特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第91話:初仕事

「――なんや、その無駄にゴテゴテした格好。戦う気あんの?」

 

 呆れ半分、挑発半分の灯の声が、夜のオフィス街に響き渡った。

 

 彼女の視線の先には、車の車内で何ともおかしな扮装の女がいた。

 

 それは確かに『外骨格《エクソスケルトン》』と呼ぶべき代物だった。

 

 カーボンナノチューブや軽量合金で構成されたフレームが、彼女の華奢な四肢を覆い、人工の筋肉として機能している。

 

 だが、その外装デザインは、最新鋭の科学兵器というよりは、中世のファンタジーRPGから抜け出してきた『装飾過多な姫騎士』そのものだった。

 

 白銀をベースに、要所に徳光電産のコーポレートカラーである深い群青と金色のラインがあしらわれている。

 

 肩や腰のアーマーはフリルを模した多層構造になっており、頭部にはティアラのような優雅なセンサーユニット。

 

 胸元には、誇らしげに『トランサー』が埋め込まれ、右の手には、自身の身長ほどもある巨大な白銀の突撃槍が握られていた。

 

「私もこれは過剰だと思うのですが……ゆかりさんがこれで戦場に出ろというもので。」

 

 麗華は典雅に腕を振り、優雅に微笑んだ。

 

「あーまあ姉ちゃんが言うんやったらそれでええんやろうなぁ、おん、了解。いくでー」

 

 灯が鼻を鳴らし、真紅のバルーンスカートを翻す。隣では、サファイアブルーのケープを纏った御影が、無言で周囲の空間を警戒していた。

 

 日曜朝の魔法少女が2人と、装飾過多なメカ姫騎士が1人。

 

 傍から見れば、どこぞのコスプレイベントかテーマパークのパレードにしか見えないカオスな光景だが――彼女たちがここにいる理由は、紛れもなく「実戦」だった。

 

『――さて、今回君たちに行ってもらうのは魔物の出現が確認された地区です。まあ、たいがいはほかの社の人間が始末しましたが、逃げ出した個体が数体います、それを始末してください。』

 

 インカムから、天塚の冷静なオペレートが響く。

 

「何や、ずいぶん軽い仕事やん?」

 

『新人さんもいますしねぇ、後、単純に昨日でかいのを灯さんが始末したので、今日はそれほどでかいのが来なかったのでしょう。』

 

「ふっふっふー、灯ちゃんもチョットしたもんやろ?」

 

『ええ、初期に比べれば雲泥の差ですよ――今日は電柱、切らないでくださいね。』

 

「……そこは、ほら、あるやん?」

 

 視線を逸らす――いや、だって、敵の背後にある電柱が悪いのだ、うん、そうだと思う。

 

「――逃げたんがちっこい奴やなかったらいける!」

 

『逃げた個体、ゴブリンとオークの混合らしいですよ。』

 

「――オークは任せぇ!」

 

 ゴブリンは無理だ、たぶん、背後の物も一緒に切る。

 

『――と、言うわけですので、ゴブリンの始末はお願いしますね麗華さん。』

 

「ええ、もちろんです――オークも私が始末してもいいのですが。」

 

『できそうなら戦ってもらっても構いませんが――まあ、そこは現地で灯さん、御影さんと相談してください――初戦闘でわからない点もあるでしょうが、自ら襲い掛かるようなまねはしないようにしてください。避難自体は済んでいるそうですが、どこで何があるかはわからないものですから。』

 

「心得ておりますわ。」

 

 涼やかな声で応じ、麗華はティアラ型のセンサーユニットに指を触れた。

 

 視界に展開されたARディスプレイが、暗闇に潜む熱源と魔力反応を的確に拾い上げる。

 

「前方、300メートル先の資材置き場。オークが2体、ゴブリンが6体……どうやら、逃げ遅れた同胞と合流して身を潜めているようですわね。」

 

「お、便利なもんつけとるやん。」

 

「大企業の財力と、白雲様の技術の結晶ですから。さあ、参りましょうか。」

 

 3人の少女たちが、音もなく夜の街を駆ける。

 

 装飾過多な姫騎士の姿をした麗華だが、その動きは外骨格の適切なアシストにより、勇者である黒土姉妹に遅れをとらない。

 

 魔物は基本的に生体反応を発さない生き物だ――が、体温はある。

 

 それによる探知は、この世界の人間に許された数少ない優位性と言ってもよかった。

 

 雨傘の過酷な訓練に耐え抜いた基礎体力が、ここでも活きていた。

 

 資材置き場に到着すると、そこには報告通り、薄汚れた緑色の肌をした魔物たちが群れていた。

 

「グルァァッ!」

 

 いち早くこちらに気づいたオークが、丸太のように太い腕で巨大な棍棒を振り上げる。それに呼応して、ゴブリンたちが下品な奇声を上げながら一斉に飛び出してきた。

 

「――ゴブリンは私が。」

 

 麗華が静かに前に出た。

 

 右手で自身の身長ほどもある白銀の突撃槍を構え、左手で胸元のトランサーに意識を向ける。

 

「ゆかりさんが組み込んでくださった私のコピュラ……『繁茂の影に潜む者たちの長』から零れ落ちた、『朽ちた樹海の生霊』の力。見せてもらいましょう。」

 

 ミサイルも、レーザーもない。

 

 資本主義の暴力で作り上げられた外骨格だが、その内燃機関として稼働しているのは、極めて原初的で神秘的な『自然』の力だった。

 

 麗華が白銀の突撃槍を、無機質なアスファルトの地面にドンッ!と突き立てる。

 

 瞬間、彼女のフリルを模した多層アーマーの隙間から、淡い緑色の魔力光が溢れ出した。

 

 メキメキメキッ!

 

 突撃槍の切っ先を起点にして、アスファルトがひび割れる。

 

 そこから爆発的な速度で芽吹いたのは、鋼鉄のような強度を持った無数の「蔦」と「木の根」だった。

 

「ギ、ギャァッ!?」

 

 4方8方から迫っていたゴブリンたちの足首に、意思を持った大蛇のように蔦が絡みつく。

 

 彼らが粗末な刃物で蔦を切り裂こうとするが、外骨格のブーストと妖霊の力で強化された植物は、刃を容易く弾き返した。

 

 そのまま蔦はゴブリンたちの全身を簀巻きにし、ギリギリと締め上げる。骨が軋む不快な音が響いたかと思えば、太い木の根が槍となって彼らの胸を正確に貫いた。

 

「周囲の建造物を傷つけずに制圧するには、これが一番効率的ですわね。」

 

 血に濡れた植物を即座に枯死させ、塵となって消える魔物たちを見下ろしながら、麗華は優雅に微笑んだ。

 

 飛び道具がなくとも、彼女自身が『移動する要塞』にして『樹海の主』なのだ。

 

「へー、やるやん!」

 

 灯がオークの首を刎ねつつ感心したように声を上げる。

 

 なるほど、新しい同僚として最低限の力は持っているらしい。

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