特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第96話:おじさん調査中

「――俺が受け止めたベアリングの解析はー?」

 

「終わってますよ――まあ、ただのパチ玉でしたけど。」

 

「まあだろうなぁ、強度もなかったし……指紋は?」

 

「球体に指紋ってつきにくいんですよねぇ。」

 

「つくづく役に立たんなぁ科学。」

 

「相手が超人だとねぇ。」

 

 呆れたように肩をすくめる天塚に、七星は背もたれに体重を預けた。

 

 手掛かりがない。

 

 あの鳥の怪人が放ったベアリングは、ただの市販品。足のつかない日用品を凶器に変えられたのでは、現代科学の鑑識技術も形無しだ。

 

さて、となるとどうするか――

 

「扇は?」

 

「別口調査中、君の『僕』はどうです?」

 

「調査中。」

 

「ああ、御影たちが調べてる件か。だが、結論から言うと、学校で出回ってるアレは『H.A.D』じゃないんだろ?」

 

 パイプ椅子をギシッと鳴らして背もたれに体重を預けながら、七星が吐き捨てるように言った。

 

「ええ、おそらくは。売り子は動けないはずですし、何より――まだ、あの学校には怪人が出ていない。」

 

これまでの怪人の証言からして、薬は服用後数時間以内に怪人化を引き起こすはずだ、だというのに、あの学校において怪人の目撃情報はない。

 

「御影さんたちの監視データや対象者の行動パターンを見る限り、魔力的な変異の兆候はゼロ。あれはただの……地球製のスマートドラッグか、違法な興奮剤の類、さもなければ――」

 

「異世界原産の別の薬か、効果的に考えて。」

 

「模造品――とまでは言いませんが、そういったものである可能性は十分にあるでしょうね、勇者なら、H.A.Dほどではなくとも能力を向上させる薬ぐらいは作れるか。」

 

実際、海外においてそういった事件があったといううわさも聞き及んでいる。

 

「一時的に集中力や身体能力をブーストしているだけで、細胞レベルの書き換えなんて高度な現象は起きていませんが……その作動機序が尋常ならざるものである可能性は十分にあります。血液検査できればいいんですけどねぇ。」

 

「高校生捕まえて無理やり血ぃ抜くわけにはいかねぇだろ。傷害罪だぞ、倫理的に考えて。」

「ええ、わかっていますよ。だからこうして、もどかしい思いをしながらモニターを眺めているんじゃないですか。御影さんたちに『対象者の血液を採取してきてください』なんて頼むわけにもいきませんしねぇ。」

 天塚は残念そうに肩をすくめ、手元のタブレット端末を指で弾いた。

「それにしても、解せませんね。」

「何がだ?」

 

「あの風紀委員長の行動ですよ。もし彼がその『劣化版の薬』の流通に関わっている、あるいは元締めであるならば、なぜわざわざ勇者である灯さんや御影さんに調査を依頼したのか。自分で自分の首を絞めるような真似をする理由がわかりません。」

 

 天塚の指摘はもっともだった。

 

 勇者は圧倒的な武力だ。機嫌を損ねれば即座に命の危険に晒される相手に、自ら関わりを持つ裏社会の人間などいない。

 

「ただの正義感の暴走……ってわけじゃねぇんだろ? あの詳細すぎるリストの作り込みからして。」

 

「ええ。となると、目的は2つ考えられます。1つは、勇者を『学校という安全な箱庭』に縛り付けておくための陽動。」

 

「ないな、妖霊が絡んでるなら俺らのことは知ってるはずだ、灯たちに話を持っていく必要がないだろ。」

 

「はい。だからこそ不可解なんです。そしてもう1つの可能性……彼自身は売人ではなく、ただの『観察者』であり、勇者がどう動くか、あるいは薬の服用者が勇者相手にどこまで食い下がれるかの『データ』を取りたがっている。」

 

 天塚の冷たい推論に、七星は嫌な顔をした。

 

「そんなことできんだろ、怪人化してるんならともかく、ただ能力が上がっただけの人間じゃヒーローにだって勝てんぞ。」

 

「そうなんですよねぇ、となると、第3の可能性があることになりますが――これがまたわからない。」

 

「大天才様が匙を投げるか?」

 

 パイプ椅子をギシッと鳴らし、七星が呆れたように鼻を鳴らす。

 

「情報が足りないんですよ。ただ、最悪のケースを想定するなら……あの学校で出回っている薬は、H.A.Dを投与するための『土壌作り』なのかもしれません」

 

「土壌作り?」

 

「ええ。先日のカニ怪人……竹林くんの例を見ても分かる通り、H.A.Dは強力すぎるがゆえに精神を急激に崩壊させ、最終的には肉体も自壊するリスクを抱えています。ならば、まずはあのスマートドラッグのようなもので肉体と精神を『慣らし』、コンプレックスや欲望を時間をかけて肥大化させる。そして、完全に熟したところで本命を投与する」

 

 天塚は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、冷たい声で続けた。

 

「風紀委員長が勇者をけしかけたのも、ターゲットに適度なストレスと危機感を与え、その『育成』を促すための肥料代わり……そう考えれば、理にかなっています」

 

「悪趣味極まりねぇな。育成ゲームでもやってるつもりかよ。Z世代じゃあるまいし。」

 

 もしその仮説が正しいなら、学園の生徒たちはただの実験動物として飼い殺されていることになる。

 

「ええ、反吐が出ます。だからこそ、急がなければならない……扇くんの『別口調査』はどこまで進んでいるんでしょうね。」

 

「俺も超自然的能力ではあるけどな、あいつは毛色が違うからよくわからん。」

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