特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第76話:二日後

 ――事件が起きたのはそれからわずかに2日後のことだった。

 

 車が絶えず行き交う大通り。止まらないエンジン音、お互いにすれ違い進んでいく人々。ごくごく平凡な日常がそこにあった。

 

 だが平和とは簡単に崩れるもの。遠くから聞こえるクラクション音、法定速度を無視した車が走り追突する。

 

 交通事故かと思えば違う。道路を爆走する怪物がいたのだ。

 

 体格はバスより一回り大きいくらい。木製の巨大なトカゲが道行く車を蹴散らしながら走っていたのだ。

 

 逃げる人々、遠巻きに眺めながら写真を撮る者。道路のど真ん中を走り回る魔物に皆注目していた。

 

 それは――馬車だった。

 

 そう、中世の世に走るあの馬車だ。

 

 ただし、それを牽いているのは馬ではない。

 

 節くれだった太い丸太と、錆びた鋼の鋲で組み上げられた、全長10メートルにも及ぶ巨大な『鉄製の牛』だ。

 

 それが四肢を無骨なピストン運動のように回転させ、アスファルトを削り、火花を散らしながら猛スピードで疾走している。

 

 魔力駆動のゴーレム、あるいは異界の車駕(しゃが)か。

 

 御者すらなく走る異形の車――異界の者たちは、それをチャリオット・ゴーレムと呼ぶらしい。

 

 木々をなぎ倒し、悪路を物ともせぬそれは、魔人魔王たちの乗り物であると同時に、戦場の兵器だ。

 

 人など乗せぬはずのその背に飛び乗っているのは――緑の超人。

 

『――交差点右折、そろそろ避難範囲入る?』

 

『入りまーす、あと300mで待機。』

 

 ゆかりの返答に苦笑する――カーナビを聞きながら思うのだが、世の人間はなぜ、何百メートル先というあやふやな指示で、道を間違わずに走れるのだろう。

 

 首をひねりつつ、彼は、馬車の誘導を続ける。

 

『にしても先輩、よくチャリオット・ゴーレムなんて乗りこなせますね。暴れ馬どころじゃないでしょうに』

 

『乗りこなしてはないんだけども、単にあれさ、耳元で嫌いな音出して、そっちに進まないようにしているだけ。』

 

 ゆえに、風圧帯抜きでは体勢の維持すらできない。

 

『あと50――見えます?』

 

『見え、ました!』

 

 言いながら、タイミングを計る――さて、うまくいくといいが。

 

 耳元で鳴らす音を増やし、走るルートを直進させる。

 

 この手の化け物は、基本的に知性がそれほど高くない、ゆえに、本能的に嫌うもののそばには近寄らない。

 

 それを利用しての進路決定、および、その軌跡の先にいるのは――2人の友人。

 

『3.2.1――今!』

 

 飛ぶ。

 

 空中に飛び上がった扇の眼下で、極薄の光の筋に馬車が切断されたのは一拍後のことだった。

 

 

 

 

「――はい、制圧完了です、ええ、はい。被害は――アスファルトが蹄型に陥没して……ええ、補修工事で済むかと。」

 

 報告を上げる天塚を見つつ、扇と七星は変身を解かずにガードパイプに腰掛ける。

 

「ここ2日、強いの多くねぇ?発生頻度的に考えて。」

 

「多いねぇここ5年だと最多じゃないかね。」

 

『そうなりますね、最後にチャリオットが見つかったのは5年前ですし。これほど高頻度でゴブリンやオーク以外が出てくるのも稀です。』

 

 口からこぼれたのは愚痴――というよりは純粋な驚嘆の言葉だ。

 

 正直、あまり類を見ない強さの魔物が、ここ数日湧き出している。

 

 今回のチャリオット・ゴーレムもそうだ。

 

 先ほども言ったが、これらは魔人、ないしは魔王の乗り物。基本的に、こちらの次元には来ない類の生物だ。

 

 それが、ここ2日で3体、出現している。

 

 少ない――と思うかもしれないが、『5年で1体見るか見ないか』のレベルの個体が、ここ2日で3体だ、正直、あり得ない。

 

「勇者が動けねぇタイミングってのが気になるよな。」

 

『狙っているってことですか?』

 

 疑念を発するように、通信装置が声を発する。

 

「ありそうじゃね?黒幕の暗躍的に考えて。」

 

「……ないって言えないのが怖いよなぁ。」

 

 しかし、そうなると、敵の力はかなりのものだ、少なくとも――

 

「「異世界から魔物を呼び出せる」」

 

 そうでなければ、強い魔物が3体も出てきた理由がわからない。

 

「……怪人の方は?」

 

『今のところ、出現したという話は出ていません、あの発表以降、七星先輩が倒したあの個体も鳴りを潜めていますし。』

 

「……勇者と戦えるかね、あれ。」

 

『変身した奴次第だとは思いますけどね。』

 

「ただ……お前の攻撃は効いている。ってなると……」

 

「勇者の攻撃には耐えられない。」

 

『……一応、うちの御影は拘束系の魔法が使えますし、灯は最近加減ができるようになっていますから、どうにでもなるとは思いますけどね。』

 

「その2人以外の勇者よ。」

 

 危険だ、過剰すぎる。

 

 言ってしまえば、熊の退治に核兵器を落とすに等しい。

 

 民間人に剣や槍を装備させたとて熊には勝てないが――核など全く必要ないのだ。

 

『……ただ、普通のヒーローだと……』

 

「強すぎる……面倒な力加減にしてくれる。」

 

 ただ単独で倒すだけでも、最低4人は必要だろう、取り押さえるだけとなるともっと必要になる。

 

 それゆえ、現在、勇者は動けない――怪人に対して、力を使う可能性があると判断されたためである。

 

 御影、灯両名が、ここにいないのもそのせいだった。

 

「……目立ちたいだけの勇者が、怪人に攻撃しないと良いんだが……」

 

 七星の一言が、現実になったのは、それから4時間後、日の暮れた夕暮れのことだった。

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