特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第97話:超能力捜査

 ――正義の味方、という3人組について語るとき、話題に上がりにくい人物がいる。

 

 天塚新、言わずと知れた大天才、正義の味方という組織を知らずとも、彼の名を知る者は多い。

 

 七星一也、超人の運動能力を持つ男、彼もまた、運動能力の高さから、非公式ながら十種競技の記録を塗り替えたとして、業界内においては陰ることなき名声を持つ。

 

 彼ら2人に対して、扇雄介という人物はどうだろうか。

 

 確かに、彼は『ヒーロー内救助者数トップ』という枕詞はあるが、対外的には、その言葉のすごさがわからないことはよくあることだ。

 

 彼は『世間一般の尺度において』著名な記録を持たない。

 

 扇雄介という人物を大抵の人はそう評価する。

 

 そして、それは事実でもある。

 

 確かに、彼は公式に残る大記録を打ち立ててはいない。

 

 ただ、実のところ、彼にも1つ、他人に自慢できる記録があったりする。

 

 それは――

 

『……相変わらず、おかしなことしていますねぇ。』

 

「―――ん?ゆかり?」

 

『はーい、先輩のかわいいゆかりさんですよーとりあえず進捗報告です。』

 

「どした、なんかあった?」

 

『いえ、基本的には何も、どこの調査も行き詰まりです。』

 

「ふむ、となると、僕次第か。」

 

『ですねぇ、先輩はどうです、その『無響室』』

 

「まあ、悪くはないかな。」

 

 扇雄介が現在いるのは、黒土製薬の地下深く、特殊な研究テストのために作られた『無響室』の中だった。

 

 壁、床、天井。そのすべてが音を吸収する楔形の吸音材でびっしりと覆われ、外部からの音や電磁波を文字通り「ゼロ」に遮断する極限の密室。

 

 ここでは、自分の呼吸音、心臓の鼓動、果ては血液が血管を流れる音すら爆音のように響く。

 

 一般人であれば、わずか1時間で幻聴を聞き、発狂の危機に瀕するとされる精神的拷問部屋。

 

 ――彼は公式にこの部屋に入った最大日数の記録を持つ。

 

 その記録たるや、実に4日に及ぶ。

 

 もちろん、飲まず食わず、一睡もせずに結跏趺坐を組み続けた上でのことだ。

 

 外部からの刺激が一切絶たれた空間では、人間は自らの脳が作り出す幻覚に押し潰される。だが、20年にわたり常軌を逸した精神修業を積み、自己暗示によって生理機能すら支配する扇にとって、この絶対的な静寂はむしろ『快適』ですらあった。

 

 日常の喧騒というノイズを完全に遮断することで、彼の超能力――脳の枠をはみ出したψ意識場は、その真価を発揮する。

 

『……4日って、人間の限界超えてません?』

 

「ふふ、自己暗示で『僕はさっきフルコースを食べて8時間たっぷり寝た』と思い込ませれば、脳が勝手に体を維持してくれるのさ。」

 

「ただ……思ったより、時間がかかりそうだけどねぇ。」

『と、言いますと?』

 

 インカム越しに聞こえるゆかりの声に、扇は小さく息を吐き出す。

 

「敵さんも、馬鹿じゃないってことさ。こっちが精神的に探りを入れてくることくらい、向こうは百も承知らしい。ガチガチに防衛線を張られとるよ」

 

 物理的な捜査が行き詰まっている以上、頼みの綱は扇の超能力――ψ意識場を通じたサイコメトリーやテレパシーによる痕跡の追跡だった。

 

 だが、その広大で不可視のネットワークの海において、敵は尋常ではない備えをしていた。

 

「薬の残滓から、元々の出所や気配を辿ろうとするだろ? そうすると、途中までは行けるんだが……核心に近づいた途端、急に全く関係ない人間の『どす黒い殺意』とか『狂人の被害妄想』みたいな、ノイズの塊に接続させられるんだ」

 

『……精神的なダミー、ですか?』

 

「そういうこと。ただのダミーならいいんだが、質が悪いことにトラップ付きでね。うっかりその思考の渦に同調(シンクロ)しちまうと、こっちの精神が持っていかれる。最悪、脳味噌が焼き切れるか、逆探知されて呪いみたいなのを撃ち込まれる仕掛けになっているみたいだ」

 

 扇の言葉は飄々としているが、彼が今行っているのは、目隠しをしたまま見えない地雷原を歩き、1本1本爆弾のコードを切断していくような、極限の精神作業だった。

 

 だからこそ、物理的な五感を完全に遮断できるこの無響室に籠もる必要があったのだ。

 

「ので、ちょっと捜査手法を変えました。」

 

『ほう。』

 

「予知であの女と怪人の出張ってきそうなタイミングを探ってる、2人にそう言っといてくれ。」

 

『了解です。遅ればせながら、先輩の予知って、変身してないとブレが大きいって言ってませんでしたっけ?』

 

「だから、この環境が必要なのさ。」

 

 扇は暗闇の中で小さく笑った。

 

「五感を潰して、精神の出力を限界まで研ぎ澄ませば、生身でも多少は未来の視界が広がる。過去や現状を追うとあのトラップに引っかかるなら、まだ確定していない『これから起きる事象』を先回りして覗き見るしかない。」

 

『網を張って待つ、ということですか。』

 

「いぇぁ、それぐらいしかあの女に干渉されん手掛かりもないしなぁ。」

 

 とはいえ、それは広大な砂漠の中から特定の砂粒1つを見つけ出すような気の遠くなる作業だ。

 

 無数に枝分かれする未来の可能性から、ノイズを弾き、本命のルートだけを抽出する。だからこそ、外界からの刺激を完全に遮断するこの無響室でなければならなかった。

 

「向こうも傷を癒しながら裏でシステムを回してるんだ、絶対にどこかで綻びが出る。その針の穴に糸を通すようなタイミングを、僕が見つけるさ。」

 

『わかりました。天塚先輩と七星先輩には伝えておきます……でも、本当に無理はしないでくださいよ?』

 

「わかっています。」

 

 言いながら思う――無理しなくてもいいのなら、無理などしないのだが。と。

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