特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第8話:家族の城

「――いいですか灯!いらないかどうかを決めるのはあなたではないと言っているでしょう!」

 

「うぅ、だ、だって、うちと御影がおったらあの人いらん……」

 

「人様に何を言っているんです!大体、あの人は戦闘能力や知性を買われて入社したわけではありません!あなたたちに必要なことを教える教育係です!」

 

 叱り飛ばす声が響く。

 

 現行、最も加護の力を引き出せるヒーローであろうウィンドヴェーラーの敗北の直後、飛び込んできたゆかりが始めたお叱りの時間は、まだしばらくかかりそうだ。

 

「……珍しいタイプの『ずれ方』だな。」

 

「家族愛ですかね。」

 

「ん、ぽいな。たぶん親元から離された時の恐怖に付け込まれたんだろ。」

 

 苦笑まじりに二人の姿を見つめていた扇に、いつの間にか接近していた友人たちが声をかける――そこに、敗戦を引きずった様子はない。

 

「研究員の暗示、解けた?」

 

「解けましたよ――あんまり強い誘惑の加護じゃなさそうですね」

 

「まー、本業戦闘系っぽいしなぁ。」

 

 ――人が助かったのだ。別に、徒競走で負けていようと問題はない。

 

 天塚が加護を受ける光圧の精霊は幻光の妖霊、『あまねくを照らす光球の生霊』の断片であり、光とそれが持つ圧力を統べる。

 

 その力をもってすれば、自らの姿を光学的に隠すことなど容易だ。

 

 誘惑の力が走った段階で、彼らはすでに動いていた。

 

 1対1かつ、真っ向からヒーローが勇者と戦って勝つのはほぼ不可能です。よほどの奇蹟が起こらねばかなわない。

 

 それでも彼女の決闘を受けたのには、相応の理由というものがある。

 

 あそこで下手に要求を拒否すれば、勇者は彼ら、彼女ら特有の『癇癪』を起こしかねなかった。

 

 もしそうなれば事態は手が付けられなくなる。誘惑の力で自分を崇拝するシンパになった研究員に何をさせるか、想像できないほどだ。

 

 それは避けたかった――研究員のこれから先の人生のためにも、黒土灯という少女のためにも。

 

 ゆえに、癇癪を起こしても問題がないように、ヒーローたちは活動を始めた。

 

 あえて決闘を受けて意識を扇に集中させて、そのうえで、天塚が研究員を正気に戻して退避させる。

 

 勇者という連中はタガが外れていて――かつ、基本的に視野が狭い。

 

 特に、あの灯という少女にはその傾向が強く出ていた――普通、あれほど止められて行動を強行はしない。

 

 ゆえに、最大風力で飛び出せば、それを上から叩き潰すことに全神経を集中させ、周囲への感知が鈍るとは思っていた。

 

 特に、彼女たちは『未達者』――即ち『実戦経験のない』勇者だ。その傾向は強い。

 

 そう考えての救出作戦はうまくいったらしい。

 

「にしても……よその勇者よりはましだが、あの子も勇者なんだなぁ。」

 

「みたいね。妖霊の被害者をとやかく言うつもりもないけど――『大いなる力には大いなる責任が』――は誰のセリフだったか。」

 

「ピーター……で、どうします?」

 

「あれ、さらに元ネタなかったっけ……?あの子の教育係も僕らの仕事なんだろ?あれがよその人間に向くとまずい。僕の方でしばらく引き取るよ」

 

「怪獣の子供引き取りますってか?」

 

「僕、野球選手じゃないけどな――それが務めだろ。助けられる人間は全員助けたいし、助けられなくてもましにはしたい」

 

「「まあ、それはそう。」」

 

 それが、彼らの共通認識だ。

 

 あの日、三人で光の巨人の再放送を見た、あの日からずっと、彼らはそうやって生きてきた。

 

 これからも、彼はそうして生きていくつもりだし、そうやって生きていけることを誇りに思っている。

 

 だから――。

 

「そろそろ止めてやるか……」

 

 ――ひとまず、後輩を止めてその従妹を救い出すとしよう。

 

「うーん……追い出されへんかったなぁ……」

 

「だめだったね。」

 

 数時間後。

 

 社長室にて、こってりと絞られ肩を落とした二人の少女は、とぼとぼと会社の長い廊下を歩く。

 

 黒土灯、黒土御影。

 

 世にも珍しい『双子の勇者』であり、この会社の社長令嬢である二人は考える。

 

「あの三人、どないしたら追い出せるんやろなぁ」

 

「うーん……いっそ操っちゃうとか。」

 

「うちのも御影のも、ヒーロー相手やと効かんやん。」

 

「むー……」

 

 昼、ヒーロー活動にやる気を見せた『ふり』をしていたことなどなかったかのように、二人は三人のヒーローを追い出す算段を立てる。

 

「姉ちゃんもいけずやなぁ。うちらがおったら劣化版とかいらへんのに。」

 

「ね。幼馴染とかいってお姉ちゃんに取り入るなんて……許せない!」

 

「なー。姉ちゃんの考えは立派やけど、何もうちの会社に入れんでもええやん?」

 

 それが二人の本音だ。

 

 勇者の暴虐に対して、怒っていないわけではない。

 

 ひどいことだと思うし、罰されるべきだとも思う。

 

 だが――同時に、それはどこまでいっても対岸の火事だ。

 

 進んで是正しようとは思わない。被害に遭った人を見たら、かわいそうだなとは思うが、それを変えていきたいとは思えない。

 

 言ってしまえば、二人にとって世界や人命などどうでもいいのだ。

 

 彼女たちに大事なのは――家族、姉……正確には従妹だとよく言われるが、姉は姉だ。そして母と父だけだ。

 

 だから、本当にうれしかったのだ。姉が、自分たちの家族の近くに来てくれたから。

 

 そこに多少の打算があろうとかまわない。一緒にいられるならそれでいい。

 

 別の世界に導かれるなどまっぴらだ。私たちを巻き込まないでほしい。

 

 それが、彼女たちの本音だ。

 

 あの二人の考えに賛同したふりをしたのも、それが理由だ。

 

 そうすることで、あの二人に褒めてほしかったから。

 

 だというのに……。

 

「お邪魔虫まで入ってきたのは誤算やったなぁ。」

 

「だよねー……むー……」

 

 かわいらしい顔を歪めて、二人は考える――この『家族の城』を取り戻すための、新しい計画を。

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