話だ、戦いの中で成長しているなどと簡単に言う人間もいるが、彼はそういうタイプには思えない。

 

『脊柱の装置だか金属やらが動きを強化してる……?』

 

 その線が濃そうだ。

 

 サイバーパンク物などでよく見る、神経強化インプラントに近いのかもしれない。だが、そうだとすると、かなり面倒なことになるのは目に見えている。

 

 ゆえに、体を動かす。

 

 震脚の要領で足を強く踏みつける。

 

 貫くように叩き付けた足が、怪人の脚を地面に縫い留める。

 

 体を下げようとしていたのだろう、体重が後ろに流れた瞬間の停止に、1瞬、怪人の動きが止まる。

 

 その隙を、インパルス・バングルは逃がさない。

 

 体を開き、上半身を前傾、そのままの流れで、両の手を伸ばす――山突き。

 

 みぞおちと人中を同時に狙うその1撃は、常人ならば絶死の1撃だ――ゆえに、怪人はそれに反応してしまう。

 

 人中を狙う1撃に、反応して、口から泡が噴き出す――手を溶かすための1撃。

 

 それを、七星はするりと躱して見せた。

 

「――天塚!」

 

 叫び、前傾させた上体をさらに傾けて、体をほとんど水平に折り曲げる。

 

 背後から、光の友が放った光の壁が広がる――油膜のようにゆがんだ光の壁は、周囲の監視カメラの視界を焼き付かせ、泡の1撃をどこにもいかぬように封じ込める。

 

 閉じられた本のようにぴたりとつけられた腕が泡の強酸を躱した直後、彼の体はさらに回転する――天地が、逆転した。

 

 脚が上に、腕が下に。

 

 逆転した体はそのまま、回転を続けて――怪人の頭部に、回転する蹴りを叩き込む。

 

 浴びせ蹴り――の、変則版。

 

 頭部に体重の掛けられた足をたたきつけられた怪人はたたらを踏む――さて、先ほど天塚に頼まれた状況にはできたと思うが。

 

「――そろそろ、本気出してもいいかな?」

 

 

 

 

『――いいですか、1発、わざと遠方に攻撃を逸らしてください。』

 

『あ?なん……ああ、壁か。』

 

『ええ、外に被害を漏らさないために、壁を張った――という体が必要です、カメラの目は壁を作るときの発光で焼き付かせつぶすんで。』

 

『あいよー』

 

 そんな軽い会話の結果がもたらした変化は明白だ。

 

 油膜のように揺らぐ光の壁に阻まれて、障壁の内側にいるのは5人。

 

 怪人、七星、天塚、扇――そして、御影。

 

 彼女達だけのこの閉じた空間内、このある種限定された1瞬でだけ、使える選択肢がある。

 

 扇が、万歳をするように両腕を伸ばし、その後、両腕を大きく外回りに動かして胸の前で交差させる。

 

 天塚が、ベルトに設えられた筒状の装備から「棒状の装置」を取り出し、スイッチを押して展開する。

 

 七星が、腕を大きく開き、そのまま大きく回して、臍下丹田の前で両手を互い違いに合わせる。

 

「――超力」

 

「――次元」

 

「――円輪」

 

 声は3通り、しかしたどり着く先は1つ。

 

「「「変身」」」

 

 ――光があふれる。

 

 現れるのは三者三様の異形。

 

 電離層を透かして見た夜空のような「深い青」。平滑でありながら、金属的光沢を帯びる冷ややかな肌。

 

 鱗や甲殻ではなく、「筋膜が結晶化したような」光沢のある生体装甲。

 

 皮膚は傷や凹凸のない「半透明」。身体の輪郭が完全に固定されておらず、少し揺らいで見える。

 

 3人の、超人。勇者すら打ち滅ぼす、この世界だけの超常だった。

 

 その姿を見て、怪人は――

 

「VUROOOOOO」

 

 ――止まらない。

 

 もはや、危険性を認知すらできないのだろう、駆け抜ける怪人に立ち向かうのは1人の男――七星だった。

 

 滑るように躍り出た筋結晶の超人は、斜め上方から振り下ろされる1撃に腕を合わせる。

 

 必要なのは拘束、振り下ろされる1撃を腕で止め、そのまま肘関節を順方向に向ける。

 

 そのまま、背後に回って、左手で鋏をつかみ、右腕を首に回し、膝裏に1撃。

 

 カクリ、と膝が折れ、体が勝手に跪いた。

 

「――抑えた。」

 

「はっやい。」

 

「筋肉お化けが筋肉お化けになっちゃ、ったぁ!」

 

「変わってなくね?」

 

 軽口が漏れる――超人体なら、こんなものだ。

 

 鋏は致命にならず、筋力でも圧倒できる。

 

 問題は――ここからだ。

 

「……まずいな。」

 

 ぽつり、と、扇がこぼす。

 

「何が。」

 

「この姿になってわかった、()()()()()()()()()()じゃない、()()()()()()()()()()んだ。」

 

 それは、異常のサインだ。

 

「てっきり、背骨を金属で巻いているんだと思ってたが――細胞レベルで金属しかない。」

 

「遠視パワーすげえな。」

 

「超能力者を舐めるな――骨が変異しているとなると、困りもんだぞこれ。」

 

「ですねぇ、セルチェンジで結合している部分だけ剥がそうと思ってましたけど……この分だとはがすと背骨無くなりますね。」

 

「戻せねぇの?」

 

「こっちゃ稀代の大天才ですよ、あまりなめるな。この程度ならどうとでもします――というか、こっちのほうが楽まであります。」

 

「あーセルチェンジ、もともと変異した体戻す技だもんなぁ。」

 

「ええ、問題は『機密保持』されるかですがまあ、そっちもどうにかしましょう――心は任せますよ雄介。」

 

「ん、じゃあ、いっせーのせで行くぞー」

 

 軽い一言が漏れて――措置が、始まった。

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