特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第74話:後始末

「終わりましたよ。」

 

 耳に届いた一言に、ハタと気が付いたように御影が顔を上げる――ぼんやりと考えていた思考が、霧散する、心の澱を残して。

 

 顔を上げる――視線の先にあるのは、倒れ伏したクラスメイトと困ったようにそれを見つめる2人の超人、そしてこちらを気遣わしげに見る半透明の男だった。

 

「大丈夫ですか?怖かったでしょう。」

 

 そう言ってくる輪郭の不確実な実体に、しかし、御影は慌てたように手を振った。

 

「あ、いえ、その、大丈夫です。」

 

 そう言って、あいまいに笑う少女の顔に差した陰りを、天塚は見逃さない。天才故にか、彼はそれを見逃せない。

 

 だが。

 

「――そうですか、ならよかった。僕らはまだ少しこの膜の内側にいます。少し待っててください。」

 

「あ、はい。」

 

 離れる半実体の男の背を見つめて、御影は自分の中に生まれた何かに、名前を付けられずにいた。

 

 

 

 

 

「なんて言い訳すっかなぁ……?」

 

 戻ってきた天塚に一瞥を送った扇が告げる。

 

 話題は、目の前にいる完全に意識を失った少年の処遇についてだ。

 

「下手に薬と言い出すとこいつの将来に関わるんじゃよね。」

 

「って言っても、薬の話は公表するしかありませんよ?何もばらさずに広まりでもしたら、すべて同時に制圧するとなると……」

 

「本気出すしかないわな、加減してる余裕はない。」

 

 殺しはしない、その程度の力が、彼らにはある――が、同時に、周囲への被害や怪我の有無まではどうにもならない。同時多発的に行動されては、手が足りなくなる可能性もある。

 

「……ショッカー路線で、うまいこと、こう……」

 

「人体改造されました的な?まあ、背骨が金属化してるくらいだしなぁ……」

 

「ただ、体、元に戻しちゃったんですよねぇ、体を分解されている以上、こればっかりは放置もできませんし……」

 

「――それに、あまりに綺麗に治しすぎましたからね。」

 

 天塚が足元で静かな寝息を立てている少年の体を一瞥する。

 

「お前の回復光線が有能すぎた結果だろ。」

 

「失礼な。あの金属骨格、放置していればあと数分で神経系と癒着して自壊していましたよ。完璧な細胞の復元を行った私の腕を褒めていただきたい。」

 

「で、結果としてこいつの体には、改造された証拠も薬物の痕跡も、ホコリ1つ残っちゃいないと。」

 

 七星の言う通りだった。

 

 周囲には巨大なハサミに削られたブロック塀や、強酸の泡でドロドロに溶けたアスファルトといった物理的な破壊痕が凄惨なありさまを見せている。

 

 しかし、肝心の犯人である少年のシャツの下は、打撲の痣1つない健康体だ。この状態で警察に「彼が薬を飲んで怪人になりました。我々の未知の力で金属になった骨まで全部消し去って治しました」と真実を説明したところで、信じてもらえるはずがない。

 

 現代日本の科学捜査において、証拠なき証言など寝言と同義だ。

 

「よし、『新種の憑依型魔物に乗っ取られていた』で通すか。」

 

 扇の口から飛び出したのは、あまりにも堂々とした捏造案だった。

 

「それなぁ、考えたんだけど……」

 

「黒幕がいるのに、それやると……ほら、向こうが真実ばらして、僕らの信頼度を――とかやってきません?」

 

「あー……グリーンゴブリンとかがよくやる奴……」

 

 ありそうな話だ――ここまで人間社会に侵入している敵だとすれば、そういったことをすることは十分にあり得るように、扇にも思えた。

 

「だからって黙ってられんだろ。」

 

「それは、」「まあそう。」

 

 さてどうしたものか……?

 

 首をひねる――薬に手を出した男、というレッテルを剥がして、なおかつ薬の危険性を公表する方法……

 

「……会社の評判に傷つきそうなのが1個あるんだよなぁ。」

 

「む、聞きましょう。」

 

「……治験したことにしねぇ?」

 

「……あー……まあ、被害出てませんしねぇ……」

 

「ごめんなさい、脳みそまで筋肉でできたパーフェクト筋肉人間にもわかるようにご教授ください。」

 

 呆れたような七星の問いに、扇が困ったように顔をしかめて告げる。

 

「要はあれよ、あの薬、あれを勇者の監督下で彼に同意を取って飲ませた――ことにする。」

 

「……えぇ……?」

 

「いや、まあ、そういう反応にはなるとは思うんだけども、泥かぶる範囲が僕らで済むのもそれなんだよ。」

 

 つまり――今回のこの事件の責任を、会社と自分達で被りつつ、そのうえで、薬の危険性を訴えるわけだ。

 

「まあ、かなり危ない橋だが、わかってた効能と影響を鑑みたうえで、勇者に監督させていたけど、遅発性の影響によって変異をきたし、それに自分達が対処したって枕詞が付くと、一般人もそうそう手は出せなくなる……とは、思う。」

 

「……でも、それ、お前、かなり会社に迷惑掛からん?」

 

「……かかるんだよなぁ……俺らの独断ってことにするかぁ?」

 

「管理責任とかの話になりません?法務と話してからにしますか。」

 

「えー早く情報撒かんと、あとで困らねー?被害者増えるぜ。」

 

「ぶっちゃけ、言い方悪いですけど、たぶん、警告して手を出さない人は警告する前から手を出さなくないですか?」

 

「あー……まあ……?」

 

「怪人の倒し方と対処法だけ国とヒーロー達に放り投げて、一般発表は後回しの方向で。」

 

「そうするかぁ。」

 

 とはいえ、これ以外、方策はない。

 

 この薬の脅威は、もはや差し迫った危機だ。

 

 何せ、『勇者の学校の同級生』という1点を除き、一切特異性のない少年にまで、この薬は出回っている。

 

 となれば――財力のある大人に、どれほどの数で回っているのかなど、まったく想像もつかない。

 

 非変身状態での未来予知が安定しない以上、可能な限りの自衛は必須だ。

 

 情報を漏らせば『手に入れたがる人間が出る』のはわかるが――ここまで浸透してはもはや手に入れたがるかどうかなど関係がない。

 

 何せ、この薬をばらまいている人間は『すでに相当数の人間のもとに、いかなる手段か接触を取っている』のだ、買い求めずとも押し売りに来る業者がいては隠して意味はない。

 

「薬って形態からして、オーバードーズの危険性もあります、こればかりは公表するしかありません。」

 

「事件自体は隠せない――となると。うちの会社がどうするかだな。」

 

「できたら、こっちで泥被りたいけどなぁ……最悪また首か?」

 

「ま、そん時はそん時で。アントライオンよろしく、トランサーと旧型のコピュラ返してもらって、野良でヒーローでもしましょう。」

 

「そうするかぁ…………あっちこっちで占い師しながらヒーローやると忍者戦隊みたい。」

 

「あー……」

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