特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第98話:いやな等価交換

 「――と、言うわけで結果はっぴょー」

 

 「どんどんぱふぱふー……」

 

 「……口で言ってて悲しくなりません?」

 

 「虚しさの奴なら、いつだかの山で死んだよ。」

 

 「いい奴だったが、修行の旅に邪魔だったからね、死んでもらった……」

 

 「悲しい事故でしたね……僕らも彼のために懸命に生きていかねばなりません。」

 

 「いや、いいんならいいんですけど……」

 

 心底呆れ返ったようにこぼしたのは、白雲ゆかりだった。

 

 いつもの特撮班ラボ。エナジードリンクの空き缶がピラミッドを形成する無秩序なデスクの向こうで、彼女は深いクマを作った目を細めている。

 

 その視線の先には、4日間に及ぶ無響室での絶対的孤絶から帰還したばかりの扇雄介が、パイプ椅子にふんぞり返っていた。

 

 音のない空間で、4日間。

 

 普通の人間ならとうに精神が崩壊し、脱水症状で病院送りになっているはずの期間だ。

 

「相も変わらず、人間じゃない精神構造してますねぇ。」

 

「そりゃまあ、そうでもないと、超能力者なんてなれんし。」

 

 至極当然のように告げるその一言には、なるほど、まったくその通りだとしか言えない。

 

 考えてもみてほしい――超生物の影響で、人間を外れた能力を持つ勇者も、あまたの戦場を駆け抜けてきたヒーローも、強化薬によって体を超人に作り替える天才も肉体の限界を超えて人体を装甲に変える存在でさえ、超能力には至っていない。

 

 即ち、『彼らをもってしてなお、超能力の扉は開けない』のだ。

 

 天塚にせよ、七星にせよ、超能力に匹敵する力を生み出すことも、超能力としか思えない力を発揮することもできるが、それは『超能力ではない』のだ、その部分だけはわからない。

 

「で?穴倉に潜って未来みて、何がわかったんだ?」

 

「ん?そりゃきみ、未来の大惨事さ。」

 

「最近精度落ちてますからね、頑張ってくださいよー」

 

 からかうような友人の一言に、扇は苦笑する。

 

 否定はしない、確かに、近頃、彼の非変身時の予知能力には疑問が残る。

 

 怪人の襲来は予知できなかったし、妖霊のことも完璧には分からなかった。言われても仕方がない。

 

 が、それにはそれなりの理由というものがあるのだ。

 

「仕方ないだろ、変身できるようになって、能力が爆発的に増しましたから、通常の体だと持て余すんだよ。」

 

 ゆえに、明確な未来が見えない。

 

 強すぎる力が、彼の欠点だった。

 

「まあ、それはわかっているけども――何見た?」

 

「――少なくとも、僕らはあいつの根城を特定しなかったらしい。」

 

「特定しなかった? 出来なかったんじゃなくてか?」

 

 七星が怪訝な顔で聞き返す。

 

「――どうも、向こうから打って出る気らしい。」

 

「――ほう?」

 

「向こうからこっちに接触してくると?」

 

「そうなるな。」

 

 それは予想外の行動だ、あの女からすれば自分は避けたい存在のはずだが――

 

「――ああ、いや、そういうことか。」

 

 そこまで考えて、天啓のように天塚の脳裏に輝くのはある1つの可能性だ。

 

「お?なんじゃい天才、何かわかったなら共有するだろ、友人のよしみで。」

 

「そうですよ、2人だけで納得しないでください、天塚先輩の恥ずかしい写真を流出させますよ。」

 

「え、なんで僕?」

 

「だってあなただけがわかってるでしょう。」

 

「えぇ……いや、まあ、いいですけど――誰が来るんです?」

 

「――少なくとも、僕らの知らないやつ。」

 

 扇がパイプ椅子の背もたれから身を起こし、深く息を吐き出した。

 

 その言葉に、天塚は「やはり」とばかりに眼鏡のブリッジを押し上げる。

 

「え、どういうことですか? 天塚先輩、解説プリーズ」

 

 ゆかりがエナジードリンクの空き缶を弄りながら首を傾げた。

 

「いや、まあ、考えれば当然のことなんですが……要するにね、『今、ここにいる妖霊も犯罪者、もしくは抵抗勢力のいる存在なんじゃないか』という話ですよ。」

 

「犯罪者? それか抵抗勢力?」

 

 ゆかりが目をパチクリとさせる。無理もない、スケールが急に宇宙規模――いや、次元規模に跳ね上がったのだ。

 

「ええ。考えてもみてください。妖霊たちは本来、物理的な肉体を持たず、この次元には侵入できないと勇者たちに語っていました。それが彼らの『世界に対する絶対のルール』だったはずです。」

 

 天塚は人差し指を立てて、淡々と説明を続ける。

 

「これは生物的な欠点ですが、あの真紅のスーツの女はそのルールを破り、何らかの方法で肉体を得て直接干渉してきている。もしこれが妖霊という種族全体の総意による侵略作戦なら、もっと大規模に、それこそ軍隊を送り込んでくるか、H.A.Dを空中散布でもするはずです。」

 

「だが、現実は違うな」

 

 七星が腕組みをして頷いた。

 

「コソコソとダークウェブで薬を売り捌いて、一部の人間を怪人化させてデータ取りだ。まるで、誰かの目を盗んで隠れながら実験を繰り返しているみてぇな手口だ」

 

「その通りです。彼女の行動は、正規の軍隊というよりは、限られたリソースで戦力をかき集めているゲリラか、テロリストのそれに近い。つまり、彼女は妖霊の社会から見ても『はぐれ者』や『犯罪者』の類である可能性が高い。」

 

 天塚の推論に、扇も深く頷く。

 

「なるほど、だから『別のやつ』が接触してくるわけだ。あの女を追っている、向こうの世界の警察機関か、あるいは敵対する組織のエージェントか。」

 

「宇宙刑事の登場ってわけですか。胸熱ですねぇ」

 

 ゆかりが少しだけ楽しそうに声を上げるが、天塚の表情は硬いままだった。

 

「それが善良な存在なら、それでいいんですけどねぇ、別口の悪の組織で周りを気にせず暴れるとなると……」

 

 困りものだ。

 

「敵が2人に増えたのか……こっちの負担が減ったのか……」

 

「僕が見た限りでは敵じゃない、が、僕も世界の終わりまで見えるわけじゃないからな。」

 

 そうなってくると、警戒は必須だ。

 

 手掛かりは手に入ったが、問題が1つ増えた。

 

「いやな等価交換……」

 

 ぽつりと忌々しげにこぼした七星の一言が、この状況を物語っていた。

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