特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第90話:資本主義の力

 ――資本主義の暴力というものは、得てして物理的な暴力よりもタチが悪い。

 

 翌朝。扇の膝という、この世で最も衝撃吸収性に優れた――と本人が主張する――クッションの上で数時間ぶりの仮眠から目覚めた白雲ゆかりは、目の前の光景に絶句していた。

 

 昨日まで、エナジードリンクの空き缶とプリント基板の残骸でスラム街のようになっていた特撮班の専用ラボが、文字通り『侵略』されていたのだ。

 

「……おはようございます、ゆかり様。よく眠れましたか?」

 

 整然と並べられた見慣れぬ最新鋭のサーバー群。壁一面を覆う巨大な解析モニター。そして、部屋の隅に鎮座する、黒土製薬の予算では絶対に稟議が通らない超高精度の金属3Dプリンター。

 

 その中央で、白衣ではなく仕立ての良いワンピース姿の笹藤麗華が、優雅に紅茶を啜っていた。その後ろには、徳光電産のロゴが入った作業着を着た男たちが、無言で機材のセッティングを素早く進めている。

 

「おはよう……ございます。えっと、ここは黒土製薬の地下ですよね……?」

 

「ええ。我が徳光電産が誇る技術チームに、一晩で環境を『最適化』させていただきました。ゆかり様には、最高の環境で私の専用装備を最終調整していただかなくてはなりませんから」

 

「一晩でこれやったんですか……? 大手企業の機動力、怖っ……」

 

「お目覚めですか、ゆかりさん。いやはや、実に素晴らしい朝ですよ」

 

 モニターの裏から顔を出した天塚が、かつてないほど目を輝かせていた。

 

 稀代の天才科学者である彼にとって、ここはまさにおもちゃ箱だろう。

 

「見てくださいこの演算能力、やっぱりお金持ちは違いますね、僕の自作装置の40%のものもありますよ、これで、僕のPCを別の処理に回せますよ、いやぁ、スポンサー様々ですねぇ」

 

「天才が資本に屈してる……」

 

「いいかい、ゆかり、あれはね、資本に屈したのではない――「あー僕のより性能低いけど、何台かあれば代替品にはなるし、搾れるときに絞り取っとこ、どうせすぐ型落ちするし。」と思っておる顔じゃよ。ああして金を出させて浮いた時間で新しい装置を開発して、開発元に売り込み、パテントをせしめるのがやつのやり口なのじゃ。」

 

「悪人……」

 

「おう、いい度胸だなぁリーダー、君んちの屋根の修理費について言及した方が良いですかぁ?」

 

「よそうともよ、きみとはたたかいたくない。」

 

 全面降伏をきたした先輩を見つめつつ、ゆかりはもうひと眠りしたい衝動を必死に抑えていた。

 

「……あんまり、勝手に設備変えられると困るんですよね、使い慣れてない機材だと実験とか時間かかるんですが。」

 

「あら、そこは滞りなく、これまで使用されていた代物の最新型ですから、使用感は変わらないと聞いていますわ。」

 

「内部データとか、勝手に見られたり取られると困るんですけど。」

 

「そっちは天塚が確保した、機材が入れ替わった以外は基本変わりないようにしてあるらしいよ――天塚が。」

 

『……あれ、思い入れあるんですよね。』

 

『と、思ったから、天塚の研究所に運ばせました――僕ほどじゃないにせよ、器物の記憶が見られる勇者やヒーローもいるんだ、下手なことはさせんさ。』

 

「……エッチですねぇ、先輩。」

 

「ええ……?」

 

 すりすりと、自分の思い人のふくよかな腹部に顔をこすりつける――まったく、いつもいつも完璧な対策をしてくるこの男は何なのだろう、愛してる。

 

「それで――私のコピュラの使用についてなのですが。」

 

「む?ああ、そうでしたね、細かい説明は今日に回したんでしたか。いいでしょう、トランサーの内部構造がいじれない以上、アプローチを変えるしかありませんからね。『アンプリフィカートゥス・コピュラ』で妖霊の出力を限界まで引き上げ、後付けの『外部装甲』を作製する力に回すんです。」

 

 ゆかりがターンッ、とエンターキーを叩く音に合わせ、ホログラムが展開される。

 

「一言で言えば、金に物を言わせた『外骨格《エクソスケルトン》』ですね。よそのお嬢様に傷がつかないように細心の注意を払って作りました――その分、単純なエネルギーゲインは一般のヒーローよりもちょい高めくらいで調整しています。先輩たちと同じ出力なんて、素人には使えませんからね。」

 

 眠そうな目でそう告げるゆかりに、令嬢の顔はどこか不満げだ。

 

「これでも、訓練は一通りこなしているのですが……」

 

「お嬢様は、私の現役時代の過酷なメニューを泣き言一つ言わずにこなされました。肉体的な基礎は、すでに一般的なヒーローを凌駕しております。」

 

 麗華の一言を裏付けるかのように語る雨傘の一言に、しかし、ゆかりはひるみもしない。

 

「でも、実際に戦闘したことはないんでしょう?なら、一旦はこれで出てみなさい。それで不満なら、その時改編案を聞きましょう。コピュラを取り換えるわけでもないのですから、いつだって調整は効きますよ。」

 

 そんな挑発的な態度に、令嬢が何を思ったのかは定かではない。

 

 ただ、どこか挑戦的な目を光らせて「わかりました」と答えたことだけは確かだった。

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