特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第79話:誰も知らないもう開戦

「――ああ、失敗ですね。もう少し耐えられるかと思っていたのですが。」

 

 そんな、2人の魔法少女を、天頂近くで見つめた影が一言つぶやく。

 

「やはり、一朝一夕に加護を与えたりはできませんね……影響を少なくすると、力も落ちますし……やはり、ここの連中を使う計画は微妙なラインでしょうか……?」

 

 困ったようにつぶやくその声に、しかし、困惑の声音はない、むしろ喜んでいるように聞こえた。

 

「……?何かおかしい……?ああ、こっちの声音ではありませんでしたね……困ったものです、人間の発声器官は難しい……」

 

 ぶつぶつと、まるで何かに訴えかけられたように告げる彼女の声音は次々と移り変わっていく。

 

 喜怒哀楽、強弱、好悪、そういったものが、一言の間にころころと、目まぐるしく変わっていく。

 

「これでいいでしょうか……お客様は皆さん、私のことを信じてくださいますからね、私も実直に対応させていただきませんと……」

 

 そう言って、ほほ笑む――その顔は、まるで人形か、世に名を残す巨匠の作った石像か何かのように美しく……しかし、生物感というものが欠落していた。

 

「さて、まだあの薬について深く知られては困ってしまいます、お客様には申し訳ありませんが――」

 

「――署までご同行願うだろ。薬物等規制法的に考えて。」

 

 声が、した。

 

「――――!」

 

 声など聞こえるはずのない超高空、成層圏にほど近いこの場所で、確かに、影の耳元で声がした。

 

 聞き覚えのある声、明らかに背後、体を回転させ、振り返――

 

 ズゴム!と、鈍いものを貫くような音がした。

 

 瞬間、影の体が弾かれる――強打だ、腹部に叩き込まれた。

 

 ()()()()()腹部の残骸を見つめながらその影は生まれて初めての衝撃に、今度は演技などみじんもなく顔をしかめた。

 

 持ちえる力を使い、体を空中で制動する。

 

 大気という形のないものに爪を立て、足を強く押し付けて、体を押しとどめる。

 

 それでも、止まったのは、魔法少女達から遠く離れたビルの上だった。

 

 この時間では人っ子1人いない廃墟、取り壊しに掛かる費用を誰もが払いたくないがために放置された時代の遺児、取り壊される予定すらなき、死んだ遺骸だ。

 

 ここに、自分が運ばれた理由は明白だった。

 

「――どこまでも、人目に触れたくないのですね?」

 

「――他人様に見られる体してない自覚はあるんでね……いずれ、グッズ展開とかしてもらえると、個人的にはうれしいんだが。」

 

「変身ベルトとか作れない構造にしてしまったことだけが悔やまれるところですわ。」

 

「その点僕はましな方ですよ、変身装置あるんで。」

 

「「死ねばいいのに……」」

 

 ふざけたように3つの声――影はその声に覚えがあった。

 

 自分達の力を使わずに、自分達の加護を超える力を持った変異種ども、この世界における異常値。

 

「――初めまして、「正義の味方」の皆さん。お目にかかれて光栄です。」

 

 しずしずと頭を下げる。

 

 彼女にとって、これは自分にほど近い化け物とのファーストコンタクトだった。

 

「これはどうもご丁寧に……正義の味方のリーダーになぜか選ばれている扇雄介です――あんたが、薬をばらまいている張本人ってことで、よさそうだな。」

 

 貫くような視線が、影の――美しい女を貫く。

 

 彼女の身を包むのは、鮮血を思わせるほどに深い真紅のタイトスーツだった。

 

 女性特有の豊かな曲線をこれでもかと強調するその衣服は、かつて下劣な勇者が一目で「大当たり」と舌なめずりしたのも頷けるほど、圧倒的な色香を放っている。

 

 だが、その肉感的なスタイルとは裏腹に、彼女から「生気」を感じ取ることはできない。

 

 まるで最高級のビスクドールのように、毛穴1つない透き通った陶器のような白い肌。艶やかな黒髪は一糸乱れず背中に流れ、精巧に造形された石像のような顔立ちには、人間らしい感情の揺らぎが一切なかった。

 

 赤い唇の隙間からこぼれる微笑みすら、あらかじめプログラムされた機械の動作のように無機質だ。

 

「ええ、お客様の願いをかなえるため、素敵なチャンスを与える商品をお売りしております。どうです、お一つ。」

 

「いらん、僕らは自力でどうにかした。」

 

「ええ、ええ、存じておりますよ、『最初の超人』様、皆さんのお力は大変すばらしいものです。」

 

 実際、彼女は内心で舌を巻いていた――まさか、『垂直に地面を蹴って跳びあがっただけ』で、成層圏までたどり着く生き物がいるなどと、彼女も思っていなかったからだ。

 

 七星一也、まさかあれほどの力を持っているとは。

 

 今だって、どうしたわけか、彼は空中に『立って』いる――自分の腹部を砕いた時も、こうして足を踏ん張ったのだろう。

 

 先だって調べた限りでは、このような力があるとは思えなかったが……

 

「―――ああ、なるほど、あの時3人がかりで彼を制圧したのも、私を油断させるためでしたか。」

 

「まさか、あれは単純に、どんな罠があるかわからなかったから総出で始末付けただけさ――思ったよりしょぼかったのは認めるが。」

 

 そう言っておそらくは笑っているのだろう声音で告げる七星に、彼女は返す。

 

「そうですか、弊社の商品も、まだまだ発展途上ということですね……精進いたします。」

 

 そう言ってくすくすと笑う女はしかし顔が全くと言っていいほど動いていない、声だけが、笑って聞こえる――それだけでもありありとわかるだろう、この生き物が、およそ尋常の生き物ではないことが。

 

「それで、本日は何のご用でしょう?もしも用がないのでしたら、業務を――」

 

「――全うして、あの触手の怪物を殺すか?それは許さん。」

 

 傲然と言い放つ一言は、女にとっては非常に煩わしいものだ。

 

「……それは、困りますね。」

 

 ちらり、と、周囲に視線を送る。

 

 前に七星、後ろに扇と天塚……囲まれている。

 

 これまでに見せてきた力だけを見ても、この連中に囲まれて、逃げ切るのは難しい――おまけに、不確定な力があるとなると、さらに難しいだろう。

 

「こんなひどいことをされては泣いてしまいます、ここはどうか1つ、私に仕事を果たさせてください……」

 

「笑顔で言われても説得力がないな。」

 

「……あら、この表情じゃありませんでしたか……?」

 

 困ったように、笑顔の女が言葉を失う――まったく、人間の体というのは難しい。

 

「――まあ、いいでしょう。とはいえどいていただけないとなると――私も、少々手荒になってしまいますよ?」

 

 言いざま、突如として、女の腕が『伸びた』。

 

 魔法少女の栄華の裏で、誰も知らない正義の味方の戦いが始まった。

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